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改革された軍の猛威

 王都アッシュール近郊。

 余りにも速いカルフ総督軍の侵攻に、こんな近くでの会敵となってしまった。

 総司令官タンタルシャムシ・イルは単独、戦車を前に進めて呼びかける。


「カルフ総督、久しいな!」

 プルも同じように自身の戦車を前に進めて応える。

「お久しぶりです、総司令官タンタル

「このような形での再会、実に残念だ。

 そなたが兵を率いて王都を攻めるとはな」

「それはおかしいですな。

 私に王都への出頭を命じたのは、総司令官でしょう」

「兵を率いて来いとは行ってないぞ」

「率いて来てはいけないとも言われてません」

「こういう場合、単身来るのが礼儀ぞ」

「総督は軍事指揮権を委ねられてます。

 まして今は戦時。

 兵を率いて移動するが、総督の心得と存じます」

「では、その兵は単なる飾りか?」

「お試しあるか?

 演習には丁度良いと存ずる」

「言うようになったな、クソ真面目なだけが売りの、税吏上がりの総督が。

 戦闘でわしに勝てると思っているのか?

 聞けば、ろくな戦闘訓練もせず、号令の確認や、押し引きの徹底、行軍練習ばかりではないか」

「それが私が考える、戦争に勝てる軍団ですゆえ」

「お前らしいな。

 命令と秩序が何より大事。

 戦争とはそのような事務的なものではないぞ」

「ウラルトゥとの戦訓を、私なりに反映させたものです。

 私が工夫した軍団、その身で体験されよ」

「そうか、楽しみにしておる」

「失望はさせませんぞ」


 そう言って舌戦は終了し、両将は互いの軍に戻った。

 去り際、シャムシ・イルは

(なんだ、あの自信は?

 軍事経験が少ない事務方の男らしくない。

 ただの無知に伴う自信か?

 それとも?)

 そんな不安に取り憑かれていた。




「進軍ラッパを吹け!」

「前衛部隊前進!」

 両軍、計ったように開戦命令を発する。

 シャムシ・イルの国王直属軍は1万、分厚い隊列で突進して来た。

 プルのカルフ総督軍は5千、横に長い。

(左右から包み込むつもりだろうな。

 やはり指揮経験の無い事務方よ。

 そんな上手くいくものか!)


 シャムシ・イルは歩兵部隊を突撃させつつ、左右に戦車を回り込ませる。

 カルフ軍の左右両翼の、更に外側から戦車で攻撃するのだ。

 この辺り、流石は軍最高司令官だけある。


 だが……


「中央軍は後退、左右両翼も外側に広がれ!」

 プルが司令を出した。

 中央軍が引いた部分に、国王直属軍が入り込む。

 左右両翼が広がった事で、本来その外側を攻める筈の国王直属軍戦車部隊は、その内側に入り込んでしまう。

 戦車部隊は、予定通りの進路を取るか、敵軍の更に外側に広がるか、各御者がバラバラに判断した為、混乱していた。

 指揮官も居るのだが、変化した陣形に対し、対応が出来ずにいる。


(なんだ?

 あれは?

 旗だの、ラッパだの、随分と複雑ではないか)


