14話 王都からこんにちは
アルマゲスト王都。アルマゲスト王国の中心地。王城を中心に貴族街、平民街と区画が広がっており、人口百万人の大都市だ。神代の時代から残る神器の力による上下水道の完備。汚水を浄化するその力は人口が増えるもっとも大きな力となっている。王国の中心にあり、交通の要衝となっている都には数多くの人々が訪れる。
口減らしのために追放された農民、金を貯めて店持ちの商人として一旗あげようとする行商人、自身の武を信じ、騎士に取り立ててもらおうと仕官の道を探す浪人、そして、後ろ暗いところを持つ闇の世界の者たちだ。
清濁混じり合い、多くの人の夢と希望、挫折と絶望を含む巨大な坩堝。それがアルマゲスト王都であった。
◇
王都の街の門を守る兵士の仕事は敵を防ぐことではなく、検問をすることだ。なにせ、彼らは平民で構成された兵たちであり、本格的な防衛は貴族門からとなるため、戦力としては期待されていない。時間稼ぎができれば良いと思われている節もある。
門の兵士もその一人だ。最近は景気も悪く、あまり懐も温かくない。なので相棒と一緒に、今日も欠伸混じりに、適当に検問をしていた。いつもの仕事だ。門を守るだけよりもめんどくさいが、時折実入りが良くなるので、兵士は進んで検問の仕事をしていた。
「はい、問題なし、次の者前へ」
最近は普通の人間が多くてつまらないと次々と、おざなりに検問をしていき、次の集団を前にその手が止まる。
「へへっ、どーもどーも。門番様お疲れ様です」
揉み手をして前に出てきたのは、ヒゲモジャの大柄な男だった。猪の毛皮を着込んでおり、鞍も着けていない裸馬と、ボロい馬車を引いている、街道で出会ったら、間違いなく山賊だと思う姿格好の者たちだ。その集団は全員同じような格好をしており、門番が顔を向けると愛想笑いをしてくる。
これはさすがに看過できない。あからさまに怪しすぎる。給料分は働かないとまずいだろうと嘆息しつつ、もう少しマトモな服装をしろよと内心で、愚痴って咳払いで威嚇する。と、兵士の咳払い一つでビクつくので、雑魚だなと安堵して、上から目線に変えて、リーダーらしき男に目を向ける。
「貴様らなんて服装なんだ! まったく怪しさの塊ではないか、馬車の中身を見せるように」
自分のような兵士にビクつくなんて弱いんだろう。少し気をよくして偉そうに言う。兵士自身も訓練は受けているが、荒くれ者よりも少し強い程度、それなのにへつらう姿から、優越感が混じっていた。
「へい、どうぞどうぞ。馬車の中には、あっしらの商売仲間が乗ってるんでさ」
「商売仲間? お前等その格好で商売………へ?」
素直に見せるところから、どうせろくな荷物を積んでいないんだろうと思ってた兵士は声を失う。なぜならば、馬車の中には予想を遥かに超えた者がいたからだ。
「ピチピチピチピチ」
格子に入った幼女がいた。いや、下半身が魚だから人魚だ。人魚なんか初めて見た。おとぎ話だとばかり思ってた。とても可愛らしい幼女人魚だ。鉄格子の中にあるタライに張った水の中に下半身を入れて、楽しそうにヒレをパシャリと動かしている。
「き、貴様ら、これは……」
「あーっと勘違いしないでくだせえ。閉じ込めてませんぜ? ほら、鍵すらないでしょ? これは人魚の家代わりなんでさ」
「家? ………たしかに鍵は無いが………それにこのメイドは?」
たしかに鍵はかけられていなかった。人間ならあっさりと逃げ出せるだろう。人間ならば。それに横のメイドはなんだ? この集団に似合わない少女だ。
「ぴちぴちぴちぴ、アダダ、やめてくださいタンカーイチさん、痛いですよ」
「お前、なにやってんの!? お嬢に留守番と言われてただろっ!」
「私も王都に行って見たかったんですー! いいじゃないですか、一人くらい」
頭を掴まれて怒られているので、このメイドは身内なのかとスルーするが、この人魚はどう考えても見過ごせない。兵舎で上司に報告を━━━。
「一緒に商売をしようと手を組んで、わざわざ遠く離れた王都に来たんです。ここまでの道のり大変でしたよ」
肩に腕を絡ませて馴れ馴れしく言う男を離そうとして、チャリンとポッケから音がすることに反応する。
そっとポケットの中を確認し、黄金の輝きに息を呑む。金貨だ!
