第3話 お見合い妨害工作
翌日のハナの執務室、エルミナがハナと向かい合って座っている。
「エルミナ、何かいい策は思いついた?」
「あーはい、そうですね。やっぱり、ここは静観しましょう。
人の恋路を邪魔するのは野暮ですよ。」
にやっと笑ってエルミナが答えた。
「え?でも!わかるよ。そういうの良くないって。でもさ。」
(フクオカ君が取られちゃう!!)
「そんな悠長なこと言ってたら。」
「大丈夫ですよ、フクオカ自身も乗り気じゃないって言ってましたし。
下手な事して、ハナさんの評判を落とす方が問題ですよ。」
(そんなこと言ったって。フクオカ君ポンコツだもん!
親公認の婚約者とか作られたら絶対押し切られちゃう!!!)
「いいですか?ここはあいつを信じましょう。わかりましたね?」
「………。」
「いいですね!?百戦錬磨の恋参謀の私を信じてください。」
「……、エルミナだってそんなに恋してないじゃない。」
「ハ・ナ・さ・ん・よ・り・は・し・て・ま・す!」
ぐりぐりとハナのこめかみを押しながら念を押す。
「痛い!痛い!!わかったわかったから!」
「はい、分かればいいです。
とりあえず、間違いが起きないかくらいは私の方で監視しておきますから、ハナさんはじっとしていてください。」
(………、エルミナはフクオカ君のことをわかってない!
フクオカ君がその気じゃなくても、相手がその気になるんだからっ!!!)
エルミナが立ち去った後、山積みになった承認待ちの書類を放置し、軍服から地味な格好に着替えたハナ。大きなサングラスで顔を隠しているが、誰がどう見てもハナであり、怪しさ満点だ。
神聖帝国帝都「セレニャール」の皇宮の周りに広がる一等区に、ハナの公爵邸や、アルヴェリオン侯爵邸がある。
ハナはその変装のまま、アルヴェリオン侯爵令嬢シャルロッテを一目見ようと、怪しげな動きをしながら侯爵邸に向かう。もちろんこの区画の住人で公爵令嬢にして宇宙軍大将であるハナを知らない者はいない。
ペットの散歩中の貴婦人、貴族邸の衛兵、すれ違う貴族の夫妻、皆、一様にハナに挨拶をしようと試みるが、そのいで立ちに圧倒されて躊躇した。気づかれていないと思っているのは本人だけだった。
アルヴェリオン侯爵邸の門前が見える交差点で目立たないように見張る。
門が開き、シャルロッテが現れた。門前に留まるリムジンに乗り、どこかに出かけるのだろう。
流れるように美しい、ハナと同じく輝くブロンドの髪。
大人しそうでありながら、時折見せる優しげな笑顔は紛れもなく美女だ。
(き……綺麗な人……。)
そして、見送りにきたメイド達が笑顔で荷物を渡す。
(あの笑顔は普段から良好な関係を築けているのね。人柄も問題なさそう)
リムジンが動き出した後もずっと頭を下げているメイド。見えなくなってからようやく顔を上げた後も、その笑顔は崩れなかった。
本人の前だけの作り笑いというわけではなさそうで、それは彼女の性格の良さも物語っているようだった。
(なっなによ!ヤバイじゃない!あれ、強敵よ!
フクオカ君、ポンコツだから、事故が起こる可能性、大ありよ!!
見に来てよかったー見に来てよかったー。くそーくそーくそー。
何とかして阻止しないと!)
サングラスを外し、執務室に戻ろうとするハナ。
「ハナ様、ごきげんよう。」
近所に住む伯爵夫人がハナに気づいて声をかけてきた。
「あら、ごきげんよう。」
「今日はどうなされました?その……お召し物が……。」
「これですか?、軍の任務中です。ところでアルヴェリオン侯爵のご令嬢はどのような方なんですか?」
「シャルロッテ様ですか?はい、とてもお美しく、お優しい方で、沢山の貴公子から声をかけられておられるようですよ。確か、最近だとフクオカ侯爵家のご嫡男から求婚されたとか。」
(きゅっきゅっきゅっきゅっきゅきゅきゅ、求婚ん〜!?)
「あら?お見合いだったかしら?」
伯爵夫人が訂正した時にはハナはいなくなっていた。
「ハナ様?」
ハナは全力で自室に向けて走っていた。
(エルミナ!やっぱりあなたは甘い、甘すぎる!
もうダメ!静観なんて無理!
やる!やってやるぅー!!!)
それからお見合いの日まで、ハナはエルミナを抜きにして、自ら妨害作戦を考えていた。
第7艦隊付属諜報部をフル稼働させて、フクオカ中将のその日のプランは全て把握した。
(フクオカ君、私は絶対あなたを守る!ぽっと出の侯爵令嬢なんかに奪われてなるものですか!)
