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箱庭オルゴール。




 マーカス教授とクリフォードに励まされ、一晩ぐっすり寝た翌朝。私はあっさり立ち直った。


 フランセットのおかげというわけでもないけど、学内コンテストの作業にも熱が入る。

 今回のチームメンバーはキャロル、マリー、フレッド、デレク、そして私の五人。


 全員、気心知れているので、忌憚なく意見を交わせる。

 ランチをしながら、または休憩時間や授業の合間の移動時間に全員の得意分野を生かしつつ、アイディアを出し合い細部を詰めて作業した。


 今回のテーマは流通販売を目標にした魔法玩具ということで、私たちが作ったのはオルゴール。


 オルゴール自体は珍しくないけど、私たちの作品はサイズが旅行カバンほどもある巨大なもの。


 素材は木で、表面には手先の器用なフレッドが花や葉、つたを組み合わせた繊細な彫刻を施したので、芸術作品のようになった。


 蓋を取り外すと投影魔法が発動し、箱の中には砂浜と海、箱の上の空間には空が現れる。


「映像だけだとすぐ飽きられるんじゃない?」

「確かに」

「なら実際の時間に合わせて月と太陽が動くようにしない?」

「いいね、それ」


 なんて軽く決めたが、後々それが私たちを呪符書き地獄に陥らせた。


 実際の時間とリンクさせるために呪符の指定を細かく、齟齬無く発動できるよう書かなくてはいけない。

 それが本当に大仕事で、寝る暇もないくらい、毎日手を動かした。

 これなら試験勉強の方が楽だと言えるほどだ。


 その甲斐あって、投影された空では朝焼け、青い空、夕日、夜空と時間ごとに楽しめる。


 さらに箱の中の砂浜と海も呪符で幾重にも指定し、実際の波打ち際と同じように水が動くようにした。


 オルゴール曲を流したいときは、箱の横にあるスイッチを右にする。

 左へ動かすと、デレクが海から採集してきた波の音が流れる。これも投影魔法の変化版。


 作った自分たちで言うのもなんだけど、すごく完成度の高い作品が出来たと思う。


 タイトルが『箱庭オルゴール・海の情景』に決まったのは作品提出締め切り前日だ。


「もしこれがどこかの商会に気に入られたら、箱庭シリーズを作ってもらえるよ」


 自分が長期間かけてほどこした彫刻に愛おしそうに見つめて、フレッドがそう言う。

 大量の呪符を書き続けてきて、痛む指先をさすりながらマリーが首を傾げた。


「シリーズ?」

「海だけじゃなく、森や湖、川、広場、町はずれとか、色々さ」

「そうだな。好きな景色を選んでもらえる。家族や恋人を投影してもいいんだから」

「なるほど、そうね」

「でも商品化するかしら。この呪符を書き上げるだけでも大変な労力よ」

「キャロルの言う通り、そこが問題だよなぁ」


 オルゴールの金管部分を担当したデレクが同意する。


「玩具とは言い難いサイズだし、曲も短いし」

「オルゴールと投影魔法箱を分けた方がよかったかしら」

「今さら? もう完成目前なのに」


 疲れた笑いが私たちの間に広がる。


「まぁ、ほらメインは投影魔法だし」

「そうね、その上オルゴールも楽しめるっていうコンセプトだし」

「よし、じゃあみんなで魔石に魔力を籠めるか」


 動力になる魔石にそれぞれ手をかざし、自分の魔力を移していく。


 箱の下部分に収めた大量の呪符には、毎日少しずつ魔力を籠めて鍵マークをつけておいた。

 魔石の魔力が少なくなったら投影魔法は無くなるが魔石を取り換えればまた復活する。


 最後までミスがないかチェックし、作品を提出しに行くと、受付場所の会議室は学生たちであふれかえっていた。


 みんな私たちと同じようにぎりぎりまで粘ったんだろう。


 作品は教授たちがチェックした後、講堂に一週間展示されて、最終日に教職員や生徒たちが投票する。


 投票は教職員と学生に限られるが、学外の人間も気軽に作品を見に来ていい。


 なのでコンテスト中は卒業生が数多く学園を訪れる。

 そこで在校生も卒業生も知己を作り人脈を広げたりするので、展示しっぱなしの人は少ない。

 出品者は時間の許す限り講堂に詰めている。


 今回は商業ギルドも関わっているので、来場者はさらに多くなるだろう。


「作品公開は明後日からだよな」

「うん、他の人のも楽しみだね!」


 肩の荷が下りた気分で私たちは会議室を後にした。


「カフェテリアで乾杯しよう!」

「いいけど、お茶かジュースしかないじゃないか」

「せめてバタービールがいいなぁ」

「それは投票結果が出てからのお楽しみだよ」


 同じことを考えた生徒たちがたくさんいるらしく、学内の様々な場所で乾杯しあっている。


 私たちも周囲の生徒たちと互いの苦労をねぎらい、寮に戻っても興奮は冷めず、深夜まで談話室で盛り上がった。




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