「だから、早く宿屋に入って休みたいんですよ。ね、わかるでしょう?」
またチャリンと音がして、黄金の輝きが倍になったことにニヤけ顔を隠せない。
「うむ、それは大変だったな。なら、さっさと宿屋で疲れをとるがいい」
「ありがとうごぜえやす。あ、変な噂が広がらないように注意をしますんでよろしくお願いします。良い宿を教えてもらえれば助かりますし、後ほどご挨拶ができればとも思ってるんです」
またチャリンと音がして、兵士は月給3ヶ月分を一瞬で稼いだことになった。こんな大金をくれる奴だ。しかも宿屋を教えれば、もっと金をくれるらしい。いや、融通を利かせろと遠回しに言ってるのだ。
「もちろんだ、この先の『カラスの宿』は金さえ払えば、何をしても大丈夫だ。何をしててもな。それだけ高い宿屋だが、防犯もしっかりとしているから安心しろ」
これは兵士たちの息がかかった宿屋ということだ。足元が暗い奴らも安心して使える分、高額の宿賃を取る知る人ぞ知る裏の宿屋だった。
「へい、ありがとうございます。これからもなにかあればお願いいたしやすね」
「あぁ、任せろ。我々は王国民を守るために存在しているのだからな」
胸を張って、どんと胸当てに手を当てて微笑む。どこの手の者かは分からないが金払いが良いと言う点で、兵士は男たちを黙認して通過させるのだった。
なにせ兵士の給料は雀の涙。このような稼ぎがあるからこそめんどくさい検問の仕事をしているのである。
◇
「うっひゃー、見て下さい、このベッド、ふかふかですよ! それにこの街、家がズラッと並んでました。こんなにたくさんの人が住んでるんですかね?」
ケイはベッドのふかふかさに驚き、窓を開けて、外を眺めては興奮してと大騒ぎだ。宿屋は高級宿屋と謳ってるだけあって、ベッドも調度品も上等で部屋も広かった。
「お前ねぇ………よく2日間も馬車に隠れていたな。飲まず食わずだっただろ? ほら、飯を食え、飯を。お嬢も教えてくださいよ」
「ピチピチ、っと。だって『逃げる』スキルを使用してたから、言う暇なかったじゃん」
一応優しいのか、タンカー1号が宿屋の女将に頼んだサンドイッチをケイに勧める。タライに入ってピチピチとヒレを動かしているのはもちろんアキだ。人魚に変身したままである。
「あー、そうそう。すんごい速かったですよね。王都まで3週間はかかるって聞いてたんですけど、2日間で到着しちゃった。魔法ですか? あわっ、このサンドイッチおいし~! うわぁうわぁ、固くないや、ふかふかだぁ、あ、この水、果物水だ! あま~い!」
王都を早くも満喫しつつあるメイドを苦笑しつつ眺めるヒャッハー山賊団の面々。見た目と違い優しい奴らだ。
ヒャッハー山賊団はカード独特のスキル『逃げる』を使用して、素早さ200%アップ。『疲労除去』にて馬の疲れを癒し、さらに夜間も走り抜けて、王都にたった2日で到着する荒業を見せたのである。
「そりゃ、一部屋金貨2枚だからな。男たちで二部屋、女たちで一部屋の計6枚だ」
「えっ………そんなにするんですか?」
タンカー1号の言葉を聞き、サンドイッチを食べる手を止めて、その金額にケイは冷や汗をかく。
「なんだ、安いじゃん。そんなに安くてこの宿屋大丈夫なのか?」
