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プリン・荒モード!  作者: 都月 奏楽
三章『トゥ・リセット・ライフ編』
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22話 『やっちゃったZE☆』

 真っ暗な世界。其処に、衣笠深優姫はポツリと立っていた。何も無い、誰も居ない、孤独な世界。異常な領域に彼女は恐怖する事は無かったが、その代わりに溜息しか出てこなかった。

 私、死んじゃったんだ。深優姫はあっけらかんになりながらもこの状況を把握した。死ぬのは嫌だったが、仕方ないと言う気持ちの方が強かった。


「あーあ、色々やりたい事とかあったのにね。イラストとかも描きたかったし、小説とか書いてみたかったし」


 今までの人生を振り返り、彼女は少し、暗闇の中を歩いてみる事にした。無論、見つかるものは無かったが、思い出すものは有った。

 今まで育ててくれた両親、今まで仲良くしてくれた親友は悲しんでくれるだろうが、それだけだ。深優姫は思わず、俯いてぼやいた。


「……けど、私が死んでも、世界が大きく変わる事なんて、無いから」


『本当にそう思ってるのかな、ミユキ?』


「誰?」


『僕達だよ、ラメイルとヴァニラ』


 ラメイル。ヴァニラ。思い出した。コイツ、家で勝手に食料を食い漁ろうとしてた奴だった。深優姫は珍妙な姿をした生き物らしい存在を見つけ、人をナメた様な態度と表情に思わず懐かしく感じつつも腹を立てた。


「何でアンタ達が此処に?」


『僕達は使い魔だよ。君の精神に入り込む事なんて容易い事だよ』


「あぁもう図々しいね。ズケズケと人の中に入り込む。恥を知れ、俗物」


『そんな冗談が言えるなら、大丈夫そうだね。早く戻るんだよ。君は世界に必要なんだ』


「でも、私死んでるんだよ?」


『馬鹿か君は』


 コイツ、やっぱりムカつく。深優姫は悪態を吐く使い魔を睨みつけた。けれど、不思議と怒る気にはなれなかった。


「……でも、意外だね。アンタ達がそんな人間臭い台詞を言うなんてね」


『まぁ、僕達も色んな漫画を読み過ぎてしまったからかな。たまにはこんなのも悪くないんじゃない?』


「そうだね。……じゃあ、私、行くよ」


 目の前に広がる、闇を掻き消す光の渦に、深優姫はラメイルとヴァニラを連れ、そのまま入って行く。眩しい白が彼女の視界を埋め尽くした。



 白が黒へと暗転し、ふと目蓋を開けると、見知らぬ天井が見えた。横には花を活けた花瓶とこじんまりとしたブラウン管のテレビが。下は真っ白なスーツとベッド。

 病室だ。彼女はパックを吊るしていた点滴スタンドを見て、ようやく気付いた。テレビの近くで充電してあった携帯電話の待ち受けを見ると、もう三日も経っている様であった。


 こうしちゃいられない。パジャマを脱ぎ捨て、引き出しに仕舞ってあった普段着に着替え病室を出ようとしていた。扉を引いた瞬間、母と鉢合わせになった。


「深優姫!! 目が覚めたのね!!」


「あ、うん。まぁね。心配かけて、ゴメン」


「ホントそうだわ!! 何で貴方が通り魔に刺されなきゃならないのよっ!!」


 母が泣きながら深優姫を抱き締める。どうやら自分は通り魔に刺された事になっている様である。彼女は冷静に分析しながら、誰が仕向けたものだろうかと、考える。猶更急がなくては、と深優姫は絡みつく母の手を解いた。


「あ、私もう大丈夫だからさ。一緒に家に帰ろうよ。早く溜まってた奴を観たいし」


「何言ってんのよ!! 三日も寝たきりだったってのに!!」


 あぁもう、鬱陶しいな。母の当然たる反応にも深優姫は苛立っていた。傷も大方塞がってるし、今は寝ている場合じゃないってのに。こうなったら強行突破だ。

 少し腑に落ちない様な演技をしながら、ベッドに戻ろうとする素振りで油断させ、彼女は障害をすり抜け病室を後にした。


「待ちなさい深優姫!!! 誰かその子を捕まえて!!」


 彼女が廊下を走っていると、母と看護師達が追いかけ始めた。起きたばっかりなので本調子じゃない身体では追いつかれてしまうと判断した深優姫は、使い魔二人を呼び寄せた。


「変身しなくても武器って使える?」


「一応出来なくはないけど、性能は落ちてるよ?」


 上等! 彼女は使い魔二匹を掴み、マジカル・スモークに変化させると、そのまま煙幕を展開。確かに煙の量は変身した時と比べて少なくなっているが、目を暗ますには申し分なく、足止めは成功した。しかし、立ち込める煙に反応し、火災感知器が作動。けたたましい警告音が院内を騒がせる。

