伝わる。
「何かいやなことがあったのかい?」
「……ありました」
マーカス教授に静かに問われ、私はうつむいて言葉を探す。
フランセットの言葉はあまりにも失礼で、クリフォードに聞かせたくない。思い出すだけでも腹が立つ。
だから私は、頭の中で簡素にまとめてから口を開いた。
「留学生のコラスさんから一方的な要求をされたので、断りました。そうしたら、今度の学内コンテストで勝負して勝てば要求を呑んでもらうと言われたんです」
「コラスって誰だ?」
「カフェでタッカー先輩と会った時に一緒にいた女生徒です」
「あの身勝手なやつか」
「ふぅむ、なるほど。だいたい何があったか想像できるな」
マーカス教授は、私が省いた部分を察知してくれたようだ。苦笑して私の頭をぽんぽんと撫でた。
お父さまに慰めてもらっているようで、ほっとするなぁ。
少し和んだ私の横でクリフォードは難しい顔をしたまま。
コンテストを私欲で利用するなんて許せないな、とつぶやいている。
要求が『クリフォード本人』だと言ったら、怒髪天を衝くだろうな。
絶対言えないや。
「リディア、あの傲慢な女に何を言われたんだ」
決意した瞬間そう問われて、私は頭をぶるぶると横に振って口をつぐむ。
「リディア」
重ねて問うクリフォードをマーカス教授が制した。
「そういきり立つんじゃないよ、クリフ。リディアがまた泣きそうだ」
マーカス教授の言葉にクリフォードが私をのぞき込んだ。
そして私の目がうるんでいるのを見つけて、慌てて手を繋ぎ、心鎮めの呪文を唱えた。
「すまん、泣かせるつもりはなかった」
「いえ、ありがとうございます。怒りが消えていきました」
「怒ってたのか? 悲しいんじゃなく?」
クリフォードが驚いて私の様子をうかがう。
そっか、クリフォードは私がフランセットにひどいことを言われて悲しんでると思ってたのか。
「はい、怒ってるんです。彼女の他人を見下して決めつける言動に」
そう答えるとクリフォードは私をじっと見つめ、また手に力をこめる。
「リディアが呪符を燃やすほど怒るなんて、どんなことを言われたんだ」
「言いたくないです。また何か燃やしそう」
「そしたら俺が消してやるけど……」
あっさり言われて、虚を突かれた。
そうだ、クリフォードなら私ごとき、簡単に押さえられる。魔力的にも物理的にも。
それを理解した途端、私の怒りは収まった。
「その時は、お願いします」
「うん。でも言いたくない?」
「口に出す価値もない言葉だから」
フランセットに言われた言葉を私が馬鹿正直に受け止める必要はない。
それで目の前の二人を煩わせるなんてしてはいけない。
「すみません、感情のコントロールが下手で」
「いいんだよ、感情を閉じ込めるとろくなことにならないんだから」
「涙腺も弱くて」
思い返せば、二人が最初に声を掛けてくれた時も私は泣いていた。
「そういう時はいつでも心鎮めを掛けてやるから、隠すんじゃないぞ」
クリフォードはそう言ってもう一度つないだ手からかすかな魔力を送ってくれた。




