光と影
「そう……あなたが……」
会話というより独り言にも似た私のつぶやきは霧の中に吸われて消えた。
衝撃はあった。
……だが、驚愕はなかった。
私はそんな私自身に痛みを感じていた。
何故だろう、何故驚きがないんだろう、と私は自分の中を探り、記憶をたどって、そして……。
「……偽りをっ!」
その時、鋭い怒りを含んだ叫びが響く。
アンジェの声。
エレインの「詩」によってまともに立てなくなっていながらも、アンジェの澄み切った黄金の瞳はしっかりと「フォン=モウン」と名乗った男を見据え、射抜いていた。
「私たちはフォン=モウン様のお姿を存じ上げています。ご主人さまと私の命の御恩人なのですもの。あなたのお姿は、モウン様とは全く異なっています。……あなたは何者です!? モウン様のお名前を騙り、その上『登攀者殺し』の汚名まで着せようとするなどと、卑劣なことを……!」
なおも言い募ろうとしたアンジェの声が止まる。私が静かに片手を上げ、制したのだ。
「……ご主人さま……?」
不思議そうな顔でアンジェが私を見る。
やがてその美しい顔が動揺の色に染まった。
私の考えを察して。
私の胸中には熱く切ない潤んだ塊がこみ上げ、まなじりには微かに涙さえ滲みそうだった──アンジェに対して。
この子はなんて、純粋で一途なのだろう。この子は、人を疑うということを知らない。健気なまでに信じ抜く清らかな強さがある。多分、私にはなく、それゆえに尊く愛しいと思える気高い心が。
「……アンジェ。あなたは、あなたの心は、ほんとに……ほんとに、私なんかにはもったいないくらい、綺麗。欠片も疑っていないのね、モウンのことを」
「ご主人さま、それはどういう……?」
アンジェの声には震えが混じっていた。
私が、目の前の男をフォン=モウンだと。そして登攀者殺しであると。そう思っていることに対しての、震え。
確かに、目の前の男は私たちが知るモウンの姿とは違った。
モウンのように痩せぎすで貧相な体つきではなく、均整の取れた逞しい身体。鼻筋は通り、容貌は整い、さらりと流れる髪は、あのくすんだ黄色とは程遠い黄金に輝いている。
だがそれでも、その男の眼もとには、隠しきれない昏い影があった。
孤独と寂寥を抱えた陰鬱な哀しみがあった。モウンと共通するような。
そして、それ以上に。
──歪んでぎらつく、狂気じみた歓喜があった。
「……ラツキ。君は、僕がフォン=モウンであること。そして、『登攀者殺し』であることに驚いていないようだね。何故だい?」
モウンと名乗るその男は少し口元に笑みを刷いて尋ねてきた。
その笑みは、無意識に私が彼を疑っていたのだ、という事実に対する、哀しみの笑みなのだろうか。それとも、理解者を得たという喜びの笑みなのだろうか。
「何故かしらね。私も、あなたのその姿には驚いているわ。でも、あなたが、ただの登攀者ではないことは……多分私たちにとって、危険で、怪しまなければならない、警戒しなければならない人間であるということには、いつの間にか、気づいていたのよ。だからかもしれないわね」
私は胸の軋む思いで答えた。
明確に意識の上で「そのこと」が分かったのはたった今だ。だが意識下で、私は、フォン=モウンがどういう人間かについてずっと疑念を抱いていたのだろう。何故なら。
「何故なら。あなたは、……アンジェを狙う、レグダー男爵の影の協力者だったから」
そこにいた全員の声にならない驚愕の沈黙が場を支配した。
レグダー男爵。かつて、あの手この手でアンジェと光芒剣を狙ってきた私たちの敵。
今はもう、悪事が露見し、処刑されているが、彼には対等の立場の謎の協力者がいることを、私は知っていた。以前、スキルによってその光景を覗き見ていたからだ。
だが、他のみんなは違う。モウンが男爵の協力者であることはおろか、そもそもそんな存在がいたことさえ知らなかっただろう。男爵も、彼の存在については供述せずに刑に伏したらしい。
フォン=モウンは眉をぴくりと上げ、手を広げて素直に感嘆の姿を見せた。
「……これは、僕の方が驚かされたな。ああ、その通りだ。だがラツキ、君は何故そのことを知っていたんだい?
