妖魔の国の素敵な場所
そこには、意外にも広大な世界が広がっていた。
仄かな光を放つ太陽と、月が浮かぶ不思議な世界。
まだ陽が出ているが、地球のそれとは、若干抑えめの明るさと暖かさで国を照らしていた。
やはり、魔王城から離れるにつれて、荒野が広がっているように見える。
けれど、その荒野も徐々に緑を取り戻しているのか、ちらほらと緑が見え始めている。
国の機能をしているのは、魔王城の周りだけの様だ。
魔王城の城下町は、かなり栄えているが、街と呼べるのはそこだけだ。
他は集落と言っていいほど、小さな村々が点在しているようだ。
また、森は魔王城の城下町を囲う様に広がっている様子。
「んん……ヴェルメリア。妖魔の国とは、これが通常な感じ?」
「そうですわね。少し魔王の不在があったため、荒野が増えてしまいましたが……概ねこんな感じです。見てわかる通り、妖魔の数はさほど多くはありません。しゃべれぬ眷属は、森に多いですが、主に強い妖魔が召喚するものなので、無限に涌かせることが可能です」
どうやら、妖魔の数は、人間界の人間とは絶対数が少ないようだ。
その様子に羅那は、思案する。
「うーん……この国の管理をしろって言われてるけど、どのくらい手を付けた方がいいんだろう?」
栄えているとは言えない状況に、羅那は眉根を顰める。
「え、羅那くん……もしかして、妖魔の国をもっとすごくしようとしてる?」
「折角、綺麗にするんだから、少しは手を貸した方がいいのかなって……」
「それでしたら、ぜひとも、私めに魔王様の子種を……」
「それは駄目!!」
ヴェルメリアの言葉にサナが即座に反応を返す。
「まあ、その辺はおいおい、アークとも話し合っておくよ。えっと、城下町があるんだっけ? ヴェルメリア、そこに連れて行ってくれる?」
羅那の言葉にヴェルメリアが、浮足立った様子で、羅那に駆け寄る。
「仰せのままに、魔王様」
「……羅那くん、魔王様に慣れてきちゃった?」
サナの指摘に羅那は苦笑を浮かべる。
「なんかさ、これ駄目だって言ったら、妖魔の皆が困りそうな気がするんだよね……」
そう言って、ヴェルメリアの案内で、街の通りを歩いていくと……。
「魔王様だ!!」
「なんという力なんだ……」
「いい、魔王様に歯向かったら駄目よ?」
「わああああああ…………!!」
たくさんの歓声。たくさんの花吹雪に、羅那とサナは驚きを隠せない。
「ね、ねえ、羅那くん……なんだか、とっても歓迎されてる?」
「……みたい、だね……」
道を覆うほどには妖魔達が声援を送ってくれている。
「もちろんですわ。魔王様は我々になくてはいけない、大切なお方。それに、サナ様のお力は、多くの民達の心を溶かしたと聞いております。魔王様、サナ様……笑顔で手を振っていただけますと、我々も嬉しいですわ」
「そ、それなら……もう少しまともな格好にしとけばよかったよ……」
「だ、だね……」
少し照れたように羅那とサナは顔を見合わせ、妖魔の民達へと手を振っていく。
「魔王様、サナ様!! こちらをどうぞ!!」
小さな妖魔の子供が二人、花輪を持ってやってきた。羅那とサナが思わず、ヴェルメリアに視線を送ると、彼女は優しげな笑みで、こくりと頷いて見せた。その様子に、羅那とサナは、子供の目線にしゃがみこんで。
「二人とも、ありがとう」
そう羅那が告げると。
「わーーーい!!!」
二人の子供達は嬉しそうに何処かへと去ってしまった。今、羅那とサナの頭には、歓迎の印の花輪が飾られている。
「まさか、花輪を貰えるとは思わなかったよ……」
「それは、とても特別なことです。みんな、お二人に感謝を述べているのですよ。お二人の魔力はそれだけ特別だったのです」
「それって、とても素敵な事だね……羅那くん」
