浅樹家のあたたかな朝
とろとろと微睡む。
もう少し寝たいなと、思っていたら、急にカーテンが開かれた。
「んん……まぶ……」
「おはよー、羅那くん。もう、朝だよー?」
「んん……朝ぁ……」
もぞもぞと布団の中に潜ろうとして、先ほどの声を思い出した。
「そろそろ起きないと、遅刻しちゃうよ? おーきーてー?」
「………!!!! さ、サナっ!!!」
がばっと、羅那はようやく起きた。
「わぁ……ホントに朝、苦手なんだね……羅那くん」
「だ、誰に聞いたんだよ、それ……!!」
恥ずかしそうに起き上がる羅那に、サナはふふっと笑った。
「羅那くんのお母さんから。朝はアラーム掛けないと起きれないって。今日は掛け忘れているから、私に起こして欲しいって」
「……!!!」
かあっと赤くなっている。
「か、母さん……」
「私は楽しかったよ、羅那くんの意外な一面見れて♪」
「いや、知らなくていいからっ!!」
「そうでないと、お前は不機嫌になるだろ、羅那」
と、そこに綺麗な麗人がやってきた。
「ふええ、格好いい美人さんが来た!!」
「あ、サナは初めてだったっけ、僕の姉さんの……」
「浅樹レイだ。よろしく、サナ。今日の羅那起こし、ご苦労だった。素晴らしい出来だったぞ」
そういって、サナの頭をぽんぽんとする。そんな格好いい仕草にサナはぽーっとしてしまい。
「ちょっと、姉さんっ!!!」
むんずと羅那はサナを抱き寄せた。
「なんだ、朝から嫉妬か? 見苦しいぞ、弟よ」
「う、うるさい……サナは、俺のだっ!!」
「ちょ……ら、羅那くん……く、苦しい」
そんなことをしていると。
「おいお前ら、本当に遅刻するぞ? ほら、さっさと起きて着替えろ。飯食うぞ」
翔がやってきて全てを回収していったのだった。
そして、一行はダイニングに向かう。
「羅那くんの家、お城みたいだよね……羅那くんも当然って顔して着替えさせてもらってた……」
その言葉にああと、羅那は声を漏らす。
「いつもはそうだから。浅樹家って、ほら、大企業のトップというか、そういう家だから……」
「ちょっと、緊張した……」
「だよね。ごめん、ちょっと昨日は疲れて、すっかり寝ちゃったから……もう少し早く起きて、サナを起こしに行けたらよかったんだけど……」
そういって、羅那は幸せそうに、そっとサナの頬に触れていると。
「なかなかアツアツだな」
「っ!! ね、姉さんっ!? 見なくてもいいだろ!?」
姉にサナとの触れ合いを見られて、慌てている。頬も赤くなっている。
「仲が良いのはいいことだ。母上も、早く結婚してサナを家に連れて来いと言ってたぞ」
「ああもう……みんな、せっかちなんだからっ!!」
羅那のテレがかなり強くなってきている。口元を隠しつつ、真っ赤になって瞳を細めている。
「ら、羅那くん?」
そこにサナが間に入ってきた。
「私、そんなに荷物ないし、すぐに来れるよ?」
そんなことを言い出してきた。その言葉にレイの金の瞳が輝く。
「おお、そうか! サナ嬢、なら、善は急……」
「姉さん……止まれ」
その羅那の言葉に、ぴたっと止まる。
「あああああ!! またその声使ってっ!! こういうのはだな……!!!」
「いいから、本当に僕達のペースでやらせてよ、もう!!」
その羅那の言い振りにサナはこてんと首を傾げて。
「急いだ方がいいなら、そうするけど?」
「サナは周りに流されなくていいから、ホント」
これ以上勝手に進めさせないように、そのまま、ダイニング席に座る。自分の……いや、羅那の隣にサナを座らせて……。
「ところで……お義姉さんは今まで、どこにいたんですか?」
サナが豪華な朝食をおずおずと食べながら、そう切り出した。
「ああ、それは……」
羅那が説明しようとしたのを。
「私が説明しよう! 私は……正義のミカタなのだっ!! だから、日本だけでなく、海外までも飛び回ってるのだ!!」
がたっと立ち上がり、腰に手を置いて、ばーんと堂々としたポーズを決めている。
「……姉さん」
その説明に羅那が生暖かい視線を送る。ちょっと遠い目な気がするのは、恐らく、気のせいだろう。たぶん。しかし、当のサナはと言うと。
「か、格好いいです……お義姉さんっ!!」
「え、それでいいのっ!?」
思わず即座に突っ込み入れるほどに、驚きながらサナを見た。いいのか、その説明で!!