……いや、そこまで不思議でもないか。アンジェリカくんが聖王の女系の子孫であること、そしてその子孫が光芒剣を持っているはずだということ。そういう情報を最も詳しく知っているのは、やはり聖王の子孫であるフェルゲイン家の者のはずだ、という答えにたどりつくのは自然なことかもしれないね」
モウンの言葉に、私は微かに頷いた。確かに、男爵が最も情報源として頼れるのはフェルゲイン家の人間のはず。そして、フォン=モウンとユーゼルクとの間に何らかの関係があるというのなら、モウンはその条件に当てはまる。だから彼が協力者の可能性は高い、という推測はできるだろう。
だが、私がモウンを無意識下で危惧していた決定的な理由は、まだ、あった。
「それだけじゃないのよ、モウン。……私自身、たった今思い出したことだけど。あなた、私と二度目に会った時のことを覚えている? 私を助けてくれて、その後に再会した時のことよ」
「ああ、酒場で、君が金貨百枚をくれようとした時のことかい。あの時は色々話をしたね」
目の前の男は、私とモウンとの間にあった出来事を細かく平然と話し出してくる。
そこからして、やはり彼はモウン本人なのだろう。
その苦い思いを新たにしながら、私は苦しい息とともに、答えを返した。
「……モウン。あの時あなたは、私の名を呼んだのよ。──ラツキ、とね」
モウンの金色の目が少し大きく見開かれた。
そう。
初めてモウンと会った時、すなわち私が死にかけていた時、私は、途切れようとする自分の意識を繋ぎとめるのに精いっぱいの状態であり、一方アンジェは驚愕と衝撃で硬直してしまって、どちらもまともに会話ができる状態ではなかった。
だから。
あの時、私はモウンに、自分の名を名乗れなかったのだ。
そして酒場で再会した時も、私は自分の名を名乗るのを忘れていた。
それなのに。
それなのに、モウンは、私の名を知っていた……。
『う、嬉しかった。人の役に立てたのなんて、人を助けることができたなんて、きっと生まれて初めてだ。な、何の意味もない人生だと思っていたけれど!
こ、こんな、こんな気持ちは今まで知らなかった。君が教えてくれたんだよラツキ。君のおかげで、僕は知ることができたんだ!』
……あの時、彼はそう言ったのだ。
君が教えてくれたんだよラツキ、と。
あの時の私は登攀者になりたての新人で、もちろん聖花の摘み手でもない。そんな私の名前を知っていたのは、身近な人間か、ごく少数の限られた人間だけのはずだった。
その限られた人間の中にいた一人が──レグダー男爵、だ。
「そう、か。……ああ、あの時は興奮していたからね……思わず君の名を呼んでしまっていたか。失態だったな」
モウンは煌めく髪をかきあげ、少しうつむいて苦笑した。
だがすぐに顔を上げ、今度はまっすぐに私の顔を見つめ直す。
「だけどラツキ。あの時に言った僕の言葉自体は嘘じゃない。僕は君を助けることができて、初めて希望が持てた。自分自身にね。
そう、本当は君たちの様子を探っていたんだ。君たちを助けたのも、あの場でアンジェリカくんが殺されてしまっては光芒剣まで失われてしまうからだった。
聖王の樹を満開にさせたように、光芒剣には生命力を活性化させる力があることは伝承で知っていたからね。その力で僕自身のあの貧弱な体を変えてほしくて、僕は男爵と協力していた。……でも」
モウンは感極まったように自分の胸を押さえた。以前とは見違えるような逞しい胸を。
「でも、誰かを助けることができるっていう事実が、これほど嬉しいものだなんて、あの時、僕は初めて知ったんだよ。その時から僕は、自信が少しだけ持てるようになった。だから、君に心から感謝してるのは本当なんだよ、ラツキ」
