57話 お金をかけて準備すると無駄になることって多いよね
「というわけで〜。あたちは知恵の儀式をするから、皆は休んでてね」
アキはそう伝えると、ポテポテと自室に入る。知恵の儀式、すなわち『ガチャ』である。幼女の力を再び使うときが来たのだ。謎の厨二病とか、マヨネーズ王に負けるわけにはいかない。赤ん坊のようにか弱い幼女だけど、他の転生者やプトレマイオスなどの敵に手持ちのカードを使って、知恵と勇気とガチャで打ち勝つのだ。ガチャのお陰で文字通りカードを増やせるので、なんとか対抗できるように頑張るだけだ。
「魔法陣作成。たーあーれー、とやー。儀式魔法発動。もーのーよーいーのー!」
新たなるガチャの儀式を創り上げたアキはちっこい体を丸めて、似非魔法陣を全身を使って描くとコロコロと転がる。どう見ても描くのではなく転がっているが、幼女は小さいのでバランスを取るのが難しいのだ。
既に心は空。空っぽの状態なり。ガチャっていう言葉自体思い出せないよと、無心なる幼女は気合いを入れて、ガチャコマンドを押す。
「うぉぉぉ、たっぷりガチャポイントはあるから、今回はスペシャルガチャオール!」
物欲のない仏に解脱したかもしれない幼女は雄叫びをあげて、プルプルと身体を震わせちゃう。無心だけど、お祈りしてます。きっと良いのが出るよ。だって物欲ゼロだもん! 頼む、頼むよ!
ポップなBGMと共に天から光が注ぎ、色が変わっていく。白から始まり、青、黄、赤、金……そ、そして、ゼブラへと! 残念ながら虹色までは昇格しなかったが、それでもレジェンドレアだ。幼女はおててを組むと神に感謝の念を送る。
「ありがとうございます、神よ。あたちは信じてまちた。きっと良いのが出るって」
涙を流し感動する幼女の前に、カードが回転しながら降りてくる。そのカードを手にしてアキはなにかなとワクワクと読み、段々と目が死んだように変わっていく。
「なにこれ…………」
カードに描かれているのは長細い金属製のメカニカルな機械だった。なんかお菓子とか自動で大量に作れる業務用の機械っぽい。
『LR:錬金工場:エクストラ:錬金術3までの物を錬金釜の百倍作れて、必要素材は半分となる』
「ぬぐぐぐ………た、たしかに凄い。ゲームでも、見たことのなかったアイテムだ。凄いけど………ぐわぁー、なんで錬金釜を買い占めてから出るんだよ。どうしてこのタイミングなの。幼女を虐めてるだろ、神め!」
嬉しいが悔しい。悔しいけど嬉しい。相反する心に悶えて、涙目になっちゃう幼女だ。これがあるなら買い占めなんかやらなかったんだよ。
「ぬぐぐぐ、現在のステータス!」
アキ・アスクレピオス
職業:カードマスター
ガチャポイント:58500
固有スキル:悪逆非道、偽人魚変身:水術3
ジョブスロット:ファントムマスター:幻術10
攻撃力:400
防御力:700
装備スロット:鑑定眼鏡
仲間スロット:ヒャッハー山賊団
仲間スロット:魔ーモット
エクストラスロット:普通の錬金釜:錬金術2
「普通の錬金釜を錬金工場にチェンジ!」
嫌な予感がするため、すぐに錬金工場を出現させると、結構広い自室限界まで占める大きな機械がドスンと出現した。そこは予想通りなので、すぐに錬金工場の性能を試して━━━またもや子猫が唸るように幼女は声を出す。
『低位ポーション:蒸留水50、薬草100』
予想通りの表記がされたので、頭がクラクラとしてしまう。低位ポーションは本来は蒸留水1、薬草2個で1個作れるのだ。それなのに50倍の素材を要求されている。
「やっぱり! 百倍作れるけど、それ以下はないんだ。最低製作個数が百個なんだ! つ、使いづらい! いちいち百個作ってどうするんだよ! もぉ~、うんえいめー!」
素材を集めるのも大変だが、作った後に捌くのも大変だ。絶対に持て余す。
これが普通の転生者なら、たくさんポーションを作って、『俺なんかやっちゃいました?』と、冒険者ギルドに大量に納めて驚かれるパターンだ。しかし、この幼女は普通ではない。悪役令息ルックスYなのだ。
「計画を早める必要があるかな………。とりあえずは予定通りにするか」
自分のほっぺをぷにっとつつくと、アキはすぐに気を取り直し、タイチたちを呼ぶ。このカードが手に入った以上、もう他の錬金釜は必要ない。皆には言わなかった3つ目の目的を遂行するために活動するべきだろう。
「タイチ、お出かけするから準備して! ケイ、アタチの服を用意して! お着替えパターンはルックスDでよろしく!」
「えー、あれですかい? 俺は嫌なんですけどわかりました」
「えっと、これとこれと、これですね。全部用意できます」
思いついたら即実行のアキはさっさとお着替えをして、タイチを連れてお出かけするのであった。
━━━目指すは冒険者ギルドだ。
◇
王都の冒険者ギルドは賑やかだ。さすがは王国一の人口の街であり、周囲には山あり谷あり山河あり、森林も平原もある。もちろん魔物も強弱含めて多く彷徨いて、森林深くや山には古代の遺跡やダンジョンが眠る。風水を考えて都を作ったからだ。ゲーム的に言うと、たくさんのイベントを起こしやすいため。
そのため、冒険者への依頼も多数あり、しっかりとした装備で身を包むベテランの戦士から、布の服に棍棒だけの貧相な装備の農家の次男や三男などの村の子供たちなど、多くの人々が訪れている。
