表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傍役メランコリー  作者: 夏冬
29/32

29.一見さんお断り


校内を駆けずり回っていると、私に連れ回されることに痺れを切らしたらしい篠崎くんが「いい加減にしろ!」と怒って図書室に戻っていってしまった。

まだ忘れ物を探している途中だったからと、めちゃくちゃキレられた。

だからといって、ついでに頭にチョップまでしてくるのはいかがなものかと私は思う。

暴力反対。

そして逆に東堂くんといえば、意味が分からない。


「松村さんの本当の姿が見れて嬉しい。」だと。


王子よ、下賤の身にも分かるように解説をつけてくれないか?

髪を振り乱して血眼で走る私が東堂くんの言う本当の姿だとするなら、私って一体…?

東堂くんは私のことを、ヤマンバか何かだとでも思ってるのだろうか。

解せぬ。



ところは変わって、教室。

私は必死に呪いを解く方法を携帯で探していた。

でなければきっと、あの本が私の手元に戻ってきてしまうようでならないのだ。


「……聞いています? あなた。」


故に、携帯画面に夢中になるあまり、私は目の前に見目麗しい殿方がやって来たことにもしばらく気づかなかった。


………あれ。

おかしいな、幻覚が見える。

生徒会の副会長殿が私のクラスにいるような…。


「僕の声が聞こえませんか、そうですか。わざわざ下級生の教室にまで足を運んでさしあげたというのに、なんという無体でしょうね、これは。」


間違いない。

副会長だ。

憂いた顔が似合うと大人っぽい雰囲気が女子に人気の、もっと言えばたまに出てくるドS発言が一部女子にとって大変な需要になっている副会長だ。


私は文字通りのけぞり返った。

うわぁ!? っと。

びっくりして、うん…椅子ごと後ろに倒れてしまいそうだったのをなんとか持ちこたえたのはいいんだけどね…。


驚いて床に落としてしまった携帯は、私が浮かした椅子の前足を戻すことによって、見事に下敷きとなり、潰れた。

バキッ、なんて音がこだまする。


「……。」

「……。」


い、いやぁぁー!!

携帯がぁ、私の携帯がぁ!

何なのこれ呪いなの!? 私、死んじゃうの!?


副会長のこいつ何やってんだ的な視線から逃れるように、私は急いで砕かれた携帯の破片を集める。

折りたたみ式の携帯が、画面だけになってるがな…。


「落ち着きがない人ですね。いえ、そんなことより…。」


え、副会長。

私の携帯が壊れたのはそんなことなの?


「はぁ。何度も説明するのは手間なので、単刀直入に言いますけど。風紀から呼び出しを受けたというのは事実ですか?」

「え、あ、は…、」

「そうですか。あなたもなんてことをしてくれるんですか。生徒会の名に傷がついてしまうでしょう。分かってますか?」


ちょっと待って。

肯定しきる前に言葉をかぶせてこないで。

コミュ障相手にそれは禁忌の技だ。


「ごめ――、」

「謝って済む問題ではありません。あなたにはきちんと責任をとっていただきます。」

「……。」


だから、最後まで言葉を言わせてほしい。

こっちは勇気出して会話してるのに、この副会長ってば私のせっかくの勇気をズタボロにしてくるぞ。

精神HPがガリガリ削られてゆく。


「あなたにはがっかりしましたよ。僕たちに秋波を送らず、それどころか姿すらまともに見せずに生徒会の仕事をこなしていたので、女を捨てた生き物かと思っていたのに。まさか風紀から呼び出しを食らってしまうとは。磐城みたいな男があなたの好みだったんですね。」

「……はい?」


どこをどうツッコめばいいのか分からない。

私はあなたさまの発言にがっかりだよ。

風紀委員長が好みっていうのもよく意味が理解できないけど、何より生徒会の仕事を頑張っていただけで、女を捨てた生き物扱いされるのは何故。

まだ捨ててませんとも。


「自分で考えてみなさい。何をすれば僕たちの温情に報えるのか。」

「え、…っと。せ、生徒会をやめ、」

「させまんせんよ。責任をとって辞表を出すのは馬鹿のすることです。本当に罪の意識があるのならまず、事態の収拾に全力をあげるべきでしょう。」


あ、はい。

副会長は、どうしても私に全文を喋らせない気だ。


「そしてマイナスイメージを払拭し、プラスに変え、クリーンなところをアピールするのです。それこそ、罪を働いた者が本来担わなければならない役割だと思いませんか。」


あれ、いつの間に私は犯罪者?