そして彼は、朗らかに笑って、言ったのだ。何のためらいもなく。
「だからラツキ、君に仲間になってほしい。僕がこれから皇帝になるにあたって、君が傍にいて助けてくれたらきっとすごく頼りになると思うんだよ」
唖然、という言葉では足りないだろう。
彼は皇帝になると言ったのだ。
自らが登攀者殺しという殺人鬼であることを認めた上で、何一つ悪びれることなく。
「皇帝……!?」
帝国出身者のアンジェとミカエラがほぼ同時に、呻くように言葉を零した。
「そうさ。皇太子が死ねば皇帝候補は選び直しになる。今の僕なら有力のはずだ。僕はいい皇帝になれるよ。あんな……」
モウンは後ろを振り返り、倒れたままの皇太子を嫌悪するように見やった。
「あんな奴よりも、ずっとね。ラツキたちも、ミカエラたちも、僕の手伝いをしてほしい。僕はいい国を作れると思うよ。きっと」
「ふざけるな!」
真っ先に激怒の雄叫びを上げたのはルーフェンだった。その狼頭の中で、凶獣の眼差しが炎のように燃えていた。
「一度は、一度だけはユーゼルクのためと思うからこそ、貴様の求めにも応じた。武士の矜持さえも捨ててだ。だが、拙者らに、今後も貴様の配下になれだと!? 貴様ごとき薄汚い殺人鬼の!?」
「配下なんて言ってない。仲間にと言ってるんだよ。それに、確かに僕は多少人を殺したけど、僕が皇帝になったらその何百倍、何千倍もの人が救われる。そういう国を僕は作れるはずなんだ」
「それ以上の戯言はほざかせぬ!」
猛るルーフェンは、いったんは納刀していた自らの妖刀・羅刹を再び引き抜いた。ぎらりと輝く刀身は獲物の血潮を求めて不気味に唸っているかのようだ。
が、モウンは平静だった。かえって彼は、哀れなものを見るようにルーフェンを見やる。
「僕を斬る気かい。わかっているだろうけど、そうすれば君たちの大事なあいつも……」
「最初からそうすべきだった。いや、奴ならそうせよと言うはずだったのだ。己が身など構わぬから貴様を斬れとな! その覚悟を持てなかった自らの未熟を拙者は恥じる!」
もう少し相手を見極めてと、私が止める間もなく。
咆哮と共にルーフェンは奔った。羅刹を車に構え、疾風のようにフォン=モウンをめがけて。
大地から擦り上げるように軌道を描いた剣が、天に昇る龍を思わせて閃く。まさに妖狼の牙が獲物を食いちぎった、その姿を私は幻視して──
けれど。
真っ赤な血が吹き上がった。
それは、ルーフェンの胸元から激しく迸った鮮血だった。
「ぐ……うっ!」
信じられないものを見るような目つきのまま、ルーフェンは力なく頽れる。
フォン=モウンがいつの間にかその手にしていたその大剣は。
まぎれもなく、ユーゼルクの『殲煌雷刃』だった。
ルーフェンが倒れるのとほぼ同時、空を裂いて襲い掛かった殺意を、フォン=モウンは軽く叩き落とす。虚しく落とされたそれは、バートリーとキュリエナが絶妙に間合いをずらして打ち放った苦無。
地面に苦無が弾き落とされた音が響いた瞬間、既にモウンは跳んでいた。新たな「詩」を奏でようとしていたエレインの元へと。跳びながら真一文字に横に薙いだ剣は、エレインの竪琴の絃をことごとく断ち切っていたと、斬られた後に気付いてエレインは蒼白となる。
けれど、なおも。
岩山をも砕かんとする拳がモウンを襲っていた。ロッグロックの巨大な拳。
威力のみならず速さも凄まじいその拳を、しかしモウンは踊るようなステップで見切る。だが、空を泳いでよろめいたと見えたロッグロックの背後からさらに飛び掛かる小さな影があった。テュロンの姿。
巨体のロッグロックを陽動とし、小柄なテュロンを本命としてその陰に隠した無言の、そして一瞬の連携は。
……通じ、なかった。
