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プリン・荒モード!  作者: 都月 奏楽
一章『凸凹コンビ結成前哨編』
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8話 『ゲロイン爆誕?』

 魔法少女は謎のパワードスーツの男と遭遇し、コンタクトを取った。しかし結果としては最悪で、お互いに嫌悪し合い、ヒーロー同士の協力なんて到底有り得ない程に対立してしまった。兎にも角にも、深優姫は向こうが悪いだの謝るのはそっちだのと言って聞かない。彼女の意地っ張りで子供染みた面が際立って出てきてしまっていた。


「全く、何なのよマスクドなんちゃらってさ! 急に人の胸倉掴んできて喧嘩腰でさ!! 絶対ロクでもない奴に違いないよ!」


 挑発していた君が言えた台詞か。ラメイルが漫画片手に寝転がりながら反論をする。その一言が彼女の神経を逆撫でさせてしまい、深優姫はベッドに座りながらも生意気を言う使い魔を踏みつけてうざ晴らしをする。


「絶対あんな奴の言う事なんか聞くか。寧ろ、とことんにまで逆らってやりたいね」


「僕は反対だね。ちょっと調べたんだけど、向こうの撃破したポイントも獲得出来るみたいなんだ。マスクド・シャイニングと協力すればスパイシアの撃破ポイントも約二倍。美味しい話だと思うけど?」


「冗談! 組む位なら死んだ方がマシ! 今度そんな事言ったらゲーム貸してやんないから!」


 君は言い出したら聞かないんだから。高校生とは思えない聞き分けの悪さとあまりにも幼い意地の悪さに、ヴァニラも思わず溜息を吐く他無かった。



 こうして、『カスタイド・プリンセス』と『マスクド・シャイニング』の活躍は瞬く間に甘魅町に広まっていく。ある日は魔法少女がスパイシアを倒し、もう一方が仮面の男が別の日に倒す。お互い、合流しない様に、ではあるが。知名度は両者共に鰻登り。どちらが強いのか議論やどちらのファンになるべきなのか、等の言い争いになるまでに発展していく。


 二人の英雄が衝突してから凡そ一週間。深優姫はいつもの様にカスタイド・プリンセスに変身し、現れたスパイシアを討とうと駆ける。しかし、ここで事件が起こる。何と、ほぼ同時にマスクド・シャイニングと遭遇。二人がスパイシアを挟みつつ、火花を散らし合った。


「……お前、まだ魔法少女なんぞやってたのか。どけ、ママゴト遊びは余所でやれ。俺がコイツを殺る」


「アンタこそ悪役のコスプレごっこするんならアニロードででもやったら? 私が片付けるからどいてなさい」


 険悪で不穏な空気が立ち込める。スパイシアを軸に、二人が円を描きながら睨み合い、距離を保つ。共通の敵はどうしたらいいのか分からずオロオロと魔法少女と仮面の男を交互に見る始末である。


 軸足に力を込め、地面を蹴る。一気に詰めより、マスクド・シャイニングが右ストレートを一発。よろめいた所でカスタイド・プリンセスのシザースが一閃。背を向け合った二人は再び振り向くと、またしても睨み合う。


「邪魔だ」


「どっちが!」


 二人はスパイシアの事などそっちのけで、喧嘩を始める。その争いに巻き込まれてしまう形で、スパイシアは徐々にダメージを蓄積されていく。自分の事など眼中に無いとばかりに、繰り広げていく対立に痺れを切らして攻めかかって来たのである。


「お前らいい加減にしろ!!」


「いい加減にするのは――!!」


「アンタの方!!」


 背中のユニットを開放していたマスクド・シャイニングの全力の蹴り上げでスパイシアを打ち上げ、カスタイド・プリンセスがマジカル・ステッキで魔法を発射。二人の最大威力を二発も食らってしまい、敵はいつも以上に爆発多めで四散してしまった。

 汚く空中で飛び散る火花を尻目に、ゆっくりと目を合わせて対峙する。すると、彼女は持っていたシザースの切っ先を突き付ける。

 


「……アンタ。私言ったよね? 邪魔をするんだったらアンタも倒すって」


「言ったな。……なら何だ? 今オレと決着をつけようってのか?」


「そうしたい所だね」


 だからお前は邪魔なんだ。マスクド・シャイニングが鼻で笑いながら、悪態を吐く。ムキになって、彼女はシザースの刃を首元に近付けた。


「お前は何故戦う? 何の為に戦う?」


「いきなり何なの?」


「俺はスパイシアを倒す為に戦う。それだけの為に、俺は倒し続ける。……お前は何だ? ストレス解消の為か? 有名になってチヤホヤされたい為か? 馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しすぎて笑っちまうな」


 マスクド・シャイニングに図星を突かれ、カスタイド・プリンセスは有無を言わさず刃を振付けて攻撃をする。当然、彼は難無くと躱したが、深優姫は追討ちを仕掛けて滅多斬りにしようとしていた。


「よしなよ。マジカルアームズは人と戦ったり殺し合ったりする為のモノじゃない」


「アンタは黙ってて!!」


 深優姫の憤慨する姿に、マスクド・シャイニングはそれを憫笑するかの如く後ろへ振り返り、立ち去っていくのであった。彼が消え去った後で、彼女は眉間に皺を寄せながら近くに有ったフェンスを思い切り斬り付け、八つ当たりをした。その震える手と荒ぶる呼吸に、魔法少女の怒りが限界値までに突破していた事は見て分かる事だろう。



