いつもの報告と羅那の嘆き?
羅那の魔法で転移して、浅樹家の本邸にたどり着いた。
と、屋敷の前で羅那とサナは足を止める。
「思い出した……サナ。絶対にあの魔導具の話はしないでね!! 絶対あの父さんが面白がって、また僕を繋げると思うんだ!! だから、絶対に……!!」
必死に言い出す羅那くんに、サナは頷く。
「あ、うん、わかった……」
そこまで必死にならなくともと、サナは思っていたが言わないことにしておいた。そういうものは胸に秘めた方が得策だ。
「で、そこで何をしているんだ、お前達……」
その場がぴしゃりと冷え込んだ。そう、声をかけてきたのは。
「あ、父さん」
羅那の笑顔が少しぎこちない。
「無事に戻ってきたようだな……確認したいこととかいろいろあるから、早くこっちに来い」
翔の苛ついたような声に羅那も少し青ざめているように感じる。
「さ、サナのことは全力で守るから!」
小さくそう言う羅那に。
「私も全力で守るから!」
同じくサナもそう言い返して、思わず二人は笑みを浮かべた。がしかし。
「早くしろ、二人とも」
「「はいっ!!」」
ようやく、二人は翔に案内されて、応接間へとたどり着いたのだった。
今、羅那とサナの前には、翔とリィナ。羅那の両親がそこにいた。どちらもあまり機嫌が良くないように感じられる。
「さて、説明してもらおうか?」
「え、えっと…………何から話したらいいものか」
言い淀む羅那に、翔はサナの方へと視線を変えた。
「羅那くんは無事に帰ってきました!! これでいいですよね!!」
「そうじゃないだろうがっ!! 羅那はこの際おいといて、サナ! 君も魔力がとんでもなく上がってるじゃないか!!」
「あ、わかりますか?」
そうじゃないと、翔は呟きながら、頭を抱えつつ、前回と同じように羅那に新しい魔力制御のブレスレットやアミュレット、それにサークレットを付けていく。
「ううう……また数が多い」
「それくらい我慢しろ!! 前と変わらん数にしてやったんだ!」
翔の言葉にううっと、羅那は口ごもる。
「で、どうしてそんな魔力を得ることになったんだ!! それに、今までお前、魔力が不安定だっただろ!! 魔双剣があれば、安定するんじゃなかったのか!!」
「あ、それ……私の中の災厄を羅那くんが取り込んじゃって……あっ」
サナが思わずそう言ってしまい。
「ほう……ということは、あの災厄と対峙した時のことか? サナが苦しんで倒れそうになったあの時……」
「だって、仕方ないだろ! 魔王と言うか、災厄退治もあったし、魔力を温存することを考えると僕の中に取り込むことが最良だと思ったんだ」
「だとしてもだ! どうして、さっさとお前の中にある災厄をなんとかしなかったんだっ!!」
翔の言葉に、羅那もイラっとして。
「仕方ないだろ!! 何かする前にいろいろと事件が起きて、暴走しちゃったんだから!!」
「それで……攫われたのね?」
叫ぶ羅那の言葉を、リィナが指摘する。
「どうせ、お前がヘマしたんだろ?」
「うううう……」
翔に図星を指されて、羅那はちょっと涙目だ。
「まあ、お前のことだ。妖魔に良いようにやられたのだろ? とにかく、それで……どうして『そうなった』?」
その翔の言葉に、ぎくっとした。もう取り繕う笑顔が見る影もないくらい、ぎこちない。
「あの……とある強い妖魔に勧誘されたと言うか、操られて……精神が不安定なところで、僕の中の災厄を暴走させちゃって……気を失ったところを攫われたんだよ」
羅那はしどろもどろながらも、嘘偽りなく、経緯を話していく。
「そして……その……妖魔の国に連れ去られた先で、その国を蝕む瘴気を浄化してたんだ」
「はあっ!?」
「え、どういうことなの!?」
翔とリィナ、二人は驚愕している。
「はい! 私もめいっぱいお手伝いしました!!」
「サナもか……」
翔はまたもや、頭を抱えている。
「どうして、お前はこう……いろいろと面倒なことを……」
「そ、それで……」
酷く言いづらそうに羅那は続ける。
「その働きを認めてくれたらしく、アークから妖魔の国を管理しろって言われて、『管理者』になったよ。その期間がえっと2000年?」
「今、何ていった?」
「えっと……その……2000年」
ぷちっと何かがキレた。
「こんのおおおおお、大馬鹿者がぁあああああああ!!!!」
「ぼぼぼ、僕だけのせいじゃないからぁああああああ!!!」
ぐりぐりぐりーーーと羅那のこめかみを拳でこれでもかとゴリゴリしている。うううううっと羅那は涙目だ。
「じゃあ、確認させてねー」
リィナは遠い目をしながら、羅那の深層を読み取り、そこで知ってしまった。
「あら、本当に妖魔の国の管理者に…………んんん!?」
「どうした、リィナ、また何か…………あんっ!?」
翔もリィナと同期して、それを覗き見て。
ぴきっと引き攣る二人に、羅那はあわあわしている。それはきっと……。
「なんでお前が……『魔王』になってんだああああっ!!!」
