表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッドナイト・リィンカーネーション ~運命に選ばれた彼と恋をして世界が変わりました~  作者: 秋原かざや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/107

渇きの王アスファロスの目覚め

 博物館地下――さらに封印された階層を抜けた先。

 そこは、砂が静かに積もる巨大な広間だった。

 壁一面に刻まれた古代紋様が、呼吸するように淡く脈打ち、中央の棺からは、絶えず乾いた砂風が吹き出している。


 ――乾きの王、アスファロス。


 復活の儀は、すでに始まっていた。

 無音で立ち上がったその影が、ひび割れた玉座に腰を下ろし、低く告げる。

「……王妃よ。ここに来るのだ。乾いた王国は、そなたを求めている……」

 その声だけで、空気が干上がるようだった。

 存在そのものが呪い。

 それが、王の纏う『乾き』だった。


 だが――その声を聞いた瞬間、羅那の喉がひくりと鳴った。


 ネフェル=ザーク戦の直後。

 衛星に侵入され、転生の記憶を暴かれ、何度も、何度も、サナを失った瞬間を見せつけられた、その直後。

(……まだ終わってない、か。だろうな……まだ『王』が残っている)

 心臓の奥に、冷たい何かが残っている。

 消えない。消せない。

 ――守れなかった記憶は、守れた記憶よりも、ずっと鮮明だ。

「サナ……」

 羅那がそう呼ぶと、サナはすぐに彼を見上げた。

「大丈夫。……一緒に行こう、羅那くん」

 その笑顔が、今の羅那には眩しく見えた。

 それでも――だからこそ、前に進むしかなかった。


 魔力回復で出来るだけ、回復させる。けれども、それでも倒せるかどうかはわからない。

 恐らくギリギリの戦いになるだろうと、羅那はその肌で感じていた。

 広間の奥へと進むにつれ、『乾き』はさらに濃くなっていく。

「サナ……たぶん、厳しい戦いになると思う。それでも……この先に向かう覚悟はある?」

「羅那くん……」

 優しいけれども、危険を告げるその真剣な声色にサナは、一瞬、迷いを見せたが。

「それは羅那くんも同じだよね。だって、この先は敵に有利なフィールドなんでしょ? なら! 私のような、有能なサポート要員は必要だよね!」

 ばんと自分の胸を叩いて、力強く笑みを浮かべる。叩き過ぎて、けほけほ言っているのが、ちょっと心もとない気もするが。

「もう、サナには敵わないな。わかったよ。……では、僕の大切なサナ。僕の背中は、君に任せたよ」

「うん、任されたよ! だから、大船に乗ったつもりでお願いね!」

 羅那の差し出す手にサナは、にこりと笑って、その手を重ねたのだった。


「待ち望んでいたぞ、王妃よ」

 玉座の上で、アスファロスは動かぬまま、そう告げた。

 その視線は、羅那ではなく、まっすぐにサナだけを見据えている。

「私は……あなたの王妃なんかじゃない!!」

 サナが強く叫ぶ。アスファロスの言葉を否定するために。

 その瞬間、アスファロスの瞳が、かすかに揺れた。

「否。そなたは『王妃因子』。幾度の転生の果てに……ようやく、ここに戻ったのだ」

「触るな!!」

 羅那が一歩前に出て、サナの前に立つ。

 二本の魔剣を抜き放ち、明確な敵意を向けた。

 だが、アスファロスは微動だにしない。

「小さき護衛よ……そなたの魔力制御は、未完成だ。今この場で暴走する未来すら、我には視える」

 王が手をかざす。

 それだけで、祭室の砂が浮き上がり、背後で形を成していく。

 ――砂の兵装。

 数百体の古代兵が、砂で再構成され、無言のまま、二人を包囲した。



「来るよ、羅那くん!!」

「わかってる!」

 砂兵たちが、一斉に突撃してくる。

 羅那は即座に魔剣の刃を伸ばし、灼熱の光を纏わせた。

「ロング・フレアブレイド!!」

 一振りで、複数の砂兵がまとめて崩れ落ちる。

 いつものクリスタルランサーを展開しなかったのは、この場で二つの術式を維持するのが難しいと判断したため。

 だからこそ、より使いやすいかつ、属性にあまり影響しなさそうな魔法で一気に、敵を切り裂いていった。その目論見は次々と敵を薙ぎ払うことで示していた。それに……。

