最終話 ガチャは正義
アスクレピオス王都。かつてはアスクレピオス侯爵の領都であったが、謀略と殺戮を司る王ナツ・アスクレピオスによる策略で、王国が建国されたため、今は新王国の中心となっている。本人が聞いたら、嘘だと叫ぶだろうが、全部幼い娘がやったことだと訴えるかもしれないが、裁判官は「ゆーざいでしゅ」と閉廷のピコピコハンマーを鳴らすので、ナツ・アスクレピオスは歴史に残る天才と記されることとなる。
南大陸と海底王国ポセイドンの両方との貿易により、膨大な利益を得ており、その利益を貯めることなく各事業に注ぎ込んでいるため、今や王都は前アルマゲスト王国の王都よりも賑わっており、多くの人々が集まり活気を見せている。
その中で、少し通りより外れた場所にあるうらぶれた酒場で詩人が竪琴を奏でながら、英雄譚を歌っていた。
パチパチと暖炉の燃えている薪が音を立てて、荒くれ者たちが酒を飲み料理を楽しんでいる中で歌う詩人に、一人また一人と注目していく。
「ららら〜。それは闇の化身〜。邪悪なる者、その名はカストール。世界を滅ぼす者〜」
「冤罪っす! なんでカストールなんすっか!」
詩人の横で抗議をしている男がいたが、聞く耳を持たずに竪琴を激しくかき立てる。
「邪神カストールを倒すのは、聖なる獣マーモットを連れた聖女シィ〜。美しき聖女の聖なる力〜」
「ふわぁい、聖女でーす。聖女なのでエールもう一杯くださいぃ」
テーブルに肘をつけた美女がにへらと笑い、エールを一気飲みする。その様子を気にすることもなく、詩人はますます声量をあげる。
「激しい戦い〜。だが、マーモットと聖女たちは力を合わせて邪神カストールを倒すのであった〜まきゅ!」
ベンベンと竪琴を奏でて、マーモットの活躍ぶりを歌う詩人は最後に一礼して、歌を終えるのであった。
「なかなか面白かったぞ」
「おひねりあげよう」
「酒は飲めるのか?」
ヤンヤヤンヤと聞いていた男たちは笑い、エールを勧めたり、ふかした芋を差し出して、詩人は嬉しそうにエールを飲みながら、芋を食べて、ぐでっと壁に寄りかかる。くたびれたおっさんに見えるが、その正体はマーモットのマモだ。裏切り者は詩マーモットへと姿をやつし、逃げ回っていた。
「邪神カストールはやめないっすか? 風評被害が起きるっすよ! 最近夜道を歩くのが怖いんですけど! 誰かに見られてる感じがするんだけど!?」
「カストールさんは人気者ですね〜」
必死な様子で抗議しているのはカストール。そして、酒を飲んでいるのは聖女と名高いシィである。場末の酒場に避難してきて、酒を飲む聖女でもある。
エールをもう一口グビリと飲んでほろ酔い加減で、場末の酒場にふさわしい年季の入った薄汚れた壁の張り紙を見て、酔っ払いはケラケラと笑う。
「本当に大人気ですぅ。カストールさんの自画像の描いてある張り紙ありますし」
『カストール・ジェミニ。邪神(笑)の可能性あり。見つけたら駐屯所まで一報すること。捕縛時は賞金トウモロコシ一本』
『マモ・マーモット。反乱(笑)の可能性あり。見つけたら、捕まえること。捕縛時の賞金トウモロコシ二本』
張り紙の内容はカストールとマモだった。お尋ね者として指名手配されていたりする。賞金にトウモロコシを出す太っ腹ぶりだ。
「おかしいっすよ! 俺っち、なにもしてないのに、なんでお尋ね者!? しかもマーモットよりも賞金が安い!」
「安いというか、トウモロコシの時点で賞金ではないですよねぇ。……はっ! 嫌な予感!」
地団駄を踏むカストールへとシィはケラケラと笑っていたが、ピクリと眉を動かすとすぐに立ち上がり窓へと駆ける。と、同時に酒場のドアが荒々しく開かれて、どやどやと騎士と神官が中へとなだれ込んできた。
「聖女様! どこに消えたかと思えば、こんなところに! 救いを求める信者が礼拝堂で待っております!」
「シィ殿! 仕事が溜まっておりますぞ! あと、ワインセラーを空っぽにした件で、陛下がお話を聞きたいと言っております!」
「きゃあ~、邪神(笑)に攫われますぅ」
「窓から脱出まきゅ!」
「ちょっと、俺っちのせいにするのやめて貰えます!?」
窓枠に足をかけて外へと脱出するシィたち。もはや盗みの最中に見つかって逃げる泥棒のように、スッタカタと酒場から走り去る。それを追う神官と兵士たち。
裏通りを器用に走り抜けて逃げるが、相手も諦めることなく追いかけてきて━━。
「きゃあ~、たしゅけて〜」
「ゲフッ、なんすか!?」
家屋の屋根から勢いよく幼女が飛び降りてきて、カストールの頭を踏み台にして着地する。
「あら、お嬢。一体全体なんで空から降ってきたんですかぁ? 浮遊石でも手に入れました?」
「ちょうど良いところに! 匿って! マノミとスピカが結婚式をやるっていうんだよ! ルクスの秘薬を2本も手に入れたからって! 秘薬で結婚式とか飛躍すぎるだろっ!」
ルクスの秘薬。それは性別を変える能力を持つアイテムだ。そして、この秘薬を2本手に入れたから結婚式を行うとか、幼女は意味がわかりません。
わかることは一つ。2人が狩人の目をしていることだけだ。幼女はプルプル震えちゃうよ。
「待って、アムネジアちゃん。アキの婚約式に出ないといけないんだよ!」
「そうです、ロデーちゃん。もう皆さんはパーティー会場に集まってます。皆さん、お待ちですよ」
遠くからスピカとマノミが純白のウエディングドレス姿で駆けてくるのが見える。よくもまぁ、あんなヒラヒラした格好で全力ダッシュできるものだ。これも愛の力?