「うん……妖魔達のみんなに、こんなに感謝されるなんて……思ってなかったよ。救ってよかった……」
「私も嬉しいよ……」
そう照れたように告げる羅那に、サナもまた頬を染めて。
そんな風に笑うサナを見て、羅那は思わず、サナにキスをした。
「ちょ……ら、羅那くんっ!!」
そのときだった。
「わああああああああああ!!」
ひと際大きい歓声があがった。
「魔王様とサナ様、とっても仲良し!!」
「早くお子が生まれるといいね!!」
「しあわせ、しあわせ……!!」
そんな妖魔達の言葉に二人は、もっと恥ずかしがって……。
「……ヴェルメリア! 他にも見られる場所はあるかなっ!!」
思わず、ヴェルメリアを呼んで、ここから立ち去りたくなった羅那を見て、ヴェルメリアはくすりと笑ってしまった。
「はい、ひとつだけございます。さあ、魔王様、サナ様、お手をどうぞ」
ヴェルメリアの手を取り、そして、三人は町を一瞬で立ち去ったのだった。
次に訪れたのは、静かな湖のある森だった。
「わあ……とっても綺麗な場所! 妖魔の国にもこんなところがあったのね……」
サナはとてもこの場所が気に入った様子。
「この場所は妖魔の国で最も清らかな場所でございます。ぜひお二方に見ていただきたいと思っておりました」
「僕もこんなところがあるなんて、思ってなかったよ……本当に綺麗だ」
羅那からもそんな言葉を貰えて、ヴェルメリアは、少し誇らしげに笑みを深めている。
森は浄化後の魔力が満ちていて、淡い光の粒が漂っていた。
木々の葉が揺れるたび、光がこぼれ落ちる。
「わぁ……幻想的……」
「サナ、足元気をつけて」
と羅那が注意を促した、次の瞬間、サナはずるっと足を滑らせて。
「危ない」
そのサナの手を引いて、すぐさま抱き寄せる。
「えっと、あ、ありがとう……羅那くん」
「どういたしまして。ちゃんと足元、気を付けてね?」
「う、うん……」
助けてもらって、胸に抱きしめられて、サナは頬を真っ赤にさせて恥ずかしがっている。
(あ……可愛い)
思わず羅那は、その仕草にきゅんとして。
「サナ」
「えっ、なに、羅……んん」
唇を奪われた。少しだけ長い、けれど唇を重ねるだけの甘いキス。
「ちょ……羅那くんっ!!」
「なんだか、デートみたいだね」
「んん、もうっ!! 私達、妖魔の国を見に来たんだよ!! ちゃんと、見てっ!!」
ぽかぽかと痛くないサナのパンチに、羅那は楽しそうに瞳を細めて。
「でも、こんな綺麗なところでサナといたら、そこは、デートスポットだよね?」
「んもうっ!! 羅那くんのばかーー!!」
「あははは、ごめんごめん」
ぽかぽかの回数が増えても、それでも痛みは全くない。むしろ、可愛い。
「……お二人がこうして仲睦まじい光景を見ることができて……私も嬉しい気分でございます。改めまして、魔王様、サナ様。本当に、この国は……救われました。救ってくださり、ありがとうございました」
そう頭を下げるヴェルメリアに、今度は二人が慌てて。
「顔をあげてくださいよ、ヴェルメリアさんっ!!」
「そうだよ、僕達はただ、やりたいと思ったからやっただけだし……」
羅那のサナが照れたようにそういうのを、ヴェルメリアはくすりと笑って。
「それでも、我々妖魔は、お二人に感謝しているのです。これほどまでに……幸せな魔力は初めてでしたので」
その言葉に羅那とサナは顔を見合わせ、はうううっとサナが顔を覆い。
「いやその、そういうの、無くていいから、ホントに」
羅那もまた照れたように、頬を真っ赤にさせて、ヴェルメリアからの視線に耐え切れず、そっぽを向いてしまったのだった。
こうして、二人の初めての妖魔の国の管理仕事は、二人のテレテレで終わりを告げたのだった。




