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かくれんぼ。




「お二人ともそんなところで何を?」


 生徒たちに気づかれたくないんだろうと、そっと忍び寄り声を掛けると、マーカス教授がクリフォードを見て苦笑した。


「クリフのかくれんぼに付き合ってる」

「かくれんぼ?」


「展示を見始めたらあっという間に集まってきて……お茶の誘いや質問攻めにさせられたから、帰ると言って裏に避難した」

「それは大変でしたねぇ」


 そう労わりつつ、内心首を傾げる。


 在学中から目立つ存在のクリフォードだったが、顔を出しただけで避難するほどの状況ってなに?

 疑問が顔に浮かんだ私を見て、クリフォードがため息をつく。


「あいつが俺に気付くなり、『私に会いに来てくれたんですね!』とか叫ぶから、収拾付かなくなって」

「あいつ?」

「コラスくんらしいよ」


 マーカス教授の補足にクリフォードが苦虫を噛み潰したような顔をする。


「俺はただ作品を楽しみたかっただけなのに……」

「授業中に来ればいいだろう」

「時間が取れなかったんですよ。今日はもう回るのは無理かな。明日は投票日なのに」


 クリフォードがあきらめたように肩を落とす。


「そうだ、リディアたちの作品は一番に見たぞ」

「あ、ありがとうございます!」


「箱が大きいとの意見があるけど、その分、投影された空は見応えがある。改良して小さくするのもいいけど、いっそもっと大きくして部屋中に投影させるのもありだな」

「……なるほど」


「呪符の文言を整理して縮められると、さらにいい」

「新しい呪文の開発ってことですよね」


 そのためにはたくさん呪符を書いて発動させて修正してまた発動させて……とめちゃくちゃ手間がかかる。


 想像しただけで気が遠くなった私の頬を指で突いてクリフォードは笑った。


「ほかに面白そうなのは?」

「人気なのは自動馬車とコラスさんのドールです」


 私がそう言うと、クリフォードは講堂内に目を凝らす。


 どちらも人だかりがすごくて近づくことはできないだろう。なので私がどんなものか説明する。


「自動馬車はいいな。ドールも確かに手軽で、市中に広まりそうだ」

「両方ともすでに商会から話が来ている。だが展示されてるドールをクリフは触らない方がいいな。リディアもだ」


 マーカス教授は困ったように言った。


「なぜですか?」

「呪符がシンプル過ぎて危ない」

「危ない?」


「呪符のサンプルを見たら、魔力が流れたら発色、固定の呪文を入れただけの術式だった」

「なるほど、範囲指定がないんですね」


 クリフォードが呆れたように頷いた。


「シンプルだから魔力の少ない者、そこそこの魔力持ちには問題ない。しかし魔力が多く、コントロールの苦手な者や、君たちみたいなタイプが魔力を流すと……ドレスどころか、人形の全身の色を変えられるだろうな」


「たぶん人形の周囲の色も変えられますよ」

「うん。呪符というものはあいまいではいけないんだ。授業でさんざん習っていたはずだが……」

「基本を怠ってますね」


 私は二人の話を聞きながら、フランセットの作品を思い浮かべる。


「ドレスのデザインはすごくかわいいから、すぐに商品化されそうですけど」

「その場合でも術式のリテイクは必ず必要だ」


 商品化を考えるならフランセットのようにシンプルすぎてもダメだし、私たちの作品のように膨大な量の呪符も問題がある。


「私たちもそういう視点が抜けてました」

「最初はそれでいいんだよ。まずは自由に発想してチャレンジし、改良し形にする。商品化はそれからでいい」

「マーカス教授……」


「発案し、改良し続け後世に流通していく魔術は数えきれないほどある。リディアは知っているだろう」

「……はい!」


 あのディアス博士だって一回でパーフェクトな魔術を生み出したわけではない。

 今ある魔術はすべて先人たちの努力の結晶だ。


 大きく頷く私にマーカス教授は満足そうに笑って、舞台裏から研究室へ戻っていく。


 マーカス教授に付いていくクリフォードは去り際に「あのオルゴール、仕事場に一つ置きたいな」と言った。


 二人の背中を見送り、私はクリフォードと二人で砂浜を歩いた日を思い返す。


 オルゴール制作中、投影魔法のアイディアを出し合っていたときに海がいいなって言ったのはマリーだ。


 他のアイディアもたくさん出て、みんなで相談しあって決めた海の情景だ。


 けれど、呪符を書いている間、常に心の片隅で……クリフォードが見て癒されるものをと考えていた。


「コンテストが終わったら、呪符を改良して箱を小さくしてみよう」


 クリフォードが疲れたときにそばにあればいいな。

 私はそう思って、頭の中で呪符を組み立て始めた。





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