「って、あたちは婚約式を知りましぇん! きーてないもん! なんで、いつの間にか婚約式になってるの!?」
ちょっと天界に行っている間に、いつの間にか婚約式が決まっていたのだ。そして、ウェデングドレスでの婚約式はそのまま結婚式になりそうな予感。
「わかりました、ロデーちゃん。では婚約式は止めて、そのまま結婚式にしましょう! その準備も万全です」
予想よりも酷かった。やっぱり結婚式をする気じゃんね。対外的にはコブターンモードで婚約式をするつもりらしいが、怖いよ! 2人の目が怖いよ!
「ハイ・ヨー、カストール。ノーマルエンドで終わりにしよう!」
カストールの肩に強引に乗ると、ガスガスと蹴って走らせる。ノーマルエンド、それはヒロインの誰ともくっつかずに、名声も上げずお金も稼がないため、なにも残さなかった主人公がとるエンディングルートだ。ゲームでは、このエンディングルートを選ぶことの方が難しかった。最難関ルートとも言われていた。
現実ではカスな主人公だからこそ選べるルートだと判明したよ。まぁ、カストールのことはどうでも良い。それよりも2人から逃れることが必要だ!
「このままだと、あたちは大人になっちゃうよ! 何人子供が欲しいとか言われちゃうよ。身の危険しか感じない!」
どんな敵よりも怖い敵が出現したのだ。誰か助けて〜。
「お嬢はもうなんでもできるじゃないですかぁ? これくらいパパっと振り払えますよね? もしかしてぇ、捕まりたくてわざと地上を走っているのですか?」
道路を全力ダッシュしながら、隣を走るシィがむふふと笑うが、そうじゃないんだ。そうではないのだ。
「……今のあたちはこんなもんだよ。これが全力」
気まずそうに横を向きながら、フーフーと口笛を吹く。こめかみから汗がたらりと流れて、地面へと落ちていく。
「ん? どういうことですか!」
コテンと首を傾げてハテナマークを目に映すシィへと、指を絡めてもじもじとしながら小声で言う。
「んとね、ほら、あたちはガチャ神じゃん? でもガチャ神なのに、ガチャをやるポイントが全然足りないから、あ~ちゃんに星座の力とかを渡して、ポイントをもらったんだ。ガチャをやらないとガチャ神じゃないしね?」
「え~と………?」
「そんでね、手にしたポイントでガチャをしたんだけど」
手のひらを上に向けて、ホイッと力を流す。と、その小さな手のひらの上にひらりと茶色いなにかが落ちてきた。
「カステラの茶色いところ?」
「うん。これが一番良いガチャだったかな?」
うわぁと、呆れた顔のシィに、カストールの頭をボコボコ殴りながら、ムキーと口をとがらせる。
「星座イベントだったんだよ! 12回も引いたのに、後は水着とか、水槽とか、ゴミばかりだったんだよ! 悪意を感じるよね? 全部の星座をポイントに変えたのに! 運営どうなってるの!」
排出率おかしい。運営は当たりを本当に出すのか極めて疑問だ。
「なので、今のあたちはちょっと運動神経のよい幼女になっちゃった」
「全てをポイントに……アストリア様は?」
「あ~ちゃんは天界をお菓子の国に変えてるよ。もう夢中になってるから、しばらくは地上に来ないと思う」
嬉しそうに満面の笑みでオレンジジュースの小川とか、お菓子の家とか作ってるからね。
「ろくでもない神まきゅ! やっぱりマモが神様やるまきゅよ!」
「神様とか何の話っすか? 俺っちにも教えてほしいっす。仲間はずれは酷くないじゃないっすか?」
「お嬢らしいですねぇ。仕方ないので、次の酒場に隠れませんか?」
マモ、カストール、シィと好き勝手に言い、後ろからはマノミやスピカ、兵士や神官たちが叫びながら追いかけてくる。
もはや混沌である。住民たちは何事かと、通り過ぎてゆくアキたちを眺めている。
さて、この混沌から逃げ切るには━━。
「やっぱりガチャをやるしかないね!」
ニヤリとアキは笑って、懲りずにガチャに指を伸ばすのであった。
〜 おしまい 〜
ルックスY。マガポケで連載中です。見てみて〜。
新作美少女アバターで召喚獣をしていますもよかったら見てください。




