平凡な朝。
親愛なるリディア。
手紙をありがとう。領地のことばかりで君の状況を失念していた。
君がボブ・マーカス教授より支援を受けて、学業を続けられるという吉報に家族全員が喜んでいる。
本来であれば私たちが行うべき様々なことをマーカス教授に代わって頂くのはとてもありがたく、また親として恥ずべき心持ちだ。
不甲斐なさを痛感している。
マーカス教授には私たちからも礼状をしたため、余裕ができ次第学費を返済する旨を伝えてある。
領内一丸となって冬を乗り越えてからの話になるが、必ずこの恩を返すつもりだ。
リディアにはまだしばらく負担を掛けてしまうが、一緒に頑張ってくれると嬉しい。
家族は皆元気だ。領民もついてきてくれている。国や他領からの支援もあり、光明が見えてきた。来年こそ領民に腹いっぱい食べさせてやりたいと思う。
今は親としての手を差し伸べられないが、いつでも君の幸せを願っている。
君の父より愛をこめて。
スチュワート・パウエル
追伸。
君への手紙は自分が書くとジェフリーが言い張っていたが、今回は内容が内容なので私が書いた。
かなり拗ねているので、
リディア姉さま、僕への返信ありがとう。僕は拗ねていません! もう子供じゃないんですから。
次に会う時は姉さまの身長を追い越していると思います。姉さまのエスコートも務まります。早くお顔が見たいです。
父さまよりもっと大きな愛をこめて。
ジェフリー・パウエル
「領地でなんの手伝いもできない自分こそが不甲斐ないよ、お父さま……」
私は昨日実家から届いた手紙をベッドの中で何度も読み返す。
マーカス教授に助けてもらったことを実家へ手紙で報告した。領地以外のことで心労をかけたくないけど、学費の問題は黙っている訳にはいかない。
案の定、忙しいお父さまからの返信が来た。
あっちは大変な状況だろうに、私への愛を感じる文面に目頭が熱くなる。
ジェフリーも子供でいられないと思い奮起しているのだろう。エスコートなんて、ませたこと言って……かわいいなぁ。
私はブランケットに包まれたまま、窓の外を見た。空が白み始めている。
「ちょっと寒いけど起きるか」
夜間や明け方は冷え込む日が増えてきた。もう秋だ。
身支度を済ませ、階下の食堂へ降りれば、生徒は私以外、数名。みんな静かにゆったり朝食を楽しんでいる。
食堂のピークは一時間後。混む前に済ませておきたい人と、私のように始業前に用事がある人しかいない。
私は始業前にマーカス教授の研究室に行ってお茶を淹れたいので、朝食は早めに摂ることにしている。
「おはようございます! クレアさん」
「おはよう、リディア。たったいまスクランブルエッグが完成したよ」
「うれしい! いただきます!」
食堂のチーフスタッフ、クレアさんに促され、さっそくトレイを持つ。
キッチン前にある長いテーブルには、パンやサラダ、ベーコンにソーセージ、卵料理とスープが並んでいる。私はトレイに食べきる分だけ乗せて窓際のテーブルについた。
まずスープを一口。寝起きの体に野菜の出汁と塩味がよく沁みる。こんがりトーストしたパンにバターを塗って味と香りを楽しむ。
続いて熱々のベーコン。香ばしさに手が止まらない。食べ進めていくうちに脂っぽくなった口をサラダで直し、フォークから零れそうなふわふわスクランブルエッグをぱくり。は~、幸せ。
トーストはお代わり自由なのでもう一枚。
今度は焼いた後、半分にカットし、それぞれイチゴとマーマレードのジャムを乗せる。至福二倍。
飲み物は搾りたてりんごジュース。旬のリンゴは甘くてさわやかな酸味。
ミルクティも飲みたいけど、この後マーカス教授にお茶を淹れるときにご相伴に与るから省略。
食べ終えてトレイを下げに行くと、キッチンで立ち働く青年が目に入った。
噂によると彼は元学園生。学費の問題で中退後、必死で働きお金を用意して、今年から五年生に復学したらしい。キッチンで働く代わり、寮費が免除されている。年齢はもう三十歳。まれだが、こういう人もいる。
私もがんばろう。
「ごちそうさまでした」
「はい、いってらっしゃい」
キッチンスタッフに見送られ、研究棟へ。
マーカス教授はまだ来ていなかったので、預かっていた鍵で研究室に入る。
まず窓を開けて換気し、棚の埃をはらい床を掃く。デスクを拭き、窓を磨いて窓辺の花の水を換える。
備え付けの小さなキッチンでお茶を淹れていたら、マーカス教授がやってきた。
「おはよう、リディア」
「おはようございます、マーカス教授」
「今日もきれいにしてくれてありがとう。ああ、いい香りだ」
マーカス教授は本がいっぱい詰まったカバンを置くと、いそいそとソファに座る。
白いカップに澄んだ紅茶を注ぐ。そこへさっき届けられた新鮮なミルクを入れてスプーンでゆっくり攪拌。
「今日もおいしくなぁれ」
ミルクが白い渦巻を描いて踊り、やがて混じり合って、やさしい淡い色合いになる。
「お待たせしました」
「ありがとう、うん、今日もおいしい」
「ありがとうございます!」
恩人に出すお茶だもの。毎回ていねいに心を込めています!
少しだけ、またお読みいただけるとうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。