叩きつけたテュロンの大斧はモウンの剣に流れるように捌かれ、そのまま一回転しながら、回転の勢いを乗せて繰り出されたモウンの手刀がテュロンの首筋をしたたかに打ち据えていたのだ。
「くううっ!!」
呻いて、テュロンは膝を付く。
皆、信じられない思いでその光景を打ち眺めていた。
それは僅か一瞬にも満たない刹那の間だった。
ただ一人で、登攀者の中でも一、二を争う私たちとユーゼルクの仲間たちの大半の攻撃を、連続して回避し、逆襲し、叩きのめしたという、その息を飲むような現実が繰り広げられたのは。
まだアンジェ、ラフィーネさん、ミカエラと言った魔法行使者たちが残っているが、おそらく無駄だろう。今の動きからすると、精神を集中し、詠唱に入るその前に、モウンの剣が唸るに違いなかった。
「……これが、強さか。これが、強いっていうことなんだな」
モウンは呟くように言うと、殲煌雷刃の大剣を地面に突き刺した。いや、投げ捨てるように放り投げたのだ。
「……素晴らしいが、同時に、……くだらないものだね。こんなもののために、か」
吐息を漏らしたモウンの、その目はどこか焦点を失い、虚ろだった。狂熱が冷めたかのような虚しさが、そこには感じられた。
「ああ、言っておくけど、みんな命は大丈夫だよ。手加減はしておいた。君たちは本気で僕を倒そうとしたんだろうけど、僕はそんな君たちに手加減した。それだけの力があるってことだよ」
つまらなそうに言い、彼は私を見つめる。
「これまではあいつが最強だった。そのあいつをラツキ、君が上回った。そして今は──今の僕なら、君よりさらに強いかもしれないね」
「どうかしらね。試してみる?」
挑発気味に応えつつ、私は背筋が冷えるのを感じていた。
政治的駆け引きや精神的な揺さぶりではなく……純粋な戦いそのものに対して、私が恐怖を感じたのはこれが初めてだった。
今のフォン=モウンは。
単純に剣術と体術だけで考える限り──多分、私と同等以上だ。
だが、モウンは手を上げて私を押し止めるようにし、苦笑した。
「やめてくれよ。僕が君に感謝してるのは本心だってさっきも言っただろう? 本当に君は僕にとって特別な人なんだ。だから戦いたくなんかない。そのために今だって手加減したんだよ。ねえラツキ、君たちが僕の仲間になってくれればそれで全部うまくいく」
そして彼は頭を回し、今度はミカエラの方を見つめる。懐かしさと悔しさと切なさが入り混じったような視線で。
「……ミカエラ。それは君も同じだよ。君も僕にとっては大事な人だ。あいつじゃなく、僕と一緒に歩んでいってくれないか」
「……笑えないわね……! そういう理解にも苦しむ冗談を言って何が面白いのかしら」
ミカエラは恐怖と戦慄を憤怒で強引に上書きして、ぎりりと歯を噛みしめ、進み出る。
「お前が今見せびらかしたその殲煌雷刃も、その力も、姿さえも! 全部ユーゼルクから盗んだものでしょう! 私はずっとユーゼルクを見てたからよく知ってるわ、彼が何年も血のにじむ思いで努力して、身を削るような修行をして、身に付けたものよ! その強さも技も剣を持つ資格もね!」
しかしミカエラにそう言い終わらせもせず、モウンは笑い出した。虚ろに響く、哀しい笑い声だった。
「ははは! 努力か! 修行か! ああ、もちろん知ってるよ。僕だって、君以上に近くからあいつを見てきたんだ。あいつがどれだけ必死に『努力』をしていたかはよく知っているさ。──『必ず結果の出る努力』をね!!」
はっと胸を突かれる思いで私はモウンを見つめ直した。その表情には悲愴ともいえる絶望が張り付いていた。