 火事だ! 火事だ! と病院の中に居る人達は思わずパニックになっていた。皆が皆、避難しようと一斉に廊下へ飛び出していく。スタッフの制止も振り切る大騒動となっていた。


「ありゃりゃあ……やっちゃった……。……私知ーらないっ★」


 思った以上に事が大きくなってしまい、深優姫は少し罪悪感を覚えたが、頭をコチンと握り拳で叩き、舌を出してお茶目アピールをして知らんぷりをした後、逃げ出す人達の波に飲み込まれていきながら、病院を抜け出したのであった。


「でも、誰が私にこんな事を?」


「タミヒトでもマスクド・シャイニングでも無いだろうね。だとすると……、君が戦っていたスパイシア?」


 無いないナイ! と深優姫は全力で否定する。それもそっか、と言い出しっぺのラメイルも納得していた。


「本気で殺そうとしてきたヤツが、それも見境無く人を殺すスパイシアが死に掛けの私を助けると思う?」


「けれど、不思議なんだ。あのスパイシアは止めを刺せる気力も残っている筈なんだ。けれど、それにも係わらず撤退したんだよ?」


 確かに、ラメイルの言っている事は分かる。自分も、傷を抑えながら背を向けて去っていくスパイシアを見たからだ。益々意味が分からなくなってきた。取り敢えず、民人に連絡しようと、深優姫はタブレットを手に取った。


「あ、もしもし樫原さん? 今大丈夫?」


『カスプリちゃん!? 無事だったんだね! あれ以降、三日も音信不通だったから心配してたんだよ!』


 この言葉で、民人が色々と仕向けていた事では無い事がハッキリした。そうすると、関係者のマスクド・シャイニングも白となる。


「あー、すみません。……少し出張に出ていたから。……所で、その三日間、あの強いスパイシアとかって出てきたりした?」


『あの剣を使うスパイシアの事かい? いや、ソイツどころかスパイシアの影すら出てないよ』


「分かりました、有難うございました。それじゃあ」


 謎は深まる一方であった。考えれば考える程に、分からなくなってきた。うーん、と深優姫が唸ると別の所からも唸り声が響いてきた。


「そーいや私、お昼ご飯まだだった」


「つくづく君は"花より団子"って言葉が似合うね」


 誰が牧野つ●しよ。と皮肉を言うラメイルを軽く小突き、近くにあった定食屋の暖簾を潜った。いらっしゃい、と声を張る割烹着姿の料理人に出迎えられながら、深優姫はカウンター席へ座る。其処に、見た事のある姿があった。


「乃白? こんな所に会うなんて奇遇だね」


「深優姫!? え、あ、うん、そうだねぇ!」


 御茶碗の白飯をがっついていた乃白は深優姫の姿を見て驚いていた。其処まで驚かなくったっていいのに、と彼女は少し面白がって笑った。


「それよりアンタ、具合とかはどうなんだい?」


「具合? あぁ、三日くらい寝込んでたらしいけど何とか。……え?」


「いや、何でもない!! 元気そうならそれでいいんだ!」


 変なヤツ、と深優姫は呆れつつも注文していたトンカツ定食に手を付け始めた。食欲はある。これならもう二十丁はいけそう、と深優姫は揚げたてのカツレツの一切れを頬張った。


「じゃあ、アタイはもうご飯食べたから――」


「そんなに焦って帰る事無いじゃない」


 そそくさと去ろうとする乃白の左肩を掴んで引き止めようとした瞬間、突然彼女が肩を抑えしゃがみ込んで痛みに悶絶した。


「ちょっ!? ゴメン!! 私、そんなに強く握ったつもりは――!!」


 深優姫が掴んでいた掌を見た途端、驚愕する。白い液、それも生温い。血だろうか。いや、血にしては赤血球のヘモグロビンが無さ過ぎる。彼女はふと思い出した。左肩から白い液を噴き出させていた、蛇のスパイシアを。そして合点が行った。


「アンタ……、スパイシア? それも、あの時の?」


 その言葉に、乃白は思わず肩を抑えながら逃げ出した。それを追いかける形で深優姫も店から飛び出した。御勘定!!! と怒鳴り声をあげて後ろから猛スピードで走り出す、オバちゃんから逃げながら。

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