妖魔の国ふたたび、そして翔への報告
羅那は、一人で妖魔の国を訪れていた。
「魔王様、お越しいただき感謝いたします」
「堅苦しい挨拶はいいよ。で、ヴェルメリア。国の様子はどう?」
まずはと、魔王城から妖魔の国を一望する。荒れた土地が、以前よりも緑に覆われ始めているのが分かった。
だが、まだ瘴気がどこからか出てくるらしく、遠くの方は暗く淀んでいるように見える。
「以前よりもとても安定しております。昨日はサナ様がお越しになりました」
「え、サナが? いつの間に……けど、一日で瘴気が出てくるんだな……」
「いえ、昨日は瘴気は出て来ていなかったのです。だから、魔力の供給だけしてくださって……」
そうなると、急に出てきたということになる。
少し気になる状況だが、これくらいなら、すぐに一掃できそうだ。
「なら、瘴気を取り込むついでに、魔力供給するけど、構わないかな?」
「はい、我々はいくら供給されても大丈夫でございます」
そのヴェルメリアの言葉に、羅那はくすっと笑った。
「じゃあ、あの機械を動かすか。あっと、レバーは動かさないでくれよ」
その羅那の言葉に、今度はヴェルメリアが笑う番だった。
「魔王様……今日はいつにも増して、魔王様の魔力が安定しているように感じます」
世界を浄化し、妖魔達に魔力供給を終えて、ヴェルメリアがそう指摘してきた。思わず、羅那は自分の手のひらを見た。
「そうかな? うん、そうかもしれない」
「先日の……あのミイラ達との戦いは、とても厳しい戦いだったと聞きます。一部は見ておりましたが」
「まあね……あの時は本当にギリギリだったよ」
顔を上げて、ヴェルメリアの方を見る。あれは少し厳しかったように感じる。今回は何とかなったが、やはり厳しい戦いだったと言わざるを得ない。
「相手が『乾いた力』を持っていたせいですね。魔王様の魔力とは真逆……相反属性の衝突は、どうしても不安定になります」
「ああ、だから、あんなにふらついたのか」
「しかし、今はむしろ以前より安定されています。ミイラの核を浄化した時、魔王様の魔力が一段階、深く定着したのでは?」
「……そういわれると、そんな気もするかも」
以前よりも増して、魔力が増えて、コントロールも出来るようになっている。ふわっと魔力を使って、周りに光を纏わせて。
体内の魔力は静かで、強く、濁りがなく、一定のリズムで巡っている。
あの事件の前よりも、むしろ調子が良い。
「いい兆候です。魔王様は、人間の血と妖魔の素質を持つ特別なお方。魔力は『経験』で育ちますから」
「そんな大げさな……でも、ありがとう。いろいろと教えてくれて」
「いえ、また何かありましたら、私に分かることは、全てお話しいたします」
「ああ、そのときはお願いするよ」
そのまま、妖魔の街の方へと顔を出していく。
美味しい屋台を出しているのを見て、一つ買っていった。
「わあ、魔王様だーー!!」
「いつもお疲れ様です」
「温かい魔力を賜り、ありがとう存じます」
妖魔たちが口々に、軽く会釈してくる。
以前より距離が縮まり、自然と笑い返せるようになっていた。
(なんだか少しだけ……新しい『居場所』みたいになってきたな……ここ)
そんなことを思いながら、羅那は温かい気持ちを胸に、自分の住む街へと戻っていったのだった。
羅那はそのまま、足を実家の方へ向けた。
戻ると、丁度、父である翔が、来客を見送っていた後だった。
「父さん、ただいま」
「お、羅那。向こうの国の管理は終わったのか?」
「うん。問題なかったよ。……それに、ほら、魔力も安定してる」
手を差し出すと、翔は羅那の手首にそっと触れ、魔力の流れを確かめた。
翔の目がわずかに丸くなる。
「……本当に安定してるな。おまえ、ひと回り強くなってるんじゃないか?」
「そうみたいだね。あの時が限界だと思ったけど、逆に『きっかけ』になった感じがするよ」
その言葉に翔は瞳を細めた。羅那と同じ仕草だ。
「相反する力との衝突は、確かに成長の契機になることが多い。危ない橋を渡るのはやめてほしいが……羅那本人が掴んだものなら、親としても文句は言えんな」
翔は苦笑しつつ、羅那の頭に軽く手を置いた。
「後でサナにも報告しておけ。心配してただろうしな」
「わかってる。でも……今回はあんまり深刻になってほしくない」
「だろうな。あの子は優しいから」
翔は手を止め、ふと真顔になる。
「羅那、ひとつ伝えておく。外からの接触が多くなっている……妙な動き方をしている連中がいるようだな。まあ、どこの誰かが力を持っているかは、こっちで操作してるから、その辺は気にしなくていい。ただ、外を出歩くときは気を張っておけ。特に、外国に行くときはな」
「了解、気を付けておくよ」
「はぁ……気を付けるんじゃなくてだな……まあいい。お前はしばらく表に出るな。やるなら、声だけにして置け」
「はいはい」
「本当に分かってるのか……それと、近々、お前に仕事を回すから、そのつもりで」
「ええーー、こっちはミイラ戦で疲れてるのに?」
「しばらくは休みをやるから、それで何とかしろ。いいな」
と、翔は無理やり話を終わらせて、仕事に戻っていく。
「まあ、その分……がっつり、サナと過ごさせてもらうよ……」
そう呟いて、羅那は楽しそうに、サナの待つカフェへと向かうのだった。




