第14話 ジソリアンの影
エルミナがいやらしい笑顔を浮かべてハナの執務室に現れた。
「はーなちゃん!どうでした?熱い一夜を……を?
おぉ?
ナ……なんで、葬式みたいな顔してるんですか?」
「エルミナ……。私には何がなんだか分からない。
だが、葬式よりも酷い状態だった。
言うならば艦隊壊滅、生存者ゼロに等しい敗北。」
「ど………どうして?あの作戦で、なんで負けるんですか?!
いいですか!あの状態。
シールドとレーザー兵器を完備した近代戦闘機が、前宇宙時代のプロペラ戦闘機に負けるくらいの衝撃です!
いや、笑撃と言っていい!
どんなヘッポコ新兵が乗れば、その戦力差で撃ち負けるんですか?」
ハナがうつ向いて自虐的に自分を指さす。
「あぁ……ごめんなさい、ごめんなさい。ハナちゃん。自信を無くしちゃダメです。
大丈夫、大丈夫!艦隊壊滅、生存者1。つまりハナちゃんは生き延びた!」
「提督一人生き延びても……ぐすん」
「ハナちゃん!例え99回敗北しようとも、100回目で敵を滅ぼしたら完勝なんです!
たかが1回の歴史的敗北がなんだ!!」
「ぐす…………歴史的敗北……。」
「おい、もう、めんどくせーな!大丈夫だって。
少しくらいは進展あったんでしょ?で?詳細を恋参謀に報告して。」
・・・
・・
・
「ふぅ。今日は帰るわ!」
「あ……逃げる!?なんで!?慰めてくれないの!?」
「………。ドンマイ。」
「それだけ?」
「いや、想像の斜め上を行っていて、ちょっと慰めるセリフ考えてくるから明日まで待って。」
「やっぱり……。そんなにダメなんだ?私……フクオカ君を諦めなきゃだめ?だめ??だめ???」
「いや、だから……もう!極端だなぁ。
そうだ、プレゼントは何を貰ったんですか?」
「アイリス柄のこの高級ティーカップセット。結構可愛いの!
フクオカ君って、センスいいよね。」
「……。それ……。ハナちゃん!恋は10㎝以上、進んでるよ!」
「え?なんで?あれで?!」
「そう、あれで!
ハナちゃん達に、いきなり夜のお持ち帰りは100段飛ばしくらいで無茶だったのかもしれない。
十分、進展したよ。だから安心して。そのプレゼントはいいよ、ホント。」
「そうなの?婚約指輪とかが良かったのに……。」
「あほか!まぁ、いいや。でも、次、頑張りましょう!
フクオカのことだから埋め合わせにまたデートを誘ってくれますよ。
買い物デート………。楽しかったですよね?」
「うん。」
「なら、次は水族館とか遊園地とかどうですか?
持ち帰られなくても二人が幸せなのが一番なんですよ。
その間にいっぱい女を磨きましょう!」
「あ……。うん、楽しそう。」
「じゃあ、ニャル・ド・ブフはさすがに申し訳ないので、この高級チョコだけ貰っていきますね。
前もらったの、すっごい美味しかったので。」
「……。良いけど、ちゃんと次も頼むよ?」
「はい。」
エルミナはハナの執務室から退室し、フクオカの元へ向かう。
「ハナちゃん、花言葉とかあんまり興味ないのかなぁ?」
・・・
・・
「フクオカ―!入るぞ。」
いきなり宣言と同時にズカズカと入り込んできたエルミナにびっくりしたフクオカ。
「うあ!?ノック位しろ、礼儀を知らんな!」
「なんだ?ハナちゃんの写真にキスでもしてたのか?」
「おい、僕をどんな人間だと思ってる!」
「ポンコツだけど、ムッツリで、意外と天然な女たらし。」
「はぁ!?」
仕事の手を止めて、とりあえず迷惑そうな顔で、応接机に招いて座らせた。
そして自分も対面に座った。
(その辺は律儀)
「で、何の用だ?」
「あのデート、なんで帰らせたの?」
「ぶっ…。いきなりその話か!フクオカさんの調子が悪かった。
ただ、それだけだよ。」
エルミナはじっとフクオカの目を覗き込んだ。
「な、なんだ?」
フクオカの反論を無視してしばらくしてから、何か気づいたようにニヤリと微笑んだ。
「あっそ。まぁ、良いけど。そういえばだけど。
アイリスのティーカップ、ハナちゃんには通じてないぞ。
軍人なんだから、ちゃんと相手の力量を計って、行動しないといつか失敗するぞ?」