・・・
・・
お見合い当日。
ハナは再び変な格好に着替えて様子を見に行こうとする。
エルミナと鉢合わせた。
「ハッハナさん……その格好は?」
「あ?」
(あーやばい、バレたバレた。エルミナにばれた、どどどどうする?)
「フクオカのことを監視しにいくんですね?」
「え?そっそんなことはない。こっこれは任務だ。」
「あー、はいはい。見に行くんですよね。別に止めませんよ。
そりゃ気になりますよね?」
「え?あ……うん。気になる。」
「じゃあ、着替えてください。普段のハナさんの私服に。
フクオカのことだ。お洒落なカフェやレストランに向かうでしょう。
ドレスコードもあります。むしろ普段の私服の方が周囲に溶け込めますよ。」
「そっそう?分かった。着替えてくる。絶対にエルミナは止めてくると思ってたよ。」
「いや、恋する乙女は止められませんよね。」
ニヤリと笑う。
「気にするなっていう方が無理なんです。下手なことしなければ私は何も言いませんよ。
遠目で見て、フクオカのこと、信じてあげてください。」
「うん、わかった。」
(ばっ、バレてなーい!!)
公爵令嬢に相応しい上品な衣装に着替えたハナは事前に調べ上げたフクオカ中将のデートコースを追った。
まずはお洒落なカフェ。
フクオカは店員に案内されるまま、シャルロッテをエスコートしながら店内を進む。
(ふっふっふ、作戦コード01「カフェ・アタック」始動!)
アイスコーヒーを持つ店員がゆっくりとフクオカ中将達に近づいていった。
そして何かにつまづき、コーヒーをトレイごと、フクオカ中将に向けてぶちまける。
だが、フクオカ中将は咄嗟の判断で、シャルロッテを手でその場に止め、コーヒーを避けつつ、店員を優しく腕で支え、転倒を防止した。店員はフクオカ中将に抱き抱えられ、目が合い、思わず赤面した。
「大丈夫ですか?お怪我は?」
(おっおい!そこは反射神経を発動しちゃだめなとこっ! ……でもカッコイイ。)
慌てて他の店員が現れて、粗相した床を掃除する。
「驚きましたね。」
さりげなくフクオカ中将がシャルロッテに向けて微笑んだ。
シャルロッテも少し赤面する。
(なっ何、あの表情!私にも向けろよ!作戦コード02「タイヤ・パニック」始動!)
カフェでの楽しい時間を過ごして、出てくる二人。
フクオカが乗ってきた自家用車がパンクしていた。
(ふっふっふ。貴族のボンボンには何も出来まい。慌てふためけ!)
「あ。少々お待ちください。
実は父が車好きで、自分でタイヤの交換もしていたんです。
僕もそれを見て自然と覚えました。」
手際よくパンクしたタイヤをスペアと交換した。
(なに、それ!万能すぎない!?好きっ)
ハッと我に返るハナ。
(フクオカ君、やはり私に相応しい。
小手先じゃ無理ってことね。プランBに変更!)
第7艦隊で諜報部隊が慌ただしく動く。それを見たエルミナが嫌な予感を覚えた。
「ハナちゃんっ!あんのバカっ!やらかす気だ!!」
エルミナは軍服のまま、慌てて事前に聞いていたフクオカの次の行き先へと急行する。
フクオカ中将達は、車で次の目的地であるレストランに向かっていた。
ハナも車で尾行する。
その時
ボンッ
フクオカ中将の車の前輪が小さな爆発と共にはじけ飛んだ。
その勢いで車が2回転して路肩に突っ込んだ。
(え?)
(えええ???)
(えええええええええええええ!!!!!!
――おい!諜報部!!!やりすぎぃ!!!)
(ふっ・・・フクオカ君っ!!!)
ハナも急ぎ、路肩に停車し、飛び降りて、フクオカ中将の車に走り寄った。
【あとがき】
『タイトル:提督の絶叫日誌』
えええええええええええええ!!!!!!
読者の皆様、ハナです!
これが、私の『お見合い阻止作戦』の結果です!
作戦コード01、02は失敗に終わりましたが、まさかプランBで、私の大事なフクオカ君の車が爆発して事故っちゃうなんて!?
おい!諜報部!!お前ら、作戦の意味わかってるかー!?
今、私は、大将の権限を公私混同した上に、最愛の人の命を危険にさらしたという、絶望的な状況にいます。
そして、この「フクオカ君の命の危機」……。
フクオカ君は無事なのか?エルミナはどうした!?
助けてよぉ、エルミナぁ。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
三連休の初日ということで、第3話まで一挙に公開いたしました!
来週からは、毎週日曜日 朝8時に、更新いたします!
次回、この絶望的な状況から、ハナ大将はどう立ち向かうのか、ご期待ください!
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(ひろの)
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