「じゃあ僕が努力をしなかったとでもいうのかい。それこそ冗談じゃない! ぶっ倒れるまで剣を振り、食べたものを全部吐き、それでも体力をつけるために無理やりまた食べ物を強引に詰め込む、そんな日々を僕だって送ってきた。……だけど! そこまでやったって何も手に入らない人間だっているんだ! 望んだ結果にならない人間だっているんだ!!」
一息を突き、モウンは皮肉な視線で周囲を見回す。
「まあ、ここにいるのはみんな、それぞれ『努力して結果が出た』人たちだ。僕の想いなんて、わからないだろうけどね」
──そうじゃ、ない……。
私。
私が、そうだった。
かつての私が。前の世界での私が。
私がモウンにどこか不思議な親近感を覚えていたのは、彼が抱いていたその翳りの正体が、私と似通ったものだったから、なのか。
心臓を掴まれるような息苦しさを感じながら、私はモウンの言葉を聞く。
「だから、なのさ。僕がいい皇帝になれると言った理由は。僕は、弱い人間の、能力がない人間の気持ちをとてもよく知っているから。その人たちを救うことだって、きっとできるはずなんだ」
モウンはもう一度、ちらりと背後の皇太子殿下を見やった。殿下はようやく上半身を起こしていたが、まだ青い顔をして荒く息をついている。
「ああいう男にはきっとそれはわからない。
多くの人は、古王国は因習にこだわり古例に縛られているけど、それに比べて帝国は実力主義だからいいと言う。
……だが、じゃあ実力のない人間はどうなるんだ? どんなに頑張っても芽が出ない人はずっと踏みつけにされているしかないのか? どんなに努力したって届かない人たちはただ泣いていろというのか?
ごく一部の、選ばれた人間だけが幅を利かせてるという意味では、古王国も帝国も変わりはしないさ! 選ばれなかった圧倒的多数の人々を犠牲にしてね!」
モウンの言っていることは、ある意味、子どもの我儘や癇癪と同じではあった。
そもそも殺人者である彼がどんな主張をしても、そこに説得力などあろうはずもない。
……だが同時に、人間の、もがき苦しんで生きている人間の生々しい悲鳴そのものでもあったのだ。
平凡な人間の、誰もが一度は抱く馴染み深い苦悩を、醜く極端に肥大化させた哀れな存在がそこにいた。
「誰もがあいつのように恵まれた才を持って生まれてくるわけじゃないんだ。……ふん、その才能だって、あいつの場合はまともなものじゃないけどね」
「……フォン=モウン。あなたは……あなたはユーゼルクの何を知っているの? あなたとユーゼルクは一体どういう関係なの?」
何ですって、と反論しかけたミカエラを制し、私は尋ねた。
先ほどから、「ユーゼルク」という名前さえ出すのも厭わしいかのように「あいつ」としか呼んでいなかったモウン。
だが、それほどに嫌悪していながらも、彼はユーゼルクのことをよく知悉し、ずっと見ていたとも言っている。
モウンとユーゼルク。この二人の間にある、悍ましいであろう何らかの関係を、しかし私は問わずにはいられなかった。
モウンは暗く深い漆黒に塗り潰された皮肉な苦笑をもって、それに応えた。
「……僕のように貧相で病弱で、武の才も魔法の才もない人間が生まれてきたことは、父も祖父も……いや、フェルゲイン家の誰もが耐えられなかったんだ。帝位奪還という一族の宿願のためにもね。
だから──
だから、その代わりを用意した」
モウンの黄金の目が、再び絶望と憎悪と憤怒に燃え上がった。
「彼らは『造り上げた』のさ! 僕の身代わりとして、理想的な息子、理想的な剣士、理想的な男性、理想的な人間をね!
代償を支払えばどんな願いもかなえる力がこの世界にはある。君たちも知っているんだろう。その力のことを。
──そう、『秘法』を使って人工的に造り上げられた存在! それがあいつ、ユーゼルクと呼ばれているあいつなのさ!! そしてその代償とは僕自身だ!」




