表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/107

アスファロスの見た願いは

「……違う……!」

 そう呟くサナの声は、小さかった。

 だが――その言葉が、羅那の心臓を、強く打った。

「……誰が……『残滓』だって?」

 羅那が、低く言い放つ。

 その声は、震えていたが、同時に、確かに、怒りを孕んでいた。

「そうじゃない……!! サナは……サナだろ……!!」

「うんそうだよ、私は……『私』!! 王妃様とは違うよっ!!」

 その羅那の言葉に呼応するかのように、サナは今度こそ、叫んだ。

 だが、羅那を侵蝕する王命:記憶没収の影響は、まだ終わらない。

「くっ……」

 幾度となく、羅那の頭の中でちらつく前世の記憶。しかも失ったという、その鮮明な記憶だけを見せつけられていた。

「ふっ……所詮、小さき護衛の成すこと」

 膝が折れそうになったとき、羅那の腕を支える手が伸びた。

「羅那くん……!」

 サナだった。ぎゅっと、力を込めて、離さない。

「……今、ここにいる私は……過去の誰かじゃない。転生の影でも、残滓でもないよ」

 サナは、まっすぐに、羅那を見つめる。

「私は……羅那くんと笑って、泣いて、喧嘩して……それで、ここまで来た『私』だよ」

 その言葉が――羅那の中で、絡まりかけていた記憶の糸を、一本ずつ、ほどいていく。

「……サナ……」

「だから……見て。今の私を。今の……私たちを!!」

 その声に、羅那の魔力波形が、わずかに、安定した。


『マスター、魔力波形が……変動しています……! ですが――安定方向へ、向かっています!!』

 カリスの声が、頭の奥で響く。

『衛星回路、再同期中……現在、過負荷領域へのアクセス……可能!!』

「……っ」

 羅那は、息を整える。


 まだ、怖い。

 まだ、痛い。

 ――失った記憶は、消えていない。

 だが。

(……消えなくていい)

 それでも、前に進める。

 それを――側にいるサナが、支えてくれる、サナが証明してくれている。

「……来いよ、アスファロス」

 羅那は、ゆっくりと魔剣を構え直した。

 衛星が強く輝き、放たれた白い光が、羅那の全身を包む。

「……くだらぬ」

 アスファロスがそう告げたとたんに、砂が重くうねり、かつてのクフ=ロンを思わせる巨体が次々と形を成す。

 王が生み出したのは、巨大なゴーレム群であった。

「!!」

 羅那は即座に魔双剣を引き抜き、ゴーレムを灼熱の刃で切り裂きながら、サナを抱きかかえて後退する。

 ゴーレム達の攻撃が、地面や壁に大きなクレーターを作っていく。

 羅那は、その全てを身体強化と加速術式で、紙一重で避け続けてみせた。

「往生際の悪いやつめ……だが、それも終わりだ」

 アスファロスが、渇きの魔力を練り上げる。

 祭室全体が、きしむように震え、恐ろしい数の砂の束が、編み上げられていく。

 羅那は、それを見て――小さく、息を吸った。

「サナ……!」

「うん……!」

 二人は、視線を交わす。

「俺が、前に出る。だから……支えて」

「もちの、ろんだよっ!!」

 迷いのない返事だった。

 その瞬間――羅那の魔力が、大きく、収束する。

 暴走の象徴だった『爆発』が、形を変え、推進力へと変換されていく。

「ここだけでいい……! サナ……俺は、この力で……守りたいんだ!!」

「わかったよ、羅那くん!! ここは任せて……行ってっ!!」

 サナの魔力が、祈るように羅那へと重なる。

 その力を身に受けて、羅那の体が沈み、そのまま強く、地面を蹴った。

 爆発的な魔力が、推進力となり、光の尾を引きながら、一直線にアスファロスへと突っ込む。


「な……!? 暴走魔力を……『利用』しただと……!!?」

「喰らえ……俺のっ!!」

 羅那の身体が、紅白の光を刻む。

「バースト・シングル・バスター!!」

 収束された閃光が、アスファロスの胸を、真正面から貫いた。

 祭室全体が激しく震え、砂壁が崩れ落ちる。

 王の胸部が大きく抉れ、砂と光が霧散した。



 ――それでも。

 致命傷を負いながらも、アスファロスは、なおも立っていた。

「……王妃よ……なぜ、拒む……? なぜ、我の元へ戻らぬ……」

 その声には、怒りではなく、かすかな――『悲しみ』が混じっていた。

「そなたを失い……王国は滅んだ。我は……そなた一人を……守れなかった……愚かな王よ……」

 その言葉に、サナは怯むことなく、一歩前へ出た。

「……あなたの想いが、どれだけ深くても……それは、『私』じゃない」

 サナは、胸に手を当てる。

「私は……羅那くんと、生きたいの」

 その瞬間――サナの胸から、柔らかな光が溢れた。


 ネフェル=ザーク戦で芽生えた力――『王妃因子』がサナの想いを受けて、『再生の光』へと位相変換していく。

 祭室全体が、暖かな光で満たされた。


「……まさか……再生の魔力……王妃の『真なる位相』……!」

 アスファロスの瞳が、見開かれる。



「羅那くん――合わせて!!」

「もちろん!!」

 二人の魔力が、重なる。

 二人の魔力が合流し、更に衛星の光が二人を包み込む。

 乾きの呪いを吹き飛ばすように、光の輪が、何層にも展開され――

 巨大な螺旋の光柱が、祭室を貫いた。


「これで……」

「終わりにする!!」


 光が環となり――最後は羅那とサナの声が、ぴたりと合わさって。

「「光環・再生の閃リング・リジェネレイト!!」」




「……王妃……」

 アスファロスの身体が、光に溶けていく。

 乾きの呪いが剥がれ落ち、残った魂だけが、静かに立っていた。


 その視線の先に……一瞬だけ、幻が、現れる。


 黄金の装束を纏った女性。

 かつての王妃。

 彼女は、アスファロスに向かって、やさしく、微笑んだ。


『……あなたは、もう……十分に、愛してくれたわ』


 その声は、誰にも聞こえないはずなのに――なぜか、羅那には、はっきりと聞こえた。


 アスファロスの瞳が、揺れる。

「……そなたが……幸福なら……それで……よい……」


 その言葉を最後に、王の魂は光の粒となって、静かに消えていった。




 砂の王国の魔術は、解けた。

 祭室の紋様は、ゆっくりと沈静化し、乾いた空気は、やわらかな夜気へと戻っていく。


 羅那は、深く息を吐き、サナを振り返った。

「サナ……僕は……例え、喪失が消えなくても、それでも……前に進むよ」

 サナは、そっと、彼の手を握る。

「それなら私は、隣で支えるね。ずっとだよ……羅那くん」

 その言葉に、羅那は、嬉しそうに瞳を細めて、僅かに頬を染めて。

「……サナ……!」

 ぎゅっと、抱きしめた。

「ちょ、ちょっと……苦しいよ?」

「あ、ごめん!! でも、サナのことはずっと守りたいんだ。いいかな? それでも……」

「うん……それが、今回でよくわかった気がする……」

 二人は、互いに照れながら、小さく笑い合った。


 いつの間にか、博物館の外では、朝陽が昇り始めていた。

 それはまるで――喪失の夜を越えた二人を、静かに祝福するかのようであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