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プリン・荒モード!  作者: 都月 奏楽
三章『トゥ・リセット・ライフ編』
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18話 『流石スパイシアだ! 何とも無いぜ!』

 チームワークの肝要さ、それを知る前に元々亀裂が走っていた関係が、より深い溝となってしまった。カスタイド・プリンセスこと深優姫は、マスクド・シャイニングと喧嘩別れした。それ以来、また最初期と同じ様に、スパイシア討伐は各個撃破となり、顔を合わせる事は無かった。


 深優姫は少し焦っていた。無論、マスクド・シャイニングの事では無く、取り逃がしてしまった、あの強敵スパイシアの事に関してである。

 あれからずっと姿を見せないまま、反応も示さない。そして気になったのは、どうやってあのマスクド・シャイニングのキックを防ぎ躱したのかである。この目で見て感じたのは、何かを盾にしていた様であった事。しかし、あの直撃寸前の一瞬で何を出したのかが説明つかないのである。


「何かを表面を覆っていた? そしてそれを剥がしたとか?」


 教室の机で一人考え事をしていると、急に背中を叩かれた。吃驚して後ろを振り返ると、杏子と蜜希の姿が其処に有った。


「なぁーに真剣な顔で考え込んでんのよ?」


「深優姫ちゃん、最近考え事が多いけど、何かあったの?」


「あ、いや、別に?」


「最近いっつもそればっかじゃない。アンタがそんな調子じゃあ、こっちも調子狂うのよ」


「私達で良かったら相談に乗るけど~?」


 気持ちは有り難いが、敵スパイシアの性質について、ましてや戦い方について相談に乗られても困るだろう。それに一応、自分の正体がカスタイド・プリンセスだとバラしたら生活しにくくなるのは目に見えていた。


「あーそれだったら、この前出入り禁止になったケーキバイキングの事なんだけど――」


「アンタねぇ! いくら食べ放題って言っても全部食べ尽くす女が居る!?」


「カットされたケーキの食べた量をホウルで換算すると50個になってたんだっけ? それと合わせて他のスイーツもおよそ100個位食べたんだったよねぇ?」


「ケーキ食べ放題って謳っておいて、いざ食べだしたら止められるって詐欺じゃない? ねぇ、今から起訴すればVIP対応で私達専用バイキングとか――」


「ならないわよ、馬鹿」


 そんなこんなで、深優姫は一先ずスパイシアの事を一旦忘れ、学校での馬鹿騒ぎを満喫していた。正直、学校と家だけは自分が死闘を繰り広げていた事を紛らわせる場所なのである。よって、あのクソナマイキなマスクド・シャイニングの事も脳裏から掻き消せる唯一の手段でもある。


「……! チッ。よりによってこんな時に!」


「深優姫? どしたの?」


 タブレットの反応に気付いた深優姫は思わず舌打ちをした。どうも平日の昼間からの襲撃は、学校を抜け出さなくてはいけないので不便である。

 折角嫌な事を大方忘れてたのに、KYなスパイシアが、と心の底で毒吐き、深優姫は予鈴のチャイムが鳴ったというのに、テンプレート化した様に机の中の物を鞄に突っ込んで教室を出ていこうとしていた。


「深優姫ちゃん、またぁ?」


「今日は欠課になるかも!」


「そのうち先生に怒られるわよー?」


 知った事か。自分だって好きで抜け出してるワケじゃないってのに。深優姫は廊下を走っていると、またしても廊下に出ていこうとしていた陽輔の姿が。


「衣笠、お前も早退?」


「も、って事は春日君もって事だね」


 しかし、深優姫はふと疑問に思った。自分がスパイシアを迎撃するときに限って、陽輔が相対しようとしている所を頻繁に見かける事に。自分の様な貧弱モヤシオタクとは違い、スポーツ万能健康優良児の様な彼が体が弱いという事は有り得ない。悪い噂が皆無という事は、サボっているという事でもない。なら、何故授業を抜け出しているのか、という所まで至った。


「……春日君ってさ、チームワークについてどう思ってる?」


「おいおい、唐突だな?」


「素朴な疑問。サッカーって、そーいうのって大切なの?」


 深優姫は校門までの入り口まで陽輔と一緒に肩を並べて駆け抜けていく。もしやと思い、深優姫は少し確かめるべく、問い質してみた。少し考える素振りをしながら、彼は答えた。


