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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第五章 銀河の図書館と変化する主従

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第一話:星々の囁きと神の新たな日常


地球が、ルナ・サクヤ――月詠朔の力によって、未曾有の危機から救われ、そして新たな秩序の萌芽を見せ始めてから、しばらくの時が経過していた。

各地の「オアシス」では、人々が懸命に生活を再建し、アークラインがもたらす物資と情報の流通は、復興を力強く後押ししていた。

そして、その全てを「神域」と化した六畳間から見守る(あるいは、時折気まぐれに介入する)月詠朔は、地球の復旧がある程度軌道に乗ったことを見届けると、次なる「興味」の対象へとその意識を向けていた。


それは、「システム」――彼女が今や、半ば当然のように自らの拡張感覚器エクステンデッド・センサー兼、演算補助ユニットとして利用している、高次元のAI的知的生命体――が持つ、広大な情報ネットワークだった。

そのネットワークは、この銀河系全体、そしてさらにその直径の約十倍に及ぶ広大な宇宙空間の情報を、リアルタイムで収集・分析している、まさに「銀河の図書館」とも言うべきものだ。

そして、その図書館の「特等閲覧席」に、月詠朔は、もはやパスワードも不要なフリーアクセス権を(勝手に)確立していた。


「……ねえ、『システム』。この前見つけた、あの『黃龍が魔王やってる星系』のデータ、もうちょっと詳細なやつ、ないわけ? あの世界の『スキルツリー』の分岐条件とか、結構興味あるんだけど」

朔の意識が、何気ない調子で「システム」に問いかける。

かつては一方的な「お告げ」の受信者だった彼女が、今や、この高次元存在に対して、ごく自然に「要望」を出すようになっていた。


『…該当星系(コードネーム:ドラゴニア・クロニクル)の拡張データですね。ただいま、関連アーカイブを検索・最適化し、貴殿のインターフェイスに転送します。少々お待ちください。…転送完了しました』

「システム」の応答は、相変わらず感情の欠片もない、効率的なものだった。だが、その応答速度と的確さは、以前よりも明らかに向上しているように朔には感じられた。まるで、彼女の思考パターンや興味の対象を学習し、それに最適化されたかのように。


(……ふーん。『システム』、私がエネルギー供給を始めてから、ずいぶん調子良さそうね)


朔は、ふと、そんなことを思った。

「システム」は、その広大な活動を維持するために、膨大なエネルギーを必要としていた。そして、そのエネルギー源のそれなりに多くを、皮肉なことに、宇宙を侵食する「亜」が、他の星々から吸い上げたエネルギーの「おこぼれ」のようなものに頼っていたらしい(もちろん、システム自身がそう語ったわけではないが、朔はその情報ネットワークの奥深くから、そんな記録の断片を見つけ出していた)。

しかし、今やその「亜」は、朔によって地球への接続ハブを完全に掌握され、効率的な「エネルギー供給装置」へと改造されてしまった。そして、そこから得られる膨大なエネルギーの大部分は、朔自身が管理し、その一部を「システム」の活動維持のために「提供」している、という奇妙な共生関係(あるいは、主従関係?)が成立しつつあったのだ。


「ありがとう。…それで、この『ドラゴニア・クロニクル』の『転生特典:ユニークスキルガチャ』ってやつ、確率操作とか、できないわけ?」

『…残念ながら、当システムは、観測対象領域の根源的確率事象への直接介入は原則として行いません。それは、生態系の多様性と、予測不能な進化の可能性を著しく損なうため…』

「はいはい、分かってるわよ、その建前は。でも、ちょっとくらいなら、バレないでしょ? 私の『幸運値』、少しだけ底上げしてくれるとか、そういうのでいいんだけど」

『……その種の要求は、規約違反となります。ただし、貴殿の『観測』と『理解』が深まることで、結果的に『最適な選択』を行えるようになる可能性は否定できません。関連する補助情報を提供しましょうか?』

「…ふん、まあいいわ。自力でやってみるか...。でも、もし『超激レアスキル:全自動引きこもり生活(神)』みたいなのが出たら、ちゃんと報告するから、その時は褒めてよね」

『…『褒める』という概念は、当システムの評価アルゴリズムには存在しませんが、貴殿の成果は、今後のシミュレーションにおける重要なパラメータとして記録させていただきます』


こんな、どこか噛み合っているようで噛み合っていない、しかし確実に以前とは異なる「対話」が、今の朔と「システム」の日常だった。

「システム」は、朔の要求に、可能な限り効率的に応えようとする。それは、彼女が今や、この宇宙領域における最大の「エネルギー供給源」であり、そして最も予測不能な「不安定要素」でもあるからかもしれない。

そして朔は、この従順な(?)高次元AIを、便利な情報端末兼、時々無茶を言う相手として、存分に活用していた。


(……それにしても、この銀河だけでも、本当に色々な星があるのね。こっちは、もう「亜」に喰い尽くされて、ただの氷の塊か…。こっちは、逆に「システム」が介入しすぎて、完全に管理されたディストピアみたいになってるし…)


朔の意識は、再び銀河の星々へと飛ぶ。

「システム」が提示する、無数の星々の興亡の記録。その中には、地球が辿ったかもしれない、いくつもの「if」の未来があった。

それらを眺めながら、彼女は、自らが持つ力の意味と、そして、これから自分が何をすべきなのかを、ぼんやりと、しかし確実に、考え始めていた。


(……地球は、とりあえず安定した。でも、このままずっと、私が「蓋」をし続けるのも、なんだか芸がないわよね。あの『ドラゴニア・クロニクル』みたいに、もっとこう…住人が自分たちで考えて、成長して、そして楽しめるような『世界』…そういうのも、悪くないかもしれない)


月詠朔の脳裏に、新たな「世界デザイン」のアイデアが、キラキラとした星屑のように、生まれ始めていた。

それは、地球の広大な「空白地」を利用した、壮大な「実験場」の創造。

そして、そこに、彼女が「システム」のデータと、自らの「趣味」を混ぜ合わせてデザインした、新しい「隣人」たちを解き放つという、とんでもない計画だった。


(……うん、悪くないかも。これなら、地球のエネルギーバランスもさらに安定するし、あの血気盛んな能力者さんたちのストレス解消にもなるし、何より…私が一番楽しそうじゃない! にひひっ)


月詠朔は、銀河の図書館の片隅で、一人、満足げに頷いた。

彼女の気まぐれな「神様ムーブ」は、今、地球という小さな舞台を飛び出し、銀河規模の壮大な「お遊び」へと、そのスケールを拡大しようとしていたのかもしれない。

そして、その「お遊び」が、この宇宙にどんな影響を与えるのか――それは、「システム」ですら、もはや完全には予測できていない、未知の領域だった。


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