第188話 てっきり裏があると
ブレアがいない部屋にいてもしょうがない……というか、ルークにとってはほぼ拷問である。
かといって他に行く当てもなく、適当に敷地内を歩き回っていると――
「あ!ヘンリー、クロエちゃん!」
共用のラウンジで運よく見知った顔を発見できた。
「何してるんだ?」
「勉強だよ。もうすぐテストだから。……ルークくんも勉強してる、よね?」
問題集を指したクロエから、ルークは静かに目を逸らす。
やっていないのが見え見えである。
「……俺も勉強会混ぜてほしい。」
「やってなかったんだね……。」
すっと着席するルークに2人は苦