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魔石と魅了魔法。




 うららかな日曜日の午後。


 私はいつものカフェでクリフォードとお茶をしていた。木陰になったオープンテラスは涼しくて気持ちがいい。

 サンドイッチのティーセットを注文し、彼はやさしく微笑んだ。


「リディア、コンテスト入賞おめでとう」

「ありがとうございます」

「波乱もあったが、どの作品も落ち着くべき順位だったと思う」


 クリフォードが苦笑してそう言う。


「クリフォードさまはマーカス教授から顛末を?」

「うん。それに魔法省にも報告が来てる」


 再投票から三日後。生徒たちに公表された内容によると……フランセット本人には魔道具を使用しているつもりはなかった。


 彼女は母親の形見の貝殻型イヤリングを身に着けていただけ。だがそのイヤリングの石が魔石で、男性を魅了する術式が彫られていた。


 術式は装着している人の肌から魔力を吸って、自動的に魅了の魔法を発動するもの。


 その威力は微弱だが、結果としてフランセットは常に魅了魔法を周囲にかけ続けていた。


 不正はしていないが、魔石を身に着けたフランセットに投票をお願いされると自然に魅了状態になってしまうのだ。


「一回目の投票結果の数字を見たか?」

「はい、圧倒的多数の支持を得てました」

「一緒に貼り出された投票理由は?」

「いえ、そこまでは」


 自分たちの作品以外のコメントは後でゆっくり見ようと思っていた。

 再投票騒ぎでそれどころじゃなくなっちゃったけど。


「学園内コンテストは無記名じゃない。まず開票していた事務職員たちが違和感を覚えた」

「違和感?」


「ほとんどの男子生徒が投票理由を『特になし・なんとなく』でドールに投票していたんだ」

「ほとんど……ですか?」


「他の作品は気に入ったポイントなどと共に投票されている。もちろんドールにも『今すぐ欲しい』とか『自分の魔力の色が知りたい』といった投票理由が書かれていたが、主に女生徒たちからだった」


 展示中もそう言われてたもんね。


「他の作品に『理由なし』で投票している生徒はいない。その現象はドールだけだったんだ」


 なるほど、それじゃあ確かに違和感覚えるだろうなぁ。


「個人の趣味嗜好を性差で決めつける気はないが」


 クリフォードは運ばれてきた紅茶を一口飲み、カップを静かにソーサーへ置いた。


「コラスのドールは着眼点が良かった。だが、それだけで少女をモチーフにしたドールに大多数の男子票を集めるだろうか」


 私は素直に頷きたい気持ちをこらえて、熟考する。


「クリフォードさまの言う通り、男子生徒が積極的に欲しがるかどうかは、個人の嗜好によりますが……。作品として興味を引かれたのかもしれません」


 私は暗い講堂で静かにたたずんでいたドールを思い浮かべ、続けた。


「それ以外だと……例えばプレゼントとして魅力を感じ、入手したいと思ったのでは?」

「あのドールが商品ならそういう理由で買われていくだろう」

「自分の魔力の色をまとうというコンセプトは面白いですもの」


「そう思ったのなら投票するときに一言書いてもいいだろう。ドールに投票するのが気恥ずかしかったのなら余計にいい理由になるんだから」

「そうですね……」


 そよ、と風が吹いてクリフォードは空を見上げた。今日の空は彼の瞳より少し薄い青。木漏れ日がその瞳にやさしくきらめきを与えている。


 サンドイッチが運ばれてきて、私たちは舌鼓を打ちながら、会話を続けた。


「再投票の結果、ドールの女生徒からの票数は変わらなかったろう? 男子生徒の票だけ動いたんだ」

「はい……」


 発表された数字を見れば誰もが気付く。

 クリアスポットに乗った後の男子生徒票に明らかな変化があった。


「ドールに投票したのは下級生男子が多いのも教授たちの疑念を後押しした」

「もしかして……魔法耐性?」


「そうだ。魅了や洗脳といった魔術は純真無垢な子供がとくにかかりやすい。成長して意思が強くなった場合は掛かりにくいが、ふとした心の隙間に入り込んでくる」


 学園側が男子生徒たちに投票一回目と二回目の違いを聞くと、一回目はフランセットに投票したが改めて作品を見たら、それほど興味を引かれなかったと答えたそうだ。


 一連の情報が生徒たちに公表されたあと、学園側から同じような石を持っていたら、鑑定に出すようにとお達しがあった。


 さらに魔石と魅了魔法に関する特別授業も行われている。


 フランセットは今月付で留学期間が終了し帰国すると発表された。もちろんそれは表向きの理由で、実質退学だろう。


 洗脳、魅了魔法は大戦後、国際条約で使用禁止になり、使用した者は懲役刑と国際条約で決まっているからだ。


 今回は未成年だし、故意ではなかったので、母国ティレットで特別教育プログラムを受けることを条件にサーグッド王国側からお目こぼしをもらった形になる。


 学生には厳しい処分だと一部の教授から反対があったそうだ。だが魔術を扱えない人間からしたら、気付かず洗脳されてしまう恐怖がある。無知だったでは済まされない。


「ティレットは魔石に呪符を彫り込む技術が盛んなのは知ってるか?」

「はい。世界中に加工済み魔石を流通させていますよね」


 ティレットでは魔力持ちが減っているが、技術者はまだ多い。加工された魔石は輸入した国で魔力持ちが完成させている。


「そういう情報や知識は頭に叩き込んでおかなければいけないですね」

「そうだな」


 自分が何気なく触れた物で、意図せず魔術を発動してしまうかもしれない。

 また、自分が認識できないときに誰かに魔術を掛けられていないかなどの懸念を払しょくするために、知識は絶対必要だ。


 サンドイッチを食べ終え、私たちはカフェを出る。


「リディア、これからジョンソンストリートに行きたい。つきあってくれないか?」

「もちろん。書店ですか?」


「いや、古魔道具専門店だ。使えなくなった古魔道具の修理やリサイクルをしているらしい。どんなジャンク品でも引き取るポリシーらしいぞ」

「するともしかしたらすごいお宝に出会う可能性も……っ?」


 めちゃくちゃ心惹かれる!

 どこかの倉庫に眠っていた数百年前の何に使うか分からない魔道具なんかがあるかもしれない。

 考えただけでわくわくする。


 私たちは足取り軽くジョンソンストリートへ向かった。





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