根っからの社畜でした
いつものように、羅那は仕事をこなしていた。
人よりは、かなりの量をこなしている。
というか、若い時から無茶ぶりされている所為か、これくらいの仕事量なら片手間で動かすことが出来るようになっていた。
もちろん、他者に回す時は、ガンガン回している。――ただし、ある一人にだけは、例外だった。
「ふう……今日はこの辺にしとくか」
ガッチガチになった肩をぐるぐると回して、立ち上がろうとするそのときだった。
「あー羅那くん。ちょっといいかな?」
美咲と吉岡が羅那のところにやってきたのは。
「ふんふんー♪」
サナもいつものように仕事をこなしていた。
主に雑用を、なのだが。
「サナもお疲れ様」
甘いいちごミルクを手に、羅那がやってきた。その笑顔は柔らかいのに、目の奥だけが、ほんの少しだけ鋭い。
「あ、ありがとう。ここのいちごミルク美味しいよね」
こくこくと飲みながら、まだ続けている。
「ねえ、サナ……周りよく見ようか?」
「んん?」
辺りを見渡して……残っているのは、サナと羅那……だけっぽい。
「おお、みんなもう帰っちゃってたんだね」
「うん、そうだね。就業時間は終わってるね。で、サナはまだお仕事してるの?」
「後もう少しで終わるんだ。だから、ちょっと待ってて」
「うん、わかった。じゃあ、隣で待ってるよ」
「……んん!? な、なんで隣!?」
隣の席の椅子にちゃっかり座って、じっとサナを見ている。
「美咲と吉岡から聞いているよ。またサナの顔色が悪いって」
「え、うそ……普通だよ?」
「ふうん、君の普通はそれか」
ちょっとだけ、声が低くなったのは気のせいだろうか?
「それだけじゃない。他の社員からも、サナが働き過ぎじゃないかって、意見が届いてる」
「えっ!?」
「他にもあるよ? 専務からは仕事振りすぎじゃないかとか、秘書から注意受けてるし……それに、狛犬部隊から、サナが具合悪そうで心配だって聞いてるし」
「え、どうして社員さん達から?? えっ!? ど、どうして、そこで、狛犬部隊の人達が出てくるの?」
「さて、どうしてなのかなー? まあいいよ。じゃあ、サナ。今日はそこで終わりね」
「えっ、あっ!! まだ保存してなかったのにっ!?」
「ちゃんと、こっちで保存してるから気にしないで。後で転送で送っておく。けど、君のケアの方が先だね」
いや、そうじゃないかと羅那は呟き。
「サナー、まずはこっち来ようか?」
ぐいっと立ち上がらさせて、明るい洗面所へと連れていき。
「鏡の中の君を見てみようか? ほら、顔色悪い。なんでこうなってるのか……明日聞くことにするから、覚悟してね?」
「えええええっ!?」
その後、近所の温泉スパにサナを連れていき、極楽浄土なマッサージをこれでもかとキメさせて、帰宅したのだった。
そして、翌日。
ここは、羅那のオフィスに足を組んで、腕を組んで、羅那はサナを見下ろしていた。はっきり言って、怒っている。
「えっと、その……私、ただお仕事をしてただけ……だよ?」
「じゃあ、今日、これからしようとしている仕事を教えてくれないかな?」
「言わなきゃ……駄目?」
「全部、ね!! ひとつ残らず、全部!!!」
ひうっと声を上げつつ、サナはひとつずつ上げていく。20項目ほど上げたところで羅那は頭を抑えていた。
「サナ……分かってる? 今、君は研修員だよね?」
「はいっ!! なので、精一杯、なんでもかんでもやってましたっ!!」
びしっと敬礼するサナに、羅那は大きな大きなため息をついた。
そんな様子をそっと見守っていた美咲が言う。
「わかった、羅那くん。サナ……社畜が体に染みついてるのよ……」
「そのようだね……方々からの報告とも間違ってはいないし……」
もう一度、ため息をついてから、サナに向き直った。
「昨日、父さんからもどやされたよ。サナに仕事を振りすぎだって……言っておくが、僕は君にひとっつも!! これっぽっちも仕事を回していないからな!! 誰だよ、俺がサナに仕事を回してるって言った奴はっ!! むしろ、俺が代わりにやってるっ!!」
「……あ、そうだったんすね」
思わず、吉岡が呟く。というか、たぶん……社員全員が誤解してた……かもしれない。
「で、サナ……その君の仕事は! どこから持ってきたっ!?」
「え、えっと……その……目についたものから……その、貰ってました」
その言葉に、周りの社員も羅那も目が点になった。
「こういうのって、先手を打った方が早く終わったりするから……その、困ってたら、手を出したくなっちゃうし……えっと……」
「ということは、サナ……君は、困っている社員達の仕事を、全部引き受けてたのか……?」
「うん、前の会社はそうやって……」
「前の会社はもう忘れて!! ここはあそこよりもホワイトな職場なんだから!! みんなも勝手にサナに仕事振らないでね!! うん、よし決めた!! 今日からサナの仕事は、僕が責任もって管理する!!」
「え、えっと羅那くん?」
「それと、サナ!! その社畜な気質は即刻辞めること!! そんなに仕事してたら周りもやらなきゃいけないのかと誤解するから、マジで辞めて!! いいなっ!! ……それに、君が倒れる方が、よっぽど困るんだよ」
「で、でも、羅那くんはいっぱいお仕事してるよね?」
そのサナの口ぶりに、キッと思わず羅那は睨みつけてしまった。ギンと。
「僕はいいんだ!! 他の社員が出来ないことを回してるし、親父の無茶ぶりだからいいんだ!! けど、サナのそれは違うだろ!! ということで、今日からサナの仕事は、こっちで割り振る。それ以外、勝手にするな!! いいなっ!! それと、他の皆も!! サナが優しいからって、仕事を渡さない!! いいねっ!! サナにやってほしいことがあれば、必ず僕を通すように!!」
というわけで、サナの仕事は羅那が管理することになった。
「羅那くーん、お仕事終わっちゃった……あと、二つくらい欲しいんだけど……」
おずおずとサナが羅那の所にやって来た。
「それはお疲れ様。けど、サナ。送ってくれた資料、ちょっと雑だね。君ならもう少し丁寧に出来るんじゃないかな?」
サナの仕事の質をガンガン上げて行っている。
「それと……今日はそれやったら、終わりね」
「ええええ、今日も定時よりも早く終わっちゃう……!!」
「それが普通なんだよ。って、そこで手持ち無沙汰にならない。なら、サナ。君しかできない仕事をあげよう」
「え、なになに!! 私、何でもやるよっ!!」
やる気なサナに、羅那はふっと何かを思いついたかのように、腕を広げた。
「じゃあ、僕の膝の上に来て。その方が効率良いから……他の誰にも触らせない位置だし」
「え。ええええっ!?」
羅那に言われるままに膝上にちょこんと座って、赤くなりつつ、縮こまっていた。そんなサナを膝上に乗せて、羅那は上機嫌で、物凄いスピードで仕事を始末していく。
「これ、いいかも……」
「ええ、ら、羅那くんっ!?」
サナが恥ずかしそうにしているのを、羅那は楽しげに見つめているのだった。




