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【第4章完結】学校1の天才美少女な先輩に即告白・即失恋!だけど諦めきれません!  作者: 天井 萌花
第5章 先輩の悩み事編

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第198話 先輩、仕切り直しましょう

 ヘンリーとアーロンに息ぴったりにツッコまれ、ルークは再び正気に戻ったらしい。


「よくないです!」


 と大きな声で叫んだ。

 そりゃあよくないに決まっている。考えてくれていることは素直に嬉しいのだが、全然ドキドキしていないのだから。


「違った?」


「何もかも違います。」


 表情を引き締めて言うルークだが、こてんと首を傾げたブレアを見た途端緩んだ。

 天然な先輩可愛い、と呟いている。


「何でもいいんだね、ルークくんは……。」


「じゃあ、帰っていいかな」


「それは駄目です!」


 ブレアは苦笑いしているヘンリーに便乗しようとしたが、あっさり引き止められてしまった。

 何でもいいんじゃないのか。


「先輩、仕切り直しましょう。今度こそ壁ドンさせてください!」


「嫌だ。1回だけって君が言ったんでしょ。」


「ノーカン!まだ俺はしてないので0回です!!」


 ええ、とブレアは面倒そうに眉を寄せる。仕切り直しは普通に2回目だろう。


「はぁ……どうぞ勝手にして。僕はそろそろ眠いから。」


 今どうしてもしたいのだろうか。いくら考えたって、変態の考えは変態にしかわからない。

 大きく溜息を吐いたブレアは自ら壁に背を付けた。


「え、いいんですか!?」


「何でそんなに驚くかな。」


 じっとブレアに睨まれたルークは、失礼しますね……と言いながらブレアの前に立つ。

 既にそわそわしている。早い。


「では、えーと……先輩、気を遣って壁に寄るならもうひと気遣いほしかったです。」


 正直に言えば壁に寄ってほしくはなかったかもしれない。

 ブレアのようにグイってしたかった。


「何してほしいの?」


 気遣いとかではなく時短なのだが。

 さっきのルークは一切動かなかったし、特にすることもないように思われる。


「先輩、さっき男同士じゃ楽しくない的なこと言ったじゃないですか。なら女性になってくれてもよくないですか!?」


「君は楽しんでるみたいだったから……。」


「勿論男の先輩も大歓迎ですよ!ですが今回ばかりは問題がありまして――」


 ルークはニコリ――というよりへらりと笑ったかと思えば、ぎゅっと表情を引き締める。

 何やら深刻そうな顔だがどうせしょうもないことだろう。


「――先輩が高身長イケメンすぎて届かないんです!」


「ふっ、それは残念だったね。」


「なんですかその馬鹿にしたような笑い方!しかも3人とも!」


 吹き出したブレアに文句を言おうと思ったが、ギャラリーの方が大笑いしていた。

 2人ともルークより背が高くて羨ましい。

 アーロンなんて今のブレアよりも高い。ルークの理想の身長である。


「一生懸命な感じじゃなくてこう……余裕を持って上から見下ろしたいんです!その方がドキドキとしませんか!?」


「既に一生懸命な感じになってるよ。」


 何やら拘りを熱弁しているが、注文が多いなーとブレアは8割聞き流している。

 残念ながら言っている意味がほとんどわからない。


「コイツ何で少女漫画脳なんだろうな。」


「茶化さないでください!真剣だから。」


 ヘンリーがごめんごめんと謝っている間に、またしても溜息をついたブレアは姿を変える。

 乗り気じゃなくても応じてくれるらしい。


「うわっ、先輩の変身見逃した……!」


 ばっとブレアの方を振り返ったルークが悲しそうに声をあげる。

 ヘンリーとアーロンの方を見ているうちにブレアの姿が変わってしまっていた。

 意外とルークの前で姿を変えることは多くないので、変化の瞬間を見たかったのに。


「残念です……。でも先輩ちっちゃくて可愛い……。」


「……喧嘩売ってる?」


 改めてときめいているルークとは対照的にブレアは不機嫌そうだ。

 小柄なのは少しコンプレックスらしい。見下ろされると腹が立つので。


「しないならもういい?」


「させてください!」


 そうも壁ドンに拘る必要があるのだろうか。しなくても充分楽しそうだ。

 ブレアと向かい合うように立ったルークが、真剣な表情で見つめてくる。


「……好きにすれば。」


 諦めたように言ったブレアはふいと顔を逸らした。

 そうも見られると緊張が移るというか、何か変な感じになる。


「急かさないでくださいっ!心の準備が……。」


「こういうのは心の準備をしてから声をかけるべきじゃないかな。」


 わっと早口で言われ、ブレアは呆れたように溜息を吐く。


「うぅぅ、すみません……失礼しますっ!」


 ぎゅっとキツく目を閉じたルークがドンッと壁に手をつけた。

 あまりの勢いと音にブレアの肩がビクッと跳ねる。

 ドンッを通り越してドォンッ――だった気がする。


「……ど、うですか、先輩……?」


 ブレアの様子を伺おうと、ルークは恐る恐る目を開ける。

 半分ほど開いた目でちらりとブレアを見た途端、どっとブレアから距離を取って崩れ落ちた。


「ゃ、何……?」


「ユーリーがガチで怖がるレベルの奇行……。」


 突然の素早い動きに3人ともドン引きしている。

 ブレアに関しては本気で怖がっているが、ルークは気づいていないようだ。


「……先輩が可愛すぎて……すみません……」


「自滅じゃん。」


 床に蹲ったまま、ルークは顔も上げずに謝った。

 心配になるほど真っ赤に染まった耳から、どんな顔をしているかは大体想像できる。

 ブレアをドキドキさせたいという話だったはずだが、結局ルークしかドキドキしていない気がする。

 見ているアーロンとヘンリーからすれば面白かった。肝心のブレアはどう思っているのだろうか。


「……眠い。」


 真顔でルークを見下ろしながら小さく欠伸をしている。どうも思っていなかった。


「もうルークくん置いて帰っていいですよ。煩くて寝れないと思うので。」


「ちゃんと持ってくよ。これ置いていかれると困るでしょ?」


 ブレアは大きく溜息を吐くと、ルークの前にしゃがむ。

 ルークの顔を掴んで無理矢理目を合わせ、ニヤリと微笑んで見せた。


「下らないことで退屈させないでくれるかな。……君と普通にしてるの、結構楽しいから。それでいいでしょ。」


 ブレアがぱっと手を離すと、支えを失ったルークの顔がガンッと床についた。痛そうな音だ。

 ルークは「~~っ!」と声にならない悲鳴をあげている。流石に痛かったのか、はたまたときめいているのか。


 ブレアだって決してドキドキしないわけじゃない――はずだが、ルークが狙ってさせるのは当分無理そうだ。

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