17話 『イライラするんだよ……』
深優姫はカスタイド・プリンセスに変身し、嫌々ながらに研究所に通い詰め、マスクド・シャイニングとの特訓を続けていた。しかし良くなる傾向は無く、逆に悪化していく一方であった。
「だからオレに合わせろって言ってんだろーが!!」
「はぁあぁぁ!? すっトロい動きしか出来ないクセにそんな口が言えたモンだね!!」
一触即発の空気の中、少しでも食い違えば二人は喧嘩を始める。度が過ぎれば、手が出る足が出るの喧嘩となる。日を重ねても進歩は無し。レッスン部屋の破壊の恐れがある場合に限り、民人が横に入って仲裁する。その繰り返しであった。
「あーもうヤダ!! アンタみたいな口先だけの男の相手なんてウンザリ!! 私降りるから!!」
「ふん!! 勝手に降りてろヘタクソ!!」
結局、今日も予定時刻よりも大幅に繰り下げて特訓は終了した。喧嘩別れして苛々している中、現場監督として遠くから見守っている民人は二人を見て微笑ましそうに笑っていた。
「……何が可笑しいのよ?」
「いやいや。君達仲良いんだなって思っただけだよ」
意味不明、という顔を浮かべて、カスタイド・プリンセスは遠慮無しに退室した。研究室を抜け出したと同時に、タブレットが反応を示した。此処から近い。深優姫は急いで現場へと駆けつける。
遅かった。蛇の姿の様なスパイシアは、片手に持っていた大剣を突き刺していて、人間を透明化させていた。先手必勝とばかりに深優姫はマジカル・シザースに変更し、奇襲を仕掛けたが、瞬時に反応され、二つの刃を受け止められた。
「来たな……! カスタイド・プリンセス……! 仲間の復讐を果たす時!」
「余裕ぶったって、引導を渡してやる!」
お互い剣を弾き返し、激しい剣戟を繰り広げる。しかし、その攻防の中でこの蛇は手練れだと見切った深優姫は一旦距離を置き、ライフルに変えると同時に発砲。剣で弾き返してこそいたが、全部防ぎ切れていなかった。
蛇が玉砕覚悟で剣を盾代わりにしながらそのまま突進。剣の間合いまで詰め寄られたカスタイド・プリンセスは咄嗟にライフルからシールドに変更。そのままぶつけて盾と剣とで鎬を削る。
其処に横から遅れて現れたマスクド・シャイニングの跳び蹴りが蛇に襲い掛かろうとしていた。スパイシアは力んだ状態から急に一歩退いてフェイントを仕掛け、カスタイド・プリンセスを前のめりによろけさせると、彼女を盾代わりに蹴りを防御させた。思わぬ動きに彼は脚を引っ込めて急停止しようとしていたが、空中では制御が効かず、そのまま衝突して揉みくちゃに縺れ込んで地面に墜落。彼女も攻撃を吸収し切れずに、近くの壁まで転がり込んで激突。
「何やってんのよ! 痛いじゃない馬鹿!!」
「お前が前に出て来なければいいだけの話だろ!!」
「遅れて来た上に不意討ちに失敗しておいて良く言うよ!!」
「オレはお前程暇じゃない!!」
心も動きもバラバラだった二人は、敵を前にしていがみ合いを始める。自分が、とばかりにお互いが前に出たがり、蛇に対抗しようとしている。しかし、個々の動きだけで読まれやすく、敵を着実にダメージを与える事も無い多勢など、全くの脅威では無い。スパイシアは難なく攻撃をいなし、二人を逆に着々とダメージを与えていく。
「クソッ! カスタイド・プリンセス! 全然役に立たん! こうなったら!」
一旦距離を取ったマスクド・シャイニングはマフラーを解き、シャイニング・クロスを両手に構えると、そのまま横へ薙ぎ払う様に振る。爆発はスパイシアに直撃したものの、接近戦に持ち込んでいたカスタイド・プリンセスに飛び火しそうになった。
「マスクド・シャイニング!! 何すんのよ!!」
「近くに居た、お前が悪い!!」
脱獄犯ライダーかアンタは!! カスタイド・プリンセスがいがりながらもシザースの二つ刃で太刀打ちしていると、スパイシアはそのまま彼女を剣で弾いて距離を取ると、飛んできたシャイニング・クロスを鷲掴み。爆発によって手から煙が上がっていたが、ビクともしていない様子でそのまま引っ張り、マスクド・シャイニングをそのまま引き寄せる。
近付けられた勢いをそのままにマフラーを離してパンチを入れるが、動きを読まれて剣を捨てると、逆に腕を取り、そのまま腕固めを極めて拘束した。腕の痛みに思わず苦しんでいたが、瞬時に地面を蹴って宙返りをして拘束を解く。身体を捻りながら蹴りを入れようとしたが、回し蹴りを出した脚に入れられ、宙に浮いている彼の軌道を反され、怯んだマスクド・シャイニングは剣の一撃をお見舞いされた。
カスタイド・プリンセスは負けじとそのまま突っ込んでいく。攻撃を食らい、前方に転がり込んできたマスクド・シャイニングを避けるべく、そのまま踏みつけノンストップでスパイシアへと駆け抜けた。
「テメェ、オレを踏みやがったな!!」
「近くで寝てた、アンタが悪い!!」
さっきの仕返しとばかりにカスタイド・プリンセスが男に対して吐き捨てながらスパイシアにハンマーを叩き付ける。怒ったマスクド・シャイニングが急ピッチで走り出すと、何とカスタイド・プリンセスを押し退けたのであった。
「まどろっこしいッ!! どいてろ!!」
腕時計のボタンを押し、コロナストリームを開放。薄紅色に光り、マスクド・シャイニングはそのまま跳び蹴りを放った。そのまま直撃、と思いきや蛇は何かを身代わりに余裕綽々で躱してしまったのであった。必殺技に失敗し、不時着し転がり込んだ。
ダサいヤツ! とカスタイド・プリンセスが憫笑し呆れると、代わりに彼女がステッキに変えて極太のビームを撃ち込もうと力を入れると、スパイシアは剣を背中に戻した。
「今日はこの辺にしておいてやる」
そう言うと蛇はそのまま逃げ去っていったのであった。魔法も十分に溜まる前に逃げられ、不発に終わってしまった。
逃げたのなら逃げたで良い。けれど、彼女の気分は晴れない。それは起き上った彼もそうであったらしい。お互い、最初に会った時と同じ様に睨み付けた。
「テメェ、タラタラして逃がしてしまったってのに何笑ってやがる」
「べっつにぃ? ダッサく転んじゃってるアンタ見て笑ってるワケじゃあ無いから安心したら?」
途端に、一気に空気が重くなった。お互い自分の非を認めず、相手の非を突き付け合う。もう、此れから仲良くしようとも、仲直りしようともいう雰囲気ではなくなった。
「やはりオレはお前なんぞ必要無い。チームワークなんぞ、クソ食らえだ。二度と研究所に来るな」
「あんなトコ、こっちから願い下げだね。アンタみたいなちっとも役に立たない味方なんて必要ない」
それぞれが悪態を吐くと、機嫌悪そうにそっぽ向き、そのまま正反対の方向へと去っていくのであった。




