【VRゲーム】ほんのちょっとした勘違いで
VRMMORPGもの。主人公は14歳。
「るなのお母さん、今度はVRのヘッドセット当てたの?」
親友のまゆが、聞き返してくる。
「うん、しかも最新型なんだって」
「うわぁ、いいなぁ! たしかPCも懸賞だったでしょ、るな」
学校の昼休み。給食のあと、私たちは中庭に来ていた。
「うん、だからね、まゆ……」
私は、両手を合わせて、お願いのポーズをとる。まゆは、たしかもう、いくつかのVRゲームをプレイしている、というから。
「おっけー、この、まゆ様が、オススメの最新作を案内してあげよう!」
「やったー!」
得意気なまゆに、私は少し大袈裟に喜んで見せた。
そして、顔を見合わせてくすくす笑う。
「全然わかんないし、まゆが頼りだったんだよー」
「まー、スマホで無課金アプリしてるぐらいだっけね、るなって」
スマホを取り出して、くるくるといじりだしたまゆ。いい感じのところを、早速探してくれているみたい。
「興味がないわけでは、ないんだけどね……」
ため息を吐くように言うと、ふふふと柔らかい瞳を向けられた。
「VRって、どうしてもPS出るしねぇ。そういうの、なくても楽しいとこで選ぶね」
「PS?」
知らない言葉が出てきた。ゲーム用語?
「プレイヤースキル。現実で運動神経とか、動体視力とか、いい人の方がやっぱりうまいんだよ。つまり、結局そういう人の方が強くなっちゃうわけ」
それを聞いて、肩を落とした。私の体育の成績は、「がんばりましょう」ばかりだ。
「あうう……まゆはいいなぁ、運動神経いいもん」
まゆは、それに対して首を振る。
「VRの魅力は戦闘だけじゃないからね。例えば……現実ではなかなか行けない絶景だとか」
「絶景」
「現実だと、滅多に食べられない美味しいものとか」
「美味しいもの!」
「現実じゃ飼えないペットとか」
「ペット!」
「そういうのを体験できるのが、VRなのさっ」
「体験した~い!」
両手を振り上げる私。声をあげて笑うまゆ。
「あはは! うん、やっぱりあたし、るなと一緒にプレイしたい。効率だとか、攻略だとか、そういうのぜーんぜん考えないで、ただ楽しくゲームしたい!」
すごくいい笑顔だ。うん、私も、まゆと楽しくゲームしたいよ!
「ねぇ、これにしようよ、るな。あたしのゲーム友達に誘われてたヤツなんだけど、のんびり出来ていいよ、って言ってたから」
まゆのスマホの画面には、カラフルなかわいいキャラクターたちと、『祝一周年』の文字が踊っていた。
「へぇー、かわいいね!」
「よくあるリアルフェイスじゃなくて、2Dアニメ風だからね。アニメの世界に入ったみたいな気分になるんだって」
たしかに、VRといえば、まるで現実かと思うような、リアルな映像を売りにしているところばかりをよく聞く。
「リアルじゃない、ことを利用して脳を騙して、他のゲームじゃできない駆動も可能になってる、って話題だったかな」
スマホを自分の手元に戻して、まゆが続ける。
「まぁ、あたしたちに一番関係あるのは、グロ表示が軽微なのと、モンスターが可愛いこと。あとは、月額で、学割が利くことかな」
「ゲームに学割……!?」
「いや、今どき普通だから」
ゲーム詳しくないから、ぜんぜん知らなかった。まゆに教えられたURLを、自分のスマホで見ると、一周年記念で学生は2ヶ月無料になっていた。
ただし、普段の料金も割引つきなら、私のお小遣いで余裕だ。
「うん、これ。しよ、まゆ!」
「うん! やろう、るな!」
私たちは、笑顔で頷きあった。
◇
世界初のVRMMORPGが、発売されてから、7年。
年々、参入企業は増えていき、続々とタイトルが発表される。
内容も様々で、近未来的なもの、人間が存在しない亜人だけの世界、宇宙空間、海中都市、ただただ田舎でスローライフ体験するだけのものなど、多種多様な「現実にはできない経験」を味わうことができる。
けれどもやはり一番人気は、剣と魔法で魔物を倒すような、物語のような異世界を冒険するもの。
もはや発表されるたび、「また似たような」と言われても、必ず売れてユーザーを獲得するため、VRMMORPGタイトルの80%はその形式で、人気タイトルの上位もほぼ独占している。
これらは、ちょっとしたマイナーチェンジと、ほんの少しの、けれども確実な進化を繰り返しながら、新しい異世界をどんどん人々に届けていった。
そして、それはVRゲームに馴染みのない人々にも、異世界への切符を手渡していくことになる。
そう、本作主人公、本宮るな、14歳にも。
彼女もまた、これが家庭用VRゲーム初挑戦となる。
ほんのちょっとした勘違いで、とんでもないことに巻き込まれるとも知らないで。