「僕は、土から出たばかりの新芽を潰す気はありませんよ。」


よく分からないけど副会長がにこりと笑うので、私もぎこちない笑みを返す。

…だって日本人だもの。

笑いかけてきたら笑い返す、これ基本。





そして、あっという間に憂鬱な昼放課になってしまった。

私は重たい足どりで生徒指導室に向かう。


うう…っ、副会長は事態の収拾をしろと仰せだけど、一体私にどうしろと。

今から会うだろう風紀委員長が怖い。

あの人は生真面目で頭が石のように固いと有名だし(もちろん物理的な意味じゃない)、デレるのは相田ちゃんの前でだけだ。

ハッ!

ということは、相田ちゃんを連れていけばいいのでは?

私ってばナイスアイデア、と自分で自分を褒めたくなったが、彼女を連れていけば私が何をして風紀に捕まってしまったのかがバレてしまう。

必然的に呪いの本が明るみに…!

それだけは避けたい。

よって、この名案はすぐに却下された。


そうこうしている内に生徒指導室にたどり着いてしまい、私は扉の取っ手に指を添えたまま、動けずにいた。

この扉を開ければ、そこは戦場だ。

私の言葉一つで戦況が大きく変わる。

失敗は命取り。


例のブツが、私の物でないことだけは、何としてでも釈明しなきゃ…!


私は意を決して扉を開けた――。



「だぁ~かぁ~らぁ~! ピアスはおしゃれなの! これがないと俺は生きてけないの! 女のコだってピンで髪を留めるでしょ? それと同じようなもんだし!」

「ヘアピンは髪をまとめるために使うものだ。それと同列に扱うなら、お前の耳には髪の毛が映えていることになる。」

「んなわけないじゃん! ただの喩えだから! 想像しちゃってちょっと気持ち悪いんだけど! もう俺この人やだー。言葉通じないー。」

「言葉が通じないのはお前の方だろう、三枝。風紀検査の度に引っかかるお前はまったく反省の色が見えない。」

「だってそもそも悪いことだと思ってないし、する反省なんてありませーん。」


…………なんか先客がいらっしゃった。


よく見ればその人は生徒会の会計によく似てて、というか会計その人だ。

え、会計も検査に引っかかったの。

それも会話を聞いていると毎回のことのようだ。


そういえば。

教室で会った副会長は、あなたもって言っていたような…。

ああ、だから副会長は私を生徒会から辞めさせなかったのか。

生徒会には既に常連さんがいるから、一見さんの私を辞めさせたら、必然的に会計も辞めさせなきゃいけない。

なるほど。


「あっれぇー? なんかどこかで見たことある顔が…って、ああ! まっちゃん!」


まっちゃん?

扉を開けた状態で固まっている私に気づいた会計だけど、今一瞬私を忘れてたよね、確実に。


「まっちゃん? …松村のことか。よく来てくれたな。」


そして風紀委員長のセリフがボスキャラに重なって思えるのは私だけかな。


「へー。まっちゃんも何かしたの? イメージ湧かないけど。」

「彼女は……、」

「な、なんでもないんです! それより、風紀委員長。どうぞ先程のお話の続きをしてください。」

「えー! ちょっとまっちゃん、俺を売らないでよ~。」


あぶない、あぶない。

危うく例のブツのことがバレるところだった。

この状況…油断できない…!


「てゆーか、そうそう! まっちゃん、俺があげたチケットで、なんであいつ誘わないの?」

「え。」

「フラれちゃった? ん~、でも、尚を見る限り脈なしってわけじゃなさそうだし…。」


あぁぁ!

そういえば、以前にこれを使って生徒会の書記を誘い、既成事実でも作ってこいと無茶難題を言い渡されて、水族館のチケットを無理やり握りしめさせられたような…。

すっかり忘れてた。


「あ、ひょっとして今は鬼の風紀委員長を攻略中? やるねぇ! 確かに風紀委員長自ら女の子を指導するってのも珍しいしー。いいよいいよ~、その調子で生徒会の他の連中も頑張って! そして、彼女は俺がいただいちゃうから!」


小声で語りかけてきた会計は、相変わらず思考がぶっ飛んでた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