手水舎でのささやかな出会いと
石段を登り切った先に、小さな社殿と、その手前に手水舎があった。
苔むした石の縁から、か細い水音が響いている。
「……ここ、まだちゃんと水出てるんだ」
サナは少し驚きながら、近づいた。
鳥居の荒れ具合に比べて、手水舎だけが妙に整って見える。
それがかえって、落ち着かない。
柄杓に手を伸ばし、きちんと手を清めていく。
なんだか、少し落ち着いてきた。
「……つめた」
けれど、それが心地よくて……。
「どうして、ここに……?」
「ふえっ!!」
声が聞こえた方に顔を向けると、そこには綺麗な女性の人が立っていた。
少しだけ半透明なのを見ると……きっと彼女はもう……。
「えっと、知り合いがこの奥で落とし物したらしくって、それを拾いに来ました」
「そう……」
「えっと……こういうの、見ませんでしたか?」
サナは自分の携帯電話取り出して、彼女に見せた。
ふるふると、彼女は首を横に振る。
「そっか……じゃあ、もっと奥ですね……」
行こうとするサナを。
「待って……」
その手首を持って止めた。
ひんやりした。
ううん、それだけじゃない。なんだか凄く切なくて悲しい気持ちが湧いてきた。
「ここ……昔はこんなんじゃなかったの……」
女性は少し悲しげに告げた。
「なんとなく、わかります……ここが綺麗なのも……そのお陰、なんですよね?」
サナの言葉に女性は、嬉しそうに微笑んだ。
「大切な思い出があって……ずっとここに縛られてた……でも、もう……いいかなって……」
その言葉でサナは、理解した。
きっと、約束をしていたんだろうと思う。
もし……私も羅那くんと同じ約束をしていたのなら、きっとずっと……。
「あの……上に行きたいですか?」
サナは彼女に近づいていく。これは私にしかできないことだと思ったから。
「して……くれるの?」
「たぶん、できると……思います。いいですか?」
「ええ……少し、疲れてしまったから……」
そう笑う女性にサナは、少しだけ胸を痛めて。
冷たいその手に触れて、願う。
――せめて、浄化した先であなたの願う人が待っていますように。
「ありがとう……」
少しずつ、女性の体が消えていく。下から少しずつ、少しずつ。
「お礼に一つだけ……たぶん、あなた……この奥に行かない方がいいわ……きっと……」
そう告げて、儚げに笑って女性は消えていった。
これで、よかったんだろうか。ううん、きっとよかったはず。
「でも、私……行きます。それが私の大切な役目ですから……」
少しだけ元気をもらったような気がしたから。
懐中電灯を握り直して、サナはまた、歩き出したのだった。
駐車場に一台の車が入って来る。
黒のランボルギーニ。
そう、羅那の車だ。
キッ……と、止めて、すぐに車から羅那は出てきた。
「うん、間違いない。ここに……サナがいる」
そして、嫌な気配もしっかりと感じ取っていた。
「さてと……行くか」
そのまま、慣れた所作で階段を昇って行って。
「……そこにいるのは分かってる。来るなら来いよ」
足を止めて、脇の草むらに声をかけた。とたんに黒いオーラのようなものが羅那に襲い掛かってきて。
ばしゅっと、消えた。
いや、燃やしたというべきか。
「廃神社か……万が一の時は、燃やしていいか……アーク?」
そう呟いて、階段にいる異形を残らず、全て消し飛ばした。




