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遭遇。




 ジョンソンストリートは商店がひしめく一帯にある。

 ここに行けばなんでも揃うと言われていて、身分関係なく毎日多くの人が行き交う。


 また各地への馬車発着ポイントでもあるので、とにかく人が多い。


 私はクリフォードから過去に分解した古魔道具の話などを聞きながら、足取り軽く目的の店を目指した。

 ふと馬車の停留所付近で見覚えのある姿が目に入る。


「あ!」


 第一警備隊特別調査官のグレイ・サントスだ。

 その横には二名の警備隊隊員に付き添われているフランセット。

 白く華奢な手に大きなトランクを持っている。


「これから国に送還されるようだな」


 クリフォードの言葉に足が止まった。


 フランセットは無表情のまま、どこか遠くを見ている。

 ハーフアップにされた金髪が風で揺れてはかなげだ。


 まるで絵画のような彼女の姿につい見とれていたら、視線を感じたらしいグレイが私を振り返った。


 彼は私と目が合うと、切れ長の瞳を一瞬和らげる。

 その視線を不思議そうに追ってフランセットは私を見つけた。


「まぁ……」


 さっきまでのさみしげな風情はどこへやら。彼女は私を見て形の良い眉を歪ませた。


 これで最後かと思うと、一応あいさつくらいしておきたい。

 目でクリフォードにお伺いを立てると、彼はしょうがないなと頷いてくれた。


「リディアの気の済むように」

「ありがとうございます」


 二人で馬車に近づくと、フランセットは背筋をすっと伸ばした。


「見送りにでも来てくれたのかしら」

「……そういうわけでは」


 たまたま通りかかっただけとも言えず、私は口をもごもごさせる。


「もしかして私に彼を紹介してくれる気になった?」

「それはないです」


 かぶせ気味にはっきり答えると、フランセットの背後でグレイが苦笑している。

 クリフォードは興味なさそうに道行く人を眺めていた。


「私はあのドールをティレットで量産するつもりよ。あなたの作品より売れて見せるわ」

「何度も言うけど、私は勝負に乗ってないから」

「怖気づいてるのね」


 強気な物言いとは裏腹に、フランセットの手は不安そうに耳元へ伸びる。

 そこに形見のイヤリングがないことに気付いて、取り繕いもできないほど瞳に絶望を浮かべた。


「お母さまのイヤリングは取り上げられたままなの」

「そう……」


 その点は本当に気の毒だ。私の声も暗くなる。


「お母さまは……自分だと思っていつも身に着けていてと言った。だから手元にないと落ち着かないわ」

「あのイヤリングは君と一緒にティレット王国に戻る。手続きが終われば魔封じされて返還されるだろう」


 グレイの言葉に私とフランセットは首を傾げる。


「魔封じ?」

「魔石に彫られている呪符を削り取る」

「そんなっ、石の形が変わってしまうわ」

「そうしなくては、君の元へ戻せない」


 きっぱりと言われ、フランセットはくちびるを噛む。

 しばらく子猫のように震えた後、上目遣いでグレイを見上げた。

 青い瞳に今にも零れそうな涙を浮かべ、祈るようにグレイへ一歩近づく。


「お願いします、なんとかなりませんか?」


 少女に渾身の願いをかけられたグレイはしばらく無言でその美しい顔を見つめ、鋭い視線をやわらげることなく「ならない」と一刀両断に告げた。


「国同士で話し合い決まったことだ。個人がどうこうできる問題ではない」

「でも……私は悲しいですっ」


 フランセットは必死に言い募る。ついに涙が零れ落ち、赤みを帯びた頬を伝い落ちていく。



 なんとかしてあげたくなる風情を全身に浮かべているが、グレイはやはり頷かなかった。


「私にその権限はない。忠告だが……君の外見は確かに整っている。さらに今までは魔石のおかげでたいていの人間が君の思い通りになった。だがそのやり方は、今後できないと思った方がいいぞ」

「私はそんな……」


 心外だとばかりにフランセットは追加の涙を零す。


 でもその瞳の奥はさっきより揺らいでいた。


 グレイの言う通り、フランセットは自分の容姿に自信を持っており、男性に親切にされるのは当たり前のことだった。


 しかし魔石を身に着けなくなってから、当たり前だったことが否定され続けているのだろう。


「さぁ、出発だ」

「……」


 フランセットを馬車へ促すグレイの横顔に感情はうかがえない。


 ふいにクリフォードが「その呪符を削り取るのは惜しいな」とつぶやいた。


「クリフォードさま?」

「小さな魔石に呪符を彫るのは本当に難しいんだよ。リディア」

「はい」

「ティレットは手先の器用な者が多い。だが最近は職人も減ってイヤリングに呪符を彫れる人が貴重になっているのに……」

「わかっていただけますかっ?」


 クリフォードの言葉を聞いて、フランセットがうれしそうに勢いよく振り返った。





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