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魔力測定水晶。




「私の見込んだ通り、やはり優秀な方ですのね。価値を見極められ……」

「リディア、これは彼女の魔石に彫られていた呪符を書き写したものだ。読めるか?」


 笑みを浮かべるフランセットを視界に入れず、クリフォードは私に一枚の紙を差し出した。

 呪符は古代文字が複雑に並んでいる。


「全部は読めません。ところどころしか……」

「読めないのは魅了に関するスペルと、この部分だろう?」

「はい」


 クリフォードは私が知らない文字列を指さした。


「ここは魔力補充についての文言だ」


 グレイも身を乗り出して、クリフォードの手元をのぞき込む。


「身に着けている間、持ち主から魔力を補充すると指定されている」

「それだと魔石の魔力切れの心配もないし、魔法を発動したとも感知されない。ノーリスクだな」

「うん。だが呪符の製作者は常に身に着ける前提で書いていなかったと思う」


 グレイと私は顔を見合わせる。

 フランセットは話についていけないようで、きょとんとなった。


「と、いうことは……彼女は常時、魔力を魔石に吸われていた?」

「そうだ。本人も気づかない程度だが」


 それがどういうことか思い至ったグレイと私はまた顔を見合わせた後、同時にフランセットを見た。


「あの、それがなんですの?」


 視線を受けて、自分だけが理解していないと気付いたフランセットはすがるようにクリフォードを見上げた。


 その視線を受け流し、クリフォードはローブのポケットから布に包まれた鶏卵によく似たサイズの水晶を取り出す。

 水晶は日差しを浴びて、きらりと光った。


「リディア、この水晶に彫られている呪符が読めるか?」

「えぇと……小さすぎて読めません」

「だろう? これは俺がティレットから技術協力でやってきている技術者に依頼して作ってもらった。さすがの出来なんだ」

「ちょっと! 私の質問に答えてくださらないっ?」


 助け舟を期待したのに無視され、フランセットがまなじりを吊り上げ、クリフォードを睨む。

 そこでようやくクリフォードはフランセットを正面から見据えた。


「これは魔力量を測る水晶だ。まだ開発中のものだから流通していない」

「そんな話よりお母さまの形見を無事に返してもらいたいんですのっ」

「呪符を消さずに返していいのかい?」

「もちろんよ」


 クリフォードは布に包まれたままの水晶を大切そうに私に向けた。


「リディア、実験に協力してくれないか?」


 え、この空気の中でそんな話? と思いつつ私は頷く。


「かまいませんけど、何をすれば?」

「この水晶に触れると色が変わって魔力量が量れる。例えば俺が持つと……」


 クリフォードが手の中で水晶を転がすと隅々までアイスブルーに染まった。


「きれいですね……」


 私は目の高さに掲げられた水晶をうっとり見つめる。


 最近よく目にするクリフォードの魔力の色。

 涼し気で、光り輝いてて、冷たい印象もあるけど触れれば不思議とあたたかい。


 その魔力の結晶のように水晶は私の目の前にある。

 時と場所を失念してうっとりしている私の耳にクリフォードの声が流れこむ。


「今は満杯だな。増幅タイプなら、減ってもまたこうして回復する。……リディア」


 渡されてドキドキしながら持ってみると、水晶全体が淡いピンクに変わった。


「俺と同じく満杯のようだ」


 満足そうにクリフォードが微笑む。よかった。


「枯渇タイプなら残存魔力量が分かる。君も持ってみるかい? それとも怖いかな?」

「平気よ、貸して」


 クリフォードの口調に負けず嫌いが出たようで、フランセットは私の手から水晶を奪い取る。

 すぐに水晶の色が変わった。


「なに、これ……」


 だが薄い紫色に染まったのは一部分で、ほぼ透明に近い。


「クリフォードさま、この結果は?」

「どうやら彼女の魔力は残り少ないようだね」

「うそよ、私がそんな……」


 フランセットは震える手で水晶を何度も握りこむ。しかし色は変化しない。


「私の魔力は他の子より多いって言われてきたんだからっ」

「子供のころの話か? それは正しいのだろう。だが魔石と知らずにつけていたイヤリングに君は常に魔力を喰われていた」


 クリフォードはフランセットの手から水晶を取り上げる。

 途端に水晶はアイスブルーに染まった。


「俺の色と比べると、君の残存数値は最後の一滴に等しい」


 声も魔力と同じように冷たい。

 けれど夜のそよ風みたいに静かで落ち着く。


「最近思い通りに魔力が放出されないと思ったことはないか?」


 クリフォードの問いにビクリと肩を跳ねさせ、フランセットは瞠目する。


「あれだけしか魔力が残っていないなら、さもありなん。だが……しばらく、そうだな。半年ほど魔力を使わずにいるといい。それくらい休めば魔力は多少回復するだろう。増幅タイプであれば」


 そうだ、たまに枯渇したと思った人の中で、数か月から数年後に魔力が戻ってくることがある。


 魔力自体が少なく弱いので使用量に追い付かず、発現できないほど目減りしてしまったと考えられているが、一応増幅タイプに分類される。


「だがもし枯渇タイプなら……君の魔法人生は、終わりが近い」


 黙って聞いていた言葉の内容が私の頭にひどくゆっくり浸みこんできた。

 そして意味を理解し、息を飲む。


「終わり……? コラスさんが?」


 フランセットもクリフォードの言葉には真っ青になっている。


「そ、そんなはずない! その水晶がでたらめなのよっ!」

「ティレットの職人が作ったんだけどな。まぁ、試作品だし、結果が不安定かもしれない」


「絶対そうよ。それにあなたが不正をして私を脅しているかもしれないでしょ?」

「そう、信じる信じないは君の自由だ」


 クリフォードは頷き、またフランセットを見据える。


「でもこれが正しく作動していたとしたら、君はどうする?」

「どうって……」

「魔力がなくなる前にしたいことは?」


 同情や優越感もない。

 感情のうかがえないクリフォードの声音がその言葉を事実として告げている。


 フランセットの表情が絶望に染まった。


 見開かれた瞳から涙は零れない。

 わななくくちびるから浅い呼吸が漏れるだけ。


 私は見ていられなくて、ぎゅっと目をつぶりうつむいた。


「コラスくん、行こうか……」


 先ほどと違い、いたわりのこもった声でグレイがフランセットに話しかける。


 二人が動く気配に私は恐る恐る顔を上げた。

 フランセットと目が合い、すがるような顔をされるが私には何もできない。


「げ、元気でね」


 かろうじてそれだけ言うと、フランセットは一瞬息を飲み、やがて小さく頷く。

 そしてがくりとうなだれ、とぼとぼと移送馬車に乗せられて去っていった。





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