 プルは命令に従って行動させる事を徹底していた。

 それは単に「進め」「止まれ」「攻撃せよ」「引き返せ」という単純なものから、「左旋回せよ」「後退して空間を作れ」といった高度なものへと進化していく。

 常備軍という、訓練に明け暮れた部隊だから可能だった。

 信号兵も訓練を重ね、音階の違うラッパ、信号旗の組み合わせを読み取り、正しく司令部の命令を読み取る。

 さらにプルは、多数の軽騎兵も用意していた。

 彼等は戦闘も行うが、基本は偵察、伝令を行う。

 複雑な命令を伝える場合、プルの手元からこういった軽騎兵が左右両翼や、先陣後陣に送られる。

 その他、鏡による光の反射信号、狼煙、拡声器を使った直接命令など、プルの軍事改革はともかく「命令の徹底遵守」を叩きこむものであった。

 そうして鍛えらえた左右両翼は、プルの指示に合わせて陣形を変化させる。

 こうして凹形陣の中に誘い込まれた国王直属軍は、三方からの攻撃を受けた。


「相手は同胞だ、出来るだけ殺すなよ」

 とは言ったものの、国王への忠誠心が高い部隊相手である。

 手加減して勝てる甘い軍ではない。

 半包囲された国王直属軍は、不利な状態でも戦いを止めようとしなかった。

 僚友が傷つき斃れても、その死屍を踏み締めて戦い続ける。

 こうなると、包囲されてはいても、数が多い国王直属軍は、側面は無視し、愚直に正面攻撃を繰り返す事で、カルフ軍中央を食い破ろうとしていた。


「よし、騎兵部隊、行け!」

 プルは、手持ちの最高速部隊を解き放つ。

 ここまで参戦させずに待機させながら、シャムシ・イルの本陣に狙いを定めていたのだ。

 こうして苛立ちを命令によって抑えられていた部隊が、

「戦場を突っ切って敵本陣を攻撃」

 と、単純明快にして闘志が燃える命令を受ける。

 引き絞った弓に番られた矢が放たれたが如く、重騎兵は戦場を駆け、シャムシ・イル本陣を襲撃した。

「これは堪らん」

 少数ではあるが、執拗な攻撃にシャムシ・イルは辟易する。

 そこに、機動力では劣るが、迫力と攻撃力で勝るカルフの戦車隊も追いついて来る。

 シャムシ・イルの司令部は陣形を乱した。


 慎重居士のプルは、まだ不十分だと思っているが、ヤバや副官ベル・ダンは

「現時点でもウラルトゥや反アッシリア同盟軍に勝てる」

 と見る程の強力さである。

 精強さと忠誠と士気だけの軍は、善戦以上の事は出来ないのだ。


 そして……

「逃げたぞ!

 最高司令官タルタンが戦場を逃げたぞ!」

 という声が挙がる。


 将軍の逃走、普通ならそれで敵軍の士気は瓦解する。

 しかし側近部隊は士気を保ったまま戦いを止めない。

「もう止めろ!」

「我々の狙いは最高司令官だけだ」

「我々は国王を害するつもりは無い」

 拡声器を使って、戦闘停止を呼びかける。

 しかし、命令遵守を叩き込まれたカルフ総督軍と違い、高い忠誠心と折れぬ戦意を持つよう鍛えられた国王直属軍は、それぞれが戦い続けるか、相手の言葉を受け入れるかを判断する為、戦闘終了までに時間が掛かってしまった。


 その間にシャムシ・イルは見事に逃げ仰せてしまう。


「騎兵部隊、追撃!

 総司令官タルタンを捕まえよ!」

 プルは包囲された国王直属軍の降伏を待たず、騎兵を戦場から離脱させた。

 プルには、シャムシ・イルの次の行動が予想出来る。


 果たしてシャムシ・イルは王宮にたどり着くと、そこに押し入ると、国王アッシュール・ニラリ5世を拉致し、戦車に同乗させて逃げ出した。

 2人乗りの戦車に、御者を入れて3人が乗り、しかも国王を乗せているから荒い運転が出来ない。

 戦車の足は遅い。

 プルの騎兵が追いついて来たが、それでもまだ大分距離がある。

 王を陪乗させたシャムシ・イルは、別の国王直属軍駐屯地に乗り入れた。

 ここはバニトゥの叔父に説得され、静観を決め込んだ部隊の地だ。

 彼らは、今回の戦いは国王とは無関係の私戦と聞かされている。

 だが、目の前に国王が居て、敵と戦えと命じたら、一も二もなく従うだろう。

 それがムシルケ教育を受けた近習たちだ。

 シャムシ・イルは彼らを動かす事を狙っている。

 それに賭けたシャムシ・イルは、プルの騎兵とは違う、王宮から追いかけて来た一騎の追手に気づいていない。


「兵士諸君、我が王(ベーリー)はここに在り。

 さあ、槍を持ち弓を番え、謀叛人に立ち向かうのだ!」

 シャムシ・イルが兵士たちに向かってそう叫ぶ。

 その直後、誰もが目を疑う事が起きた。


 国王アッシュール・ニラリ5世が、疾走する戦車から飛び降りたのだ。

 国王は激しく地面に身体を打ち着け、その衝撃で地を転がり、岩にぶつかって止まった。

我が王(ベーリー)!!」

 この駐屯地の兵士たちが駆け寄って、国王を守る。


我が王(ベーリー)、一体何を?」

 戦車を停止させ、引き返しながらシャムシ・イルが叫ぶ。

 国王は痛みに顔を歪めながらも

「そうそういつまでも、そなたの操り人では無いぞ。

 思う通りになると思うな、最高司令官タンタル

 と笑みを浮かべて返した。


(この王、一体何を言っている?)