「そうだなぁ、やっぱり大切だと思うぞ? 個人プレーも必要な時はあるが、一人じゃあ多数でマークされた時にボールを取られるし、パスも回らないし、ディフェンスがいなきゃ点入れられっぱなしだしな」


「チームワークとか必要無いって人は?」


「どうしようもないクソだな。俺はそんな奴とは付き合いたくはない。やっぱり、少し足を引っ張ったって、味方は居た方が楽しいしな」


 良かった、と深優姫は内心安堵していた。春日君があのマスクド・シャイニングだと勘繰ってみたが、この質問で別人だと確信した。もし、アイツの本体なら逆の事を言っていた筈だと推理し、結果として陽輔は白。ただのオタク趣味が取り柄の自分と違い、中身が完璧な人間に喧嘩売ってたらと考えるとゾッとする。だからこそ、カスタイド・プリンセスの正体は絶対秘匿なのである。


「じゃあ私はこっちだから」


「そうか。じゃあ俺はこっち」


 校門を抜け、二人はそれぞれ別れて走り出す。目標は二つ。それぞれ学校を中心に一キロ程離れていた。深優姫は誰も居ない隙に変身し、カスタイド・プリンセスになって、ステッキをある物に変えた。


「さぁ、新しい武器、試させてあげるよ!」


 彼女がポイントで解放したのは、靴底に鋭い刃が付いた靴であった。マジカル・スケートで氷の張っていない普通の道路を滑りながら走っていく。スケート経験ゼロで運動神経も中の下の筈なのに、こうも華麗に動けるのは、きっと魔法少女の力の御蔭なのだろうと思っていると早速スパイシアの現場へと到着。カスタイド・プリンセスは急接近するとそのまま靴の刃で蹴ると同時に斬り付けながら、急停止した。

 振り返り、亀の様な甲羅を持ったスパイシアが此方を睨み付けて、ゆっくりとした動きで迫ろうとしていた。


「じゃあ、お次はこれかな? エアーシューター!」


 思った以上に早く駆けつけられ、値段以上の買い物をしたとばかりに上機嫌のカスタイドプリンセスは、スケート靴を両肩に装着する装置に変更。それは顔位のサイズのファンがある謎の装置であった。狙いをスパイシアに定めると、何かの拍子で動作したファンが急速回転。家にある扇風機など目じゃない程の、二つの突風がスパイシアを襲う。辺りのゴミや落ち葉等は小規模ながらの竜巻に巻き込まれ吹き飛ばされていくが、亀だけは身動きが取れなくなっているだけで効き目が無かった。


「おかしいな、説明書には敵を吹き飛ばすとか書いてあった筈なんだけど? 不良品掴まされた?」


『ミユキ、奴の身体があまりにも重過ぎてマジカル・ブラストが効いてないんだ』


 それもその筈。亀のスパイシアは、歩くだけで両足が硬い地面を突き抜け、めり込んでいる位の重量であったのだ。幾らマジカル・ブラストの風が強かろうが、台風でもビクともしない建築物が吹き飛ばされる道理は無い。

 このままではジリ貧になって、魔法が切れてしまう。彼女はマジカルアームズをハンマーに変えると、そのまま距離を詰めて鈍痛を胸部に一撃。カーン、という軽快な金属音が鳴り響いたが、亀はビクともしていない。寧ろ、思い切り叩きつけたカスタイド・プリンセスが、衝撃の反動を食らってしまい、手首を振りながら痛がっていた。


「かったぁ~!! アイツ、ゴッグ並に硬いんだけど!! 何とも無さ過ぎ!」


『ミユキ。ガンダムハンマーでも機雷でも通用しないなら、アレしかないよ』


「成程ね。メガ粒子……じゃなかった、マジカル・ステッキだね」


 カスタイド・プリンセスは敵の攻撃を避け、一旦距離を取り、マジカル・ステッキに変えてそのまま力を込める。魔法を集中させ、一気に放出。光の大波に飲み込まれた敵は消滅する物だと思っていた。


「やった!?」


 しかし、亀は多少のダメージを食らったものの、大方効いていなかった。多少、身体や甲羅に傷が出来ただけで、戦闘続行は余裕で可能だった。交差させ盾にしていた両腕を降ろし、スパイシアは再び歩き始める。ゆっくりゆっくりと、愚鈍な動きと堅牢な身体でカスタイド・プリンセスを追い詰めようとしていた。


「コイツは……どうすれば……! もう魔法もあんまり残っていないのに……!」

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