「風の結界!!」

 後方にいるサナが支えるように詠唱し、二人を包む淡い障壁を展開する。

 だが――敵の数は減らない。

 斬っても、斬っても、砂は再構成され、何度でも立ち上がってくる。

「……ちっ、再生速度が異常だ」

「王の魔力が、この祭室全体を『支配』しているんだね……!」

 サナが歯噛みする。

 その様子を、アスファロスは、玉座から見下ろしたまま、淡々と告げた。

「三つの守護官は……よく務めた。その戦いで得た情報は、すでに我が王国の『魔導陣』に還元されている」

 天井の紋様が、複雑に光り輝いている。

 次の瞬間――世界が、ひっくり返った。

「――!?」

 床だと思っていた場所が、天井になる。

 天井だった場所が、壁へと回転する。

 重力反転の迷宮。

 空間そのものが、ねじ曲げられたのだ。

「空間が……歪んでる……!!」

「王妃を奪いに来る者は……皆、渇きに沈む」

 アスファロスの声が、空間全体に反響する。

 羅那は空中を蹴り、重力の境界を踏み台に、時には、自分で展開した魔法陣を足場にして、砂兵を斬り裂き、一直線に玉座へと迫った。

「そんなもの……関係ない!!」

「無駄だ」

 アスファロスが、静かに手を振り下ろす。

 一瞬、空間の紋様が強く脈打った。

「――王命:記憶没収」



 その瞬間、羅那の視界が、歪んだ。

「……っ!?」

 夜空のような空間が、割れる。

 そこから、光の断片が流れ落ちてきた。

 ――見覚えがある。

 いや、見覚えがありすぎる。

「また……この術か……!!」

 ネフェル=ザーク戦で見せつけられた、あの『転生記憶の奔流』。

 だが――今回は、様子が違った。

 映し出されたのは、羅那の記憶だけではなかった。

 そこに、別の『記憶』が、重なっていたのだ。


 炎に包まれながら、死にゆく最初の『喪失』。

 そして……。

 宇宙コロニーで止められなかったもう一つの『喪失』。


 その痛みはもう、知っている。だからこそ、耐えることが出来た。その痛みは消えることはないけれど。

(また同じことの繰り返しか……それとも……ん、これは……?)


 さらに、場面が切り替わった。

 ――焼け落ちた王宮。

 崩れた柱。血に染まった石床。

 玉座の間の奥で、黄金の装束を纏った女性が、ひとり倒れている。

 その傍らで、王冠を落とした男が、膝をついていた。

 ――アスファロス。

 彼は、震える手で女性の肩を抱き起こす。

『……起きろ……王妃……』

 返事は、ない。

 胸元に広がる血。

 崩れ落ちるように、アスファロスは彼女を抱きしめた。

『……我は……王だぞ……』

 声が、ひび割れている。

『……国も、民も、すべて守れた。……なのに……なぜ……そなた一人……』

 王妃の瞳は、もう、動かない。

 それでも――彼女は、最期に、微かに微笑んでいた。



 羅那は、その光景から、目を逸らせなかった。

 喉が、締めつけられる。

(……やめろ……)

 それは、羅那の言葉か、それとも……。

 これは――ネフェル=ザークが暴いた、羅那の喪失。それと、同じ種類のものだ。


 守れなかった。代わりに死なれた。最後まで、笑っていた。

 だからこそ――消えない。

「……っ、やめろ……」

 その呟きに、アスファロスの声が重なる。

「守れなかった瞬間はな……永遠に焼き付く。王であろうと、英雄であろうと……消えはせぬ」

 その声は、嘲りではなかった。

 むしろ、痛みを噛み殺すような、低い声だった。

「……だから、我は選んだ。失ったものを、取り戻す道をな」

「……それで……サナを……奪うつもりなのか……」

 羅那の声は、震えていた。

「奪う? 違う。我が手に『取り戻す』のだ」

 アスファロスの瞳が、静かに細められる。

「王妃は……何度も、何度も、我の元へ戻ってきた。転生し、形を変え、名を変え……それでも、必ず」

 その視線が、サナを射抜く。

「その娘は……王妃の影。本物ではない。王妃として最適化された『残滓』に過ぎぬ」

 アスファロスの言葉は、今度はサナの心を確かに、抉っていった。

 その存在理由さえ、否定するかのように……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