「だから、俺の所為じゃないってぇーーー!!!」
叫ぶ羅那の言葉に。
「羅那様は紛れもなく、魔王様ですわ」
そこにもう一人、姿を現した。
「ああああ、こんなところにまた、面倒なのがっ!!!」
頭を抱える羅那の側に、ヴェルメリアが現れたのだ。
「で、あなたは誰なんだ?」
「お初にお目にかかります。私はヴェルメリア。妖魔の国の実質ナンバーツーですわ。羅那様の御父上様。どうぞお見知りおきを」
「!! まさか、こいつは……!!」
「何もしないから!! というか、させないから!! それと、ヴェルメリアもなんで来たんだ!!」
羅那が思わず、怒りをぶつけてしまうが、ヴェルメリアは慣れているのか。
「魔王様にお仕えするのが、私の役目でございます。それ以上でもそれ以下でもございません。それに私はいずれ羅那様の子種をいただき……」
「ヴェルメリア、黙れ」
慌てて羅那が止めた。その声色にヴェルメリアもぴたりと口を噤む。
「ねえ、羅那くん。それはどういうことかな?」
「あああ、サナまで!! だから、これはヴェルメリアが勝手にっ!!」
口元は笑ってはいたが、その瞳は全く笑っていない。サナは……怒っている。
「だからっ!! 俺が好きなのはサナだけだっ!! ヴェルメリアは、国の存亡を憂いて言ってるだけだからっ!! そうだよな、ヴェルメリア!!」
そうだと言ってくれと懇願するような瞳で言われてしまったら、ヴェルメリアも否定はできない。
「はい、まあ……そういうことになりますね」
実はそれだけではないのだが……黙っておくことにした。
「ほら!! ヴェルメリアもこう言ってるよ!! 本当に俺はサナだけなんだ!! それ以外は本当にいらない!! サナだけが、サナだけなんだよっ!! こんなにも愛していて、欲しくてたまらない女性は、サナだけなんだっ!!」
激情のまま熱く語る羅那の瞳は、真摯で彼の誠意が込められていた。
ただ、ちょっとだけ、ヴェルメリアにもくらっと来たのは、恐らく魔法の力なので、ノーカンとした。羅那の中では。
「あ、あわわ……」
それだけの熱い告白を受けて、今度は目を白黒させているのはサナだ。
こんなに熱烈に羅那の愛を受け取ったのは、初めてかもしれない。
ぎゅっとサナの両手を握って、うるうるとした瞳で見つめる羅那が、正直言って可愛いし、いじらしいし、なにより…… 胸キュンである。
「わ、私も……羅那くんのこと……好き、愛してるから……」
「サナ――!!」
ぎゅむっとサナを抱きしめて、羅那はうれし泣きしている。二人の想いが再び繋がった瞬間である。
「さて、もう少し、詳しい報告を聞こうか?」
落ち着いたところで、再度、詳細を求めて来る翔に、羅那とサナは戦慄を覚えながらも、事細かに説明した。ついでにとばっちりのようにヴェルメリアにも説明させていた。かなり厳しく詰められるように。
「ようやく、話が分かったよ。全く、この馬鹿息子はとんでもないことをしでかしてくれるな」
「まあまあ、今までが優秀過ぎて、問題を起こさなかったのだから、良いんじゃないの? ちょっと力が強いだけで」
翔を窘めるようリィナが言うが。
「これの!! どこが!! 優秀過ぎるんだ!! 問題ばっかり、頭の痛いことばかり起こしやがって!! もう俺の範疇を越えてるんだぞ、こいつはっ!! …………ということで、ヴェルメリアと言ったな。妖魔の国を管理させることは認めてやるが、そこに住まうことは許可することはできない。こいつは、俺達の大切な神に守られた子だ。そう覚えとけ!!」
その言葉に羅那も何も言えない。必要であれば、妖魔の国に住むつもりでもいたから、翔に先に禁止された方が少し気が楽な気がする。恐らくそれが、翔の狙いなのだろうとしても。
「わかったよ、父さん。従うよ」
「そうしろ」
「ヴェルメリアも、それでいいよね?」
「でしたら、私は、魔王様のお側に置かせてくださいませ。そうでなければ、国の者達に示しがつきませんわ」
「プライベート以外でなら構わない。特にサナと二人っきりの時は来るな。いいな」
「かしこまりました」
羅那のその言葉に、ヴェルメリアは頭を下げて、命令を受け入れてくれたようだ。そのことにホッとしつつ。
「これでまるく……収まった感じ、かな?」
「まあ、今の所はね。というわけで、サナ」
「はい?」
そっと手を引き、その甲にキスを落として、羅那はその輝く瞳を細めた。
「僕の部屋に戻ろうか……今夜は寝かせない」
「えっと……?」
「ああ、もういいぞ、帰っても」
「後はこっちで処理しておくし」
翔とリィナの許可を得て、羅那は嬉しそうにサナを抱き上げて。
「さあ、帰ろうか、僕達の愛の巣へ」
「ちょ、羅那くん!?」
ふと、羅那の足が止まった。
「ヴェルメリアは、もう帰って良いぞ。もし邪魔するようなら……容赦しない」
その殺意ビシバシの羅那の視線に、ヴェルメリアは大人しく、下がっていったのであった。