アキも冒険者ギルドに来るのは初めてだ。ゲームでは訪れていたが、建物の大きさが違った。やはりゲームだとデフォルメされていたのだろう。奥行きもあり、人も全然多いので、物珍しさが手伝ってキョロキョロしちゃう。
酒場と併設されており、酔っ払いの喧嘩上等の治安の悪い建物だ。受付嬢が何人もいて荒くれ者たちの対応をしている。一般人は中に入った途端に回れ右することは確実だった。
幼女は注目されるかと思いきや、意外や皆はちらりと見ると興味を無くす。中には珍しいと注目してくるものもいたが、それでも数分眺めてきて終わりだ。
「ふふふ、ルックスD作戦は成功でしゅね。あたちって本当に凄いや」
「ドワーフって、エルフと違って、意外と王都にはいやすからねぇ。鍛冶屋の3割はドワーフですぜ。それでも、お嬢は小さすぎますけど」
ルックスDモード。即ち付け髭と天然パーマのウィッグをつけて、アキは変装して冒険者ギルドに訪れていた。幻想変装で上書きしているからドワーフであっても、背が低い奴としか見えない。タイチの方は懐かしのヒゲモジャの革鎧に数打ち剣装備の貧相な戦士だ。
幼女が出歩いても、ドワーフならば疑われない上に、力も強く耐久力も高いドワーフは絡まれにくい。ナイスアイデアと自画自賛の幼女である。
「冒険者登録は無しで。掲示板で依頼を見るよ。薬草収集の依頼を探して。一番高額のやつね」
「さっそくセオリーを無視して行動するんですね。まぁ、驚かないですが」
転生者テンプレストーリーの冒険者登録をする気のないアキにタイチは苦笑いをするが、肩を竦めるだけに留める。だって冒険者になっても良いことないんだもん。
「うーん………。薬草採取ないですぜ。たぶんすぐになくなるんじゃないですかね?」
「マジかぁ………。そりゃ、食い詰めた子供たちが受けれる依頼だもんね。すぐになくなるわ」
現実の薬草採取依頼は、ゲームのように常駐ではなく、錬金術師の依頼となる。まぁ、薬草は枯れるし、たくさんあっても保管は無理なのだから当然といえば当然だった。それこそアスクレピオス領みたいに領主が支援をしなければ、薬草採取依頼はすぐになくなるだろう。
でも、不自然なところがある。他の依頼表で簡単な木材運搬とか、城壁直しとかの力仕事がたくさん余っているのだ。こんなに余るほどに仕事がたくさんあるのだろうかと、コテンと首を傾げる幼女だが、後ろの方で話す声に耳を向けて理解した。
「なぁ、アスクレピオス領都に行かないか? あそこならオラたちも食い扶持があるらしいぞ、自分の田畑も持てるとか噂を聞いたべ。王都は駄目だよ、宿屋代も稼げねぇ」
「でも、アスクレピオス領都に行くだけの旅費はねぇよ。………歩いていくか?」
「オラたちみたいな田舎から来たのは他にもいるべ。そいつらを集めて行こうじゃねぇか」
「そりゃ、ナイスアイデアだ。行くべ行くべ。大勢で向かえば魔物もなんとかできるべさ。からっけつになる前に向かうとするべさ」
「あんたら、アスクレピオス領都に行くべか? なら、おらたちも一緒に行っていいか?」
3人ほどの若者たちが話し合っており、その話を聞いた他の若者たちも話に加わり、外に出ていった。なるほど、王都に来る青年たちはほとんどが金稼ぎだ。王都で稼げると考えていたが、それよりも良い土地があるなら向かうだろう。
『お嬢、どうやら王都は雑用係はいないようですぜ』
『ま、依頼料銅貨3枚とか書いてあるからな。日雇い派遣の足元をみてるんだ。たいした影響はないからいいでしょ。でも、この激安ぶりを見ると、薬草採取も安そうだなぁ。誰かに酒でも奢って、相場を聞き込み………待って!』
掲示板に貼られていた1枚の依頼を目ざとく見つけて、アキは目を細めておやつの時間になったことに気づいたように可愛い顔を真剣な表情に変える。
(なんでもうこの依頼が掲示板に貼られてるんだ? これは共通ルートの依頼なのに! …………そうか、なんでかわからないけど、入学式が一ヶ月遅れたからだ! 時系列では発生していてもおかしくなかったのか!)
入学式が一ヶ月遅れたという謎現象のせいで授業は遅れたが外の事象は変わらなかったのだ。内容は簡単で『最近下水道内に鼠が増えてきたので退治して欲しい』というありがちな依頼だ。
しかしアキはこれがありがちな依頼ではないと知っている。これは共通ルートの『下水道に潜む悪夢』だ!
(ぬぐぐぐ、まだカストールを誘導する準備もできてないのに………いや、待てよ? これ、何組かの冒険者たちが失敗したとの経緯があり、簡単な依頼なのに依頼料が高いという設定があったはず。ゲームでの報酬は金貨50枚なのに、これは銀貨3枚だ。まだ、他の冒険者により失敗されていないのか)
ゲーム基準の報酬を思い出して、違和感をまったく覚えないポヤポヤ幼女は安すぎるねと、納得した。
(それなら、前調査として、あたちが調べておくか。依頼は魔物多しとギルドには報告すれば揉み潰すだろうし)
天才、天才かもしれない。それか金貨基準の報酬の認識をそろそろ変えた方がいいかもしれない幼女は、背すじを伸ばして爪先立ちで紙におててを伸ばし━━━。
「あ」
「え」
誰かと手が重なる。
顔を向けると、銀髪の少女が困った顔で立っていたのだった。