ゲームでは金貨払いが普通であり、ボロい宿屋でも一人金貨6枚支払っていた幼女はその金額に不安を持つ。
対照的な二人である。
「レンジャー1号が調べましたが、特に問題となるようなセキュリティの穴は見られないそうです。裏の高級宿屋という立ち位置を考えると、盗聴や盗みを働かれたら、報復もそれなりにあるということなんでしょうぜ。表の宿屋よりも安心出来るのは皮肉としか言えませんがね」
裏の宿屋を使う者は後ろ暗い者たちが多い。そして彼らは腕に立つものが含まれており、宿屋を経営している組織などの脅迫も気にしない可能性があるとすれば、危険を犯すわけにはいかないのだろう。表の宿屋よりも信用を気にしていると思われる。
「現に俺等があからさまに怪しい鉄格子を部屋に運び入れても誰何してこなかったですからね。ただ中身を気にしている素振りはありやした」
壁に寄りかかり、クールに言うレンジャー1号。もじゃもじゃ頭で粗末な服装でなければ絵になったが、今はチンピラにしか見えない残念さを見せていた。
だがレンジャー1号の言う通り、エッサホイサと鉄格子を運ぶチンピラたちを、何人かの男たちが鋭い目で見つめているのには気づいていた。まぁ、みすぼらしい格好なのに金払いが良すぎるのも原因の一つだろう。今ごろ噂になっているに違いない。
「宿屋内でさえ犯罪が起こらなければ、外で誘拐でも殺しでも起きても関係ないもんな。ケイは必ずヒャッハーたちを一人でもつけて行動するよーに。誘拐されたら助けられないかもしれないしね」
でも、少し真面目に忠告はしておく。ヒャッハーたちは何回死んでも別にいいが、ケイの命はひとつなのだ。死んだら罪悪感半端ない。幼女には耐えられないよ。
「ひえ~、わ、わかりました。ウイッチッチさん、私を離さないでくださいね?」
アキの言葉からブルリと体を震わせてウイッチ1号にしがみつくケイ。同じ女の子でしょ、助けてねと怖がる様子を見せていた。お上りさんにしか見えないメイドである。
「それウイッチ1号のこと? たしかに通り名だけでは困るかなぁ。それぞれ今度名前考えといて」
勝手にあだ名をつけているケイに苦笑気味に、たしかに皆に名前がないと不便かもとアキも思う。なら、無いなら付けるだけだ。
「へーい」
やる気のない返答。ヒャッハーたちは個体であるが、意識を共有する群体でもあるので、あまり自身の名前にこだわりはない。なので、肩を竦めて適当でいいかと思っていた。なので、後日、タイチやタニ、センイチとか適当極まる名前になる。
アキは召喚したキャラにネームを付けてあげて感激されるテンプレイベントをスキップしちゃうのだった。それにそんなことを気にする余裕もない。
「よし、それじゃ金策大作戦開始だ! 服を買ってきて、空き地を借りてこい。ヒャッハー山賊団改めて、ヒャッハーサーカス団の始まりだー!」
細っこいお手々をあげて宣言して、ヒャッハーたちもノリノリで楽しそうに拳を突き上げる。
「おー! 祭りみたいで燃えやすね!」
「任せてくだせぇ! しっかりとしたテントを作ってみせまさ」
「魔法で花火を作ってあげるわ」
ヒャッハーサーカス団。山賊団が転職するのはちょうどよいだろうと、アキはムフフと妖しく笑うのだった。ピチピチ。あたちは普通の金策はしないのでしゅ。面白くしないとね!




