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投票結果。




 かくして投票日。

 授業は午前中に終わり、投票は午後一時から。出展者は作品の前に立ち、投票までのわずかな時間に最後のアピールをした。


 講堂の中は生徒たちの熱気で包まれ、自動馬車の蒸気がそれに拍車をかけて盛り上がる。


 フランセットはいつも下ろしている長い髪を結い上げ、ローブを脱いでシャツ姿でアピールに勤しんでいた。

 白い肌に青い貝殻型のイヤリングがよく映えている。


「あら、素敵なイヤリング。ドールも同じのをつけているのね」

「はい、これは母の形見なんです。お気に入りなので、今回ドール用に街の工房で作ってもらいました」


 右からそんな会話が聞こえ、左からは「レールを引けば定期運行できますよ」なんて声も聞こえてくる。


 私たちも箱庭オルゴールの良さを最後の最後まで伝え続けた。


 こうしてみんながんばって、いよいよ投票タイムになる。


 自分が良いと思う作品を三つまで選び、記名付きで投票。


 無記名ではない理由は、きちんと意見や根拠を示しておくことで自分の勉強にもなるからだ。

 出品者側も作品の改良につながるので、希望すればそれらを読むことができる。


 私はもちろん自分たちの作品と自動馬車、あとは個人的に気に入った『しゃべる猫のぬいぐるみ』に投票した。


「では投票締め切り! これから開封作業を行う。結果は翌朝、玄関ホールに貼り出すのでお楽しみに」


 時間になり、壇上に立った学園長がベルを鳴らすと投票箱が閉じられた。

 これから教授たちや事務員さんが夜通しで開票作業に入るのだ。


「俺たちの箱庭、何位くらいになるかなぁ」

「反応は悪くなかったし、期待しようよ」

「最下位ってことはないと思うし」

「そうだよ、最悪でも五票入ってるんだから」


 なんて言いながら友人たちと講堂を後にする。


 どきどきしながら眠りにつき、そわそわしながら起きて、食堂へ降りた。

 そこにはもうマリーとキャロルもいて、私に手を振っている。


「おはよう、マリー、キャロル」

「おはよう、リディア。今朝はマーカス教授の小間使いに行かないの?」

「うん。開封作業が明け方までかかるから、寝てる予定なんだって。だからお茶はいいよって言われてる」

「そっか。あぁ、もう結果は出てるのよね。貼り出しは何時からだっけ?」

「八時よ。あと二時間もある」

「ゆっくり朝食を摂っても時間が余るわ。全然落ち着かない」


 キャロルが胸の前で両手を祈るように組む。マリーもキャロルをなだめつつ、いつもより瞬きが多いので緊張してるのだろう。


 私も二人のことは言えない。お茶の味も良くわからず、手持ちぶさたで何杯も飲んでしまった。


 おなかをたぷたぷさせつつ、三十分前から玄関ホールで待機する。

 程なくフレッドとデレクも来て、私たちは一塊になって結果を待つ。


 同じようなグループ、そして個人出品者、結果が気になった生徒たちで玄関ホールはごった返している。


 事務長が大きな紙を持ってやってきたのは八時五分前だった。


「事務長、早く早く!」

「はい、みんな焦らない、焦らない」


 恰幅のいい事務長はひしめく生徒たちの間を苦労して通り抜け、ホールの掲示板にぱっと紙を貼りだす。


「まぁ! 私たち受賞してるわ!」

「やった!」


 私たちの作品は投影魔法の使い方や、箱のデザインなど細部まで手が込んでいるとのコメントとともに得票数第四位になっていた。


 銅賞はしゃべる猫のぬいぐるみ。銀賞と学園特別賞は自動馬車。そして金賞は圧倒的多数の支持を得て、フランセットの夢色ドールだ。


 そこかしこで受賞者たちを取り囲み、大騒ぎになる。

 たくさんの人からおめでとうと言われ、私たちの頬はゆるみっぱなし。


 苦労した甲斐があったと、ランチではバタービールで乾杯した。

 泡がついてできた口元のひげを互いに愉快な気分で笑いあう。


 放課後になっても私は浮かれたまま、マーカス教授のお手伝いへ向かった。

 結果はもうご存じだろうけど、自分の口から報告したい。


 それなのに研究棟が木立の向こうに見えてきたあたりで、私はフランセットに呼び止められた。


「ふふ、やっぱり私が勝ったわね」


 私の前に立ちふさがり、胸を逸らせ彼女は笑う。


「さぁ、言うことを聞いてもらうわよ。今すぐあの方のところへ連れていって」


 居丈高な物言いに私は冷たく答える。


「それは断ったはずよ。そもそも勝負するなんて、私一言も言ってないから」


 フランセットはアーモンド型の目を吊り上げて、私に詰め寄ってきた。


「今さら約束を守れないなんて卑怯だわ」

「そもそも、私はそんな約束してないもの」

「ちゃんと伝えたはずよ!」

「あなたの一方的な要求でしょ。私は受けてないわ」


 フランセットは顔を真っ赤にして怒りの形相をしている。

 私もきっと威嚇する猫のようだろう。


 お互い一歩も引く気はないまま、にらみあっていたら、ふいに鐘の音が耳に届く。


「なに? この鐘は……」


 定刻ではない鐘声。残響を断ち切るように短く、次々打たれたその数は、十回。


「この鐘は……」

「初めて聞くわ。これは何?」

「全員、講堂に集合という合図よ」


 私がそう言って踵を返すと、フランセットは不安げに後をついてきた。




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