「ふむ、サナはとても愛い子だな! 母上からいろいろ聞いていたが、とても気に入ったぞ!! よし、こうしよう」
「ちょっと待ってよ、姉さんっ!?」
きゅぴーんとレイの瞳がより輝いている。びしっとサナを指さして。
「サナ、君は体の線も素晴らしい。恐らくどんな衣装を着ても映えるだろう。それは君の美徳だ。というわけで……」
ぎゅっとサナの手を握り、姉のレイはサナを熱っぽく見つめる。
「おおお、お義姉さんっ!?」
突然のお手々ぎゅっに、サナは目を白黒させている。流石にこれはサナもびっくりしたようだ。
「私と共に……コスプレをしようっ!!!」
「はいいいいっ!?」
サナが思わず、そう叫んで、その隣では羅那が狼狽えている。
「朝から何言ってんだよ、姉さんっ!! 分かって言ってるっ!?」
サナがはわはわしつつも、ふと気づいた。
「でも……コスプレ、やったことないから、楽しそう、かも……」
「あ、ばか……」
思わず、羅那は突っ込んだ。
「決まりだな! 今度の休みに、サナを迎えに行こうじゃないか!! ああ、サナ嬢には、いろんな衣装を着せたいものだ……」
もうレイは、休日のコスプレに頭がいっぱいだ。
と、そのときだった。
「朝の朝食時間に失礼します」
そこに入ってきたのは、金髪で赤い瞳の体のがっしりした青年が入ってきた。背が2メートル近くある。しかも、その服はこれからすぐにでも戦えるような、実用的な迷彩の戦闘服を纏っている。
「お嬢、例の部隊からの報告が来ました。少々きな臭い情報です」
「ご苦労、グライド。ふむ……父上、母上……せっかく戻ってきたのだが、また戻らなくてはならないようだ。サナ嬢とももう少し話したかったんだがな。仕事なようだ。またゆっくり話そう」
「あ、はい」
そういって、レイはグライドと共に足早に去っていく。ちなみに朝食は既に完食している。素早い。
「ねえねえ、えっとグライドさんだっけ? あの人……竜族の人だった」
「え、わかるの?」
そう、サナの言う通り、グライドは竜族の人間だ。
「同族は、すぐ分かるよ。目とか、雰囲気とか……そ、それに、ちょっとだけ怖かったから、あの人……金竜だと、思う」
「正解。凄いね……」
「な、なんで、お義姉さんと一緒にいるの……?」
その言葉に羅那はくすりと笑った。
「最初は姉さんの優秀な護衛として、つけたんだけど……」
「う、うん」
「その日のうちに、互いに一目ぼれしちゃってさ」
「んんんっ!?」
羅那の言葉に、サナが食べていたものをのどに詰まらせた。羅那が差し出した水で難を逃れたが、あれ、このくだり、どこかで見たような……?
「そのまま、一緒にいるよ。姉さんが上司で、グライドさんが部下で」
「でも、年齢的には、グライドさんの方が上、だよね?」
「うん、その方がいろいろと都合がいいんだって言ってたよ。……変な意味じゃなくて、って言ってたけどさ。ベッドの上の支配権は、自分が持ってるとも言ってたな、グライドさん」
「なんか、凄腕なんだね……グライドさん……」
そんな話をしながら、羅那もサナもようやく、朝食を完食して。
「おい、二人とも。いちゃいちゃするのもいいが……ホントに遅刻するぞ、会社に」
「うわ、ホントだ。ほら、サナ行くよ!」
「は、はいっ!!」
翔に急かされるように二人は足早にダイニングを出ていく。
と、ダイニングに残った二人は、どこか穏やかな空気の中で視線を交わす。
温かい朝の日差しが、大きな窓から差し込んでいた。
「ふふふ、なんだかとっても賑やかになってきたわね、翔」
「……まあな。だが、お前との時間も大切だ」
「んもう、翔ったら!!」
その後もどうやら、少し熱い時間が始まりそうだ。
こうして、浅樹家の新たな時間も動き始めていくのであった。




