砂蛇の巫女メーヘン
クフ=ロン戦を勝利で終えた羅那とサナ。
保護した女性が狛犬部隊によって、病院へと運ばれていく。
「なんとか勝利できたけど……このままだとやられるからな……」
腰のポーチから、二本の小瓶を取り出した。
「なに、それ?」
「サナにもどうぞ。味は良くないけど……魔力がかなり元に戻るよ」
そういって、羅那は慣れた手つきで、それを飲み干す。
「うん、これでよし」
「うわぁ……なに、これぇ……不味い……」
嫌な顔を浮かべるサナに思わず、羅那は笑みを浮かべる。
「大丈夫? でも、魔力はかなり元に戻ったでしょ?」
「うん、全開!! けど、羅那くんはそうでもない感じ?」
「後もう少しって感じかな……あんまり飲み過ぎるのも悪いから……なるべく連続で来てほしくないけど……」
しかし、すぐに次の気配が感じられた。と、同時に翔からも電話が来た。
羅那はそれに出て、場所を特定する。
「サナ、今度はメーヘンだ。この近くの公園にいるらしい」
「わかったよ、次もがんばろっ!!」
それでもやる気に満ちたサナを止めることは出来ない。
「ああ、この次も……」
言い切れなかったが、それでも……サナを守りたいと羅那は強く思うのだった。
クフ=ロンが倒れた余波は、夜の街のどこかで、砂嵐の名残のような歪みとなって漂っていた。
その歪みを、ビルの影で感じ取る存在がいる。
「……あの鈍重、やっぱり落ちたのね」
包帯の隙間から、くすりと笑う声が漏れる。
「なら――次は、私が直接、迎えに行くしかないじゃない」
白い包帯が、地面を撫でるように蠢いた。
次の瞬間、メーヘンの身体は砂粒へと崩れ、夜風に溶けるようにして、市街地の闇へと消えていった。
そして、ようやく羅那とサナもメーヘンがいるとされる公園へと足を踏み入れる。
街灯の光がまばらに落ちる、広く静かな場所。
遊具の影が地面に歪んだ輪郭を落とし、風に揺れる木々が、微かな音を立てている。
「……この辺りで、気配を感じたんだけど……」
サナが立ち止まり、周囲を見回す。
夜の公園は、思っていた以上に広い。視界の奥まで続く暗がりは、どこか底なしのように見えた。
「緑地の方かもしれないな。ちょっと、上からも探してみる」
羅那が集中するように目を閉じた、その一瞬。
サナは――なぜか、ひとりで歩き出していた。
「声が……聞こえる……あっち……」
まるで操られているかのように、導かれるかのように、そちらの方へと歩いていく。
「……サナ?」
気づいたときには、もう距離が開いていた。
「っ、待って――」
羅那が声をかけるより早く、サナの姿は木立の奥へと紛れ込んでしまう。
胸騒ぎが、嫌な形で脈を打った。
「あらあら……これは、好都合ね」
森の影から、湿った砂を踏むような音がする。
「王妃を迎えるのは……私が先みたい」
包帯を揺らしながら、メーヘンは、ゆっくりとサナの背後へと近づいていった。
サナは、ふと、足を止めた。
胸の奥が、ざわりと波立ったのだ。
「……?」
「こんばんは、サナ」
その声と同時に、ベンチの影から、メーヘンが立ち上がる。
白い包帯が、地面を這い、サナの足元をすり抜けていく。
「あなた……!」
「私はメーヘン。王妃の器さん。あなたを迎えに来たのよ。――我が王の復活のために、ね」
次の瞬間、視界が波打った。
メーヘンの深くて黒い瞳に吸い込まれるように。
公園の景色が、砂に溶けるように崩れ、足元の地面が乾いた地層へと変貌していく。
風の音が消え、街灯の光も、星も、夜そのものが剥ぎ取られていった。
代わりに現れたのは――
どこまでも乾いた、閉じた箱庭。
「……幻術……?」
そう思ったときには、もう遅かった。
空間そのものが、サナの意思を拒むように歪み、逃げ道のない『内側』へと閉じ込める。
景色が、ぐにゃりと反転した。
そこは――見慣れた社長室。
整然とした机。
窓から差し込む、柔らかな光。
そして。
「……羅那くん……?」
スーツ姿の羅那が、そこに立っていた。