◆
設定の終わったヘッドセットをつけて、ベッドに横たわり、ゲーム名を選んでエンターを押す。すると、一瞬だけ体の感覚が薄れて、戻ってきた。
その時には、周囲は私の部屋ではなくなっている。こういうタイプは、フルダイブ型VRというらしい。
まるで明晰夢のような感覚を受けながら、私は、硬質で無機質な世界の中にたたずんでいた。
辺りが暗いようなのに、自分の姿がはっきり見えるのは……単に、壁や天井が黒いからなんだろう。
ただ、部屋の中という感じはしない。無限に広がっている空間、という感じだ。黒いけど。
そんな空間に、突然電子的な直線が走った。
発光しているように見える、その青白い細い線は、数十本に増えて、私を四角く取り囲む。
そして、半透明な板に文字が書かれたものが次々と浮かぶと、最後に薄着の少女のアニメーションモデルが浮かんで、ゆっくりと回転し始めた。
どことなく、自分に似ていなくもない。
≪ようこそ、フロックスハーモニー オンラインの世界へ≫
今まで、ヴンッという、起動音のようなもの以外なかった空間に、初めて誰かの声が響いた。
聞き取りやすい、女性の声だ。
≪キャラクターメイキングを開始します。詳細説明を聞きますか?≫
キャラクターメイキング。
事前にいろんな注意を聞いていた。本名は避けること、とか、姿はできるだけカスタマイズしておくべきだとか。
他には……
初めてのVRで迷うなら、キャラクターはお任せがいいだろう、って。
だから、目の前の透明板に浮かぶ『yes/no』の表示には触れないまま、私はこう言った。
「おまかせします」
≪……音声入力確認。回答分析します……ERROR。再分析……音声確認。……ERROR。ERROR:381……検索…ます。おまち……さ…………SCENARIO OPTIMIZATION………… METHOD IN EMERGENCY…………PROGRAM ……。……介入…………認識……CLEAR。プログラムを起動します≫
なにかすごくいろんな、ごちゃごちゃした音声と機械音が流れ続けたと思ったら、急にスッキリとした。
そして、目の前のモデルや透明な板が取り払われ、電子線がくるくると回転したかと思うと、『ポーン』という音とともに、装飾された透明板が浮かぶ。
[ Welcome "Phlox harmony On-line" ]
≪フロックスハーモニー オンラインはあなたを歓迎します。どうぞ、楽しい冒険を≫
女性のアナウンスが流れたとたん、黒で埋め尽くされていた空間が、みるみると白く塗りつぶされていき、私は、眩しさに目を閉じた。
◇
再び目を開けると、そこは広場の真ん中だった。
人々の声、柔らかく爽やかな風がほほを撫でる。匂いは林の中のような、緑とほんのり土の香り。暑すぎず、寒くもない空気。
アイボリー調の石畳の向こうには、まるで絵本に出てきそうな、石積みの家が立ち並んでいる。
アニメの背景のような、柔らかな映像でなければ、現実だと疑わなかっただろう。そんな感覚を私は受けていた。
「うわぁあ~!」
思わず声をあげた私に、何人かが振り向いたが、そのまま行ってしまう。
気にせず、私は歩き出した。
すると。
≪まずはチュートリアルを受けて、この世界での体に慣れましょう。チュートリアルを開始しますか?≫
一歩進んだところで、女性の音声と共に、透明な板の上に『yes/no』が書かれたものが、目の前に立ちふさがった。
チュートリアル、って、受けた方がいいよね?
私は『yes』の文字に人指し指をあてた。
≪チュートリアルの特典として、職業に応じた初期装備と、いくつかのアイテムを配布しました≫
≪チュートリアル終了までは、既定のNPC以外との会話はできません。チュートリアル終了と同時に、他者に認知されるようになります≫
≪これよりチュートリアルを開始します≫
音声と共に、目の前の板が白い煙に包まれ、ぽん、という音に合わせて、水色のハムスターに羽が生えたようなぬいぐるみが出現した。
『ジャジャ~ン♪ チュートリアルの妖精、チュアルだよ! しばらくよろしくね~♪』
すっごく明るい自己紹介に、面食らっていると「おやおや~?」と顔を覗き込まれる。
『ノリが悪いよ? 月詠ちゃん。ここは新しい世界なんだから、パァ~っとホラ、ハッピーに!』
え?
「いや、私は……」
『ホラ、ボクに続けて~「私は、月詠ちゃんだよ~☆」』
いやいやいや、何?
何言ってるの? ハムスターちゃん。
「あのっ、私はつくよみ、なんて名前じゃないです」
『へ?』
いやいや、ポカーンとされても困ります。
どういうこと?




