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ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


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乾いた王国と琥珀の眼

 社食で羅那とサナは、珍しく昼食を取っていた。

 今日は忙しく、サナがお弁当を作れなかったらしい。

「ん……あれ?」

 思わず、レディースランチを食べていたサナの手が止まった。


『古代王国文明展――“乾いた王国”からの贈り物』

 社食に置かれた大きなモニターに、突然見慣れないCMが流れてきたのだ。


 画面は黄金色の砂嵐で埋まり、遺跡の柱、崩れた神殿、縦に長い石棺、そして――

 包帯に包まれた王の像が、ゆっくりとこちらを向く。

 その目だけが、琥珀色に光ったように見えた。


 羅那の魔力が、ほんの一瞬だけ乱れた。

 羅那の胸の奥が、ひりつく。

 息をする空気が一瞬だけ乾いた。

(……これは)

 羅那は眉間を寄せ、無意識にサナの肩へと手を伸ばした。


 サナは気づかないまま、CMの続きに夢中になっている。

「わぁ……すごく綺麗。神殿の柱、見て羅那くん、彫刻が細かいよ!」

 画面には『アスファロス王の黄金仮面』の映像が映し出されている。

 光を吸い込むような包帯の紋様。

 砂が巻き上がり、王が立ち上がるような映像演出が流れていく。


『――千年の時を超え、乾いた王が帰還する』


 ナレーションの声は抑えた低音で中性的なのに、それだけ、やけに響いた。

 羅那の耳に、嫌な感触が残る。

(この声……どこか、魂に触れてくるような――)


「羅那くん? どうしたの?」

「……今の映像、気にならなかった?」

「え? すごい良かったよ? 何か変だった?」

 サナは純粋に楽しげで、そこに不穏を感じた様子は一切ない。


 だが羅那の掌は、サナの肩に触れたまま、ひどく冷えていた。

(サナの気配に触れてようやく、治まった……?)

 なんだか、不穏な気配だけが感じられて……。


『乾いた王国文明展 来月開催――特別公開、アスファロス王の石棺』


 画面に、石棺の影が映る。

 暗闇の奥で、一瞬――目が、光った。

(……見間違い……じゃない。何かが、呼んでいる)

 その『呼びかけ』は、羅那ではなく。

 隣でほわっと微笑む彼女の方へ向けられているようだった。


「ねえ羅那くん、これ行きたいな。すごく綺麗だった。展示会、二人で行こうよ!」

 サナの無邪気な笑顔が眩しい。

 羅那は、一瞬だけ答えに迷った。

 サナの肩に置いた手に、ほんのわずかに力が入る。

「……ああ。行こう、サナ」

「ほんと? やったぁ!」

 嬉しそうに腕にしがみつくサナ。

 その温度だけが、羅那を現実に引き戻した。


(だが……警戒は、必要だ)


 CMは終わって、社食の空気は元の談笑に戻っていく。

 しかし、羅那の胸奥で燻り始めた『乾いた痛み』だけは消えずに残ったのだった。





 『乾いた王国とアスファロス王』。

 その特別展の準備が終わった深夜、警備員の安藤は最後の巡回をしていた。

 展示室の中央には、古代王アスファロスの棺。

 その周囲には、王妃の寝台や、琥珀で編まれた宝飾帯が淡く灯りに照らされている。

「……なんか、ずっと見られてる気がするな」

 安藤は、博物館を見回りながら、辺りを見渡す。しかし、異常はなさそうだ。


 と、思った瞬間。明かりが一つ消え──

 静けさの中、展示ケースの奥で『光』がゆらりと揺れた。


 ――琥珀色の目が見えた、気がした。


「……は?」

 ありえない状況に安藤は思わず、素っ頓狂な声を出してしまった。

 そんな安藤の耳元で囁き声がする。


 ──王妃……還せ……。


 その声に導かれるように、振り向いた瞬間。

 白い包帯のようなものが床を走り、安藤の足元に絡みつく。

「や、やめ──っ」

 安藤がもがけばもがくほど、その包帯のような物は、彼の体に覆いかぶさり巻き付いていく。

 ぐるぐるとぐるぐると体全体を覆い尽くしていく。

 安藤の視界は砂嵐に包まれ、身体の水分が一瞬で奪われていった。


 そんな安藤が最後に見たのは、琥珀の瞳。

 彼を『選別するように』見下ろす、古代王の影だった。

 ――そして安藤の遺体は翌朝、完全に乾ききったミイラとなって発見された。




「……死因は『急速脱水』。こんなの、ありえないだろ」

 安藤の遺体発見に、警察の検視室では、全員が頭を抱えていた。

 被害者は、事件当時、健康体だった。

 病気も怪我もない。

 しかし、目の前にある遺体は、皮膚は紙、内部の水分はゼロを示している。

 こんなこと、人間が出来るものではない。人知を超えた何かの仕業。

「これは……人ならざる者が係わっている。我々が手に負える事件じゃない……」

 鑑識の宮本がそう告げる。

 と、思い出したように捜査員の森田がこう報告してきた。

「監視カメラの映像には、変なノイズと……『金色の目』が映ってたな」

 隣にいた警官もまた。

「それだけじゃなく、囁き声もだ。まるで『王妃……還せ……』ってな……」

 それらを纏めて、鑑識の宮本がもう一度、告げる。

「すぐ浅樹家に繋げろ! 確か、今の当主は浅樹翔氏だったな。彼に連絡を!!」

 その言葉に周りの反応は早かったのだった。




 そして、浅樹邸の執務室では。

 翔は届いた資料を読んだ瞬間、眉を顰めていた。

「……水分がすべて消失。『乾き』の呪術か……」

 その翔の呟きに、側にいた側近が声をかける。

「アスファロス王ゆかりの展示が影響していると?」

 側近の言葉に翔は頷きながらも、翔はそっと見ていた資料を机の上に下ろした。

「恐らくな。断定はできんが、状況が合いすぎている。だが俺が行くわけにはいかない。現地の調査は──羅那に行かせる」

「ですが羅那様は、最近魔力が不安定だとか……」

「分かっている。だから『後方支援』扱いにしろ。サナも同行させて、羅那を落ち着ける役を任せる」

 僅かにため息をつき、父としての表情で天井を仰ぐ。

(羅那……気をつけろ。『乾き』は、お前の属性と最悪に噛み合う。お前の『再生と命の流れ』を象徴する力とな)




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