 だが、悩んでいる時間は無い。

 王宮で起きた事を知ったプルの騎兵隊が、この駐屯地に入って来たのが見える。

 シャムシ・イルは

「最後に役に立たないとは、何たる国王だ」

 と吐き捨てて、戦車に戻った。

 自分だけでも逃走するつもりである。


「さあ、乗ったぞ!

 走らせよ!」

 だが御者からの返事が無い。

「おい、どうした?」

 御者の肩を叩いて呼ぶ。

 すると御者は、胸に短剣を生やしたまま、倒れた。


「な……なんだと?」

 驚くシャムシ・イル。

 そして、彼は戦車を走らせる事が出来なかった。

 御者に代わり、自ら馬に鞭を振るおうとした刹那、脇腹に熱い衝撃が走る。


我が王(ベーリー)を見捨てて、貴方一人逃げるつもりですか?

 最高司令官タルタン殿」

「お前は、アッシュール・イルニ!

 何故此処に?」

 自分に剣を突き刺した男を見て、思わず問う。


「俺は貴方から逃れた後、我が王(ベーリー)を守るべく、王宮に隠れていた。

 いつか、我が王(ベーリー)を利用すべくやって来ると考えたからな。

 しかし無能な俺は、貴方が我が王(ベーリー)を連れ去るのを阻止出来なかった。

 だから、奪い返そうと追いかけていた。

 まさか、このような光景を目撃しようとはな!」

 突き刺した剣をもって、シャムシ・イルの内臓を抉る。

 その剣とは、プルの危機を知らせる暗号として「武器屋に研ぎに出した剣」である。

 鋭く、シャムシ・イルの皮の鎧を貫く程に研ぎ澄まされていたようだ。


(お前だって、国王を介抱せず、わしの方を狙った。

 忠義の無さは同じくらいだろうに)

 そう言いたかったシャムシ・イル。

 だが彼はその恨み言の代わりに、大量の血を吐くと、そのまま動かなくなった。




 国王は、彼に忠義を尽くす者たちに守られて、眠っている。

 高速疾走する戦車から飛び降り、地面に激しく身体を打ちつけた。

 それだけでなく、どうやら頭も酷く打ったようである。

 落ちた後しばらくは意識がハッキリしていたが、次第にまどろみ始め、今は完全に意識が無い。

 そこにようやく、場所を聞きつけたプルが戦車に乗ってやって来た。

 更に王宮から宮内長官ベル・ハラン・ベル・ウスルも駆けつける。

 彼も顔に痣、腕に刀傷を負っている。

 王宮で国王を守ろうとして、シャムシ・イルにやられた怪我であろう。


「我が子よ、お前が最高司令官タンタルを討ったと聞く。

 よくやった!」

 父の賞賛に、アッシュール・イルニは答えられない。

 代わりに嗚咽の声を漏らす。

「俺は……陛下をお救い出来なかった……。

 国王直属部下ムシルケ失格です……」


 クソ真面目な部分が似ているだけに、プルには我が子の気持ちがよく分かった。

 何も言わず、ガシッと肩を掴み、そのまま頷く。

 アッシュール・イルニは涙を流し続けていた。


「カルフ総督殿!」

 王の病床に侍ったベル・ハラン・ベル・ウスルがプルを呼びに来た。


我が王(ベーリー)が目を覚まされた。

 そしてカルフ総督を呼べとの仰せだ。

 来てくれような?」

 プルは頷く。

 もしかしたら、謀叛人と詰られるかもしれない。

 それでも、プルには国王を害する気持ちは無い。

 謀叛を起こしたつもりもない。

 胸を張って主君に相見えられる。


 プルが国王が卧す天幕の中に招き入れられた。

 主従の語らいが始まろうとしていた。

このプルさん、後の名前〇〇〇〇、軍事史における改革者として相当優秀な人物です。

正直、高校の世界史の教科書に登場しないのが残念です。

サルゴン2世やアッシュールバニパルが有名過ぎるのですがね。

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