 翌日。深優姫は昼休みにて、食べる。ただひたすらに食べる。卓に並べられた料理の山を貪る。学校内でも彼女の鉄の胃袋は有名であるが、此処まで一心不乱に食べるのは初めてである。一緒に席に座って食べていた杏子や蜜希は勿論の事、周囲の学食を食べていた生徒も手を止めて、思わず彼女に注目していた。


「み、深優姫。どうしたの。荒れてる様だけど?」


「別に!? この位全然普通だよッ!!」


 そんなに怒る事無いじゃない。思わず怒鳴ってしまった事にも気付かずに、杏子を畏縮させる深優姫。彼女がここまでヤケ食いをするもの、マスクド・シャイニングが原因なのである。

 ハイスピードで料理を口に流し込む。どうやったらそんな量が身体に収まるのか、と深優姫を見ていた生徒達が呟く中、彼女は出された料理を全部平らげると、食器全部を乱暴に返却口に置いていき食堂を後にしたのであった。


「ムカつくムカつく、マジムカつく……!!」


 彼女が苛立ったまま廊下を歩いていると、曲がり角で誰かとぶつかる。思わず転んでしまい、睨む形で見上げてみると、そこには春日陽輔の姿があった。


「あ、悪い。えっと……」


「衣笠深優姫。覚える気が無いなら別にいいよ」


 随分と軽い謝罪の余り、深優姫は彼で八つ当たりをする事にした。棘のある言葉を吐き捨て、彼女が立ち上がると、陽輔は少しムッとした顔を浮かべていた。


「いや、そんなつもりは無いんだ、……ごめん。それより衣笠、どうしたんだ? 顔色悪いみたいだけど――」


「あ、やば……、流石に食べ過ぎた……。気持ち悪――」


「……おいマジかよ! ちょっと待ってろ!!」


 彼女の顔が一気に蒼褪め、両手で口を押える。もう暇が無い程に吐きそうなのである。ぶつかって転んでしまったのが原因かもしれない。陽輔は深優姫の今の状況を瞬時に察知したのか、慌てて手を引くと、近くのトイレまで駆け抜けていった。そして女子トイレの入り口で待つ陽輔に感謝しながらも深優姫は個室の便器に溜まった物をぶちまけるのであった。



「ほらこれ飲め」


「……ありがとう」


 処理を終えた深優姫は近くの外に設置されたベンチに座り、陽介からスポーツドリンクを渡される。彼も隣に座り、炭酸飲料を飲みだす。正直、情けなく感じた。面識ない男子から、吐きそうになる姿を見せてしまったと言う事は。身を縮み込ませて黙っていると、先に陽輔から話しかけてきた。


「どうしたんだ、衣笠。無理をしてるみたいな感じがしたんだが」


「……別に」


「いいから言ってみろって」


 見透かされた様に陽輔に質問される深優姫。普通なら子供じみている彼女からすれば、迷惑極まりない鬱陶しい事の筈であったが、不思議と心地は良かった。嘔吐寸前を助けられた事もあってなのかもしれないが。


「……私ね、最近どうしたらいいかなって思ってるの」


「いきなり大規模だな。……それで?」


 陽輔は深優姫の第一発言に冗談気味に笑いを上げる。しかし、彼は瞬時に笑みを消すと真摯な眼差しで見つめてきた。


「私、今の今まで自分が何したいのか、何をすべきなのかって考えた事無かった。それをマスク……じゃなかった、お母さんに言われた時は強がって平気なフリしたけど、そんなの言い返せれなくって、そんな自分が情けなくって、悔しくって……」


「成程な。ま、確かに今のタイミングでそんな事を考えるのは難しいよな。俺もそんなの考えた事無いぞ? ――まぁ、いいじゃねーか、フラフラしたって。その間にお前だけの何かを見つけたら万事解決だろ?」


「……春日君はさ、凄いよね」


「おいおい、いきなり何だよ?」


「サッカーも出来て、イケメンだし、性格良くって優しいし。私って何やっても普通だし、性格もこんなんだし、周りから『プリンちゃん』なんて呼ばれる始末だし」


 陽輔は深優姫の言葉を聞いて、思わず大笑いを上げる。何で笑うの? と彼女が少し怒った様に訊ねると、悪い悪い、と腹を抱えながら笑いを堪えていた。


「お前が『プリンちゃん』だったのか。酷い事言う奴も居るモンだな。――まぁ気にすんなよ。無いモノを強請(ねだ)っても意味無いんだ。どれだけ時間食っても強みを一個でも多く作るべきなんだ。どんな形でもな。俺なんざサッカーがちょっと出来るだけの学績は中の下位の高校生だしな。……こんなの何の意味もありゃしねーよ」


 陽輔の顔が少し曇った様な気がした。彼女は察知し、その事について聞いてみようとしたが、昼休みの終わりを告げる予鈴が校内中に鳴り響いて、遮った。彼はじゃあな、と言って立ち上がると缶を片手にヒラヒラと手を振って飄々としながら去っていくのであった。


「春日君……ね。杏子も中々見る目有るじゃん。其処らの乙女ゲーのキャラだったら絶対人気投票で一位取ってるよ、絶対」


 深優姫は偉そうな言葉を呟きながら、陽輔と同じくスポーツドリンクを片手に教室へと戻っていくのであった。

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