「いや、いいんだ。今はあれで。」
「い・ま・は??」
「うるさい!そんな話しかないんだったら、仕事の邪魔だ!帰ってくれ!」
「あ、いや。一応、仕事の話もあるんだが。”ジジキシ”、と言ったら通じる?」
急にフクオカの顔が険しくなる。
「お前も気づいていたか。」
「もちろんでしょ。ハナちゃんのために、周りには気を配ってるわよ。」
「”ジジキシ”……最近ジソリアンが、よくその言葉を使う。
ジジキシ、ゼゼゾゾジジゾ。
万能翻訳機にかけると、『敵、零七の刃羽』だ。」
「そうよ、ハナちゃんのことね。”ゼゼゾゾジジゾ”は”零七の刃羽”で間違いなさそうだけど、”ジジキシ”は通訳に尋ねても、適した言葉がないと言っているわ。”敵”としか訳せないと。」
「だが、ジソリアンの”敵”の言葉としては、”ジジャ”の方が一般的だ。
”ジジャ”を使わずに、あえて”ジジキシ”を使い分けている。
何かしらニュアンスが違う可能性があるが、わからない。」
「さすがフクオカ、ちゃんとあんたも気にしてたのね。どうする?ハナちゃんにも報告する?」
「うむ、今、ジソリアン言語の第一人者の知己に意味を問い合わせている。
過去の事例や他国のデータベースとも照らし合わせて、最適な訳語を探してもらっている。
今報告すべきかは迷っているところではある。」
「わかった。現時点では単に不安を煽るだけよね。
情報連携しましょ。
もう少しだけ情報を得てから、ハナちゃんにも共有しましょう。」
「あぁ、異論はない。”ジジキシ、ゼゼゾゾジジゾ”。
この言葉を発しながら国境沿いで挑発するジソリアン艦隊は多数、捉えてはいる。
妙な胸騒ぎがするんだ。
エルミナも警戒を怠らないでくれ。」
「えぇ。もちろんよ。じゃあ、私は行くわね。」
きょろきょろと辺りを見回すエルミナ。
「どうした?」
「いや、なんでもない。
持ち帰れそうな美味しいものがあるかな?と思ったけど。
何もないわね。
ハナちゃんの部屋と違って、あんたの部屋はつまんないわ。」
「いや、それはたかりに来た奴のセリフか?」
「あ、良いの見っけ!これ貰っていい?」
半分ほど減ったSilent Valorの香水を指さした。
「なんであげなきゃならんのだ?」
「アイリスの花言葉、ハナちゃんに伝えるわよ?」
「……。持っていけ。」
「まいどー!じゃあ、またね!」
「用がないときは来るな!」
部屋から出たエルミナは再びハナの執務室へ向かう。
「ハナちゃんにこれあげよーっと!
同じ香りどころか、フクオカの体臭までついてるかもしれないプレミアム物だわ。
ニャル・ド・ブフと等価交換できそ♪
ハナちゃん、アイリスの花言葉は『恋のメッセージ』だ。
頑張れ!」
ニヤニヤ笑いながら、ハナの元に向かいながらも、エルミナは”ジジキシ、ゼゼゾゾジジゾ”が気になって仕方がなかった。
【あとがき】
『タイトル:提督の敗北と恋のメッセージ日誌』
艦隊壊滅…でも、水族館で再出撃です!
ハナです!宇宙軍大将、恋の戦場で歴史的な大敗北を喫しました。エルミナに**「プロペラ戦闘機に負けるくらいの衝撃」**とまで言われ、さすがのハナもどん底です…。
持ち帰ってよぉぉ、フクオカ君のヘタレ!
しかし!敗北の中にも希望はありました! フクオカ君が贈ってくれたアイリスのティーカップセット。エルミナの情報だと10㎝くらい恋の進捗があったようです。
ティーカップって恋アイテムなの、初めて知りました。奥が深い。
そして、物語は急展開です。
フクオカ中将とエルミナ参謀長が、ハナに隠れて調査を始めた謎のジソリアン暗号「ジジキシ、ゼゼゾゾジジゾ」!
「ゼゼゾゾジジゾ」はハナの**「零七の刃羽」を指すようですが、その前に付く「ジジキシ」**という「敵」を意味する未知の言葉のニュアンスとは…。
ハナの身に何が起きるのか?そして、フクオカ君の「何でも言うことを聞かせることができる願い」はいつ、どんな形で使われるのか?
毎週 日木 朝8時更新!
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(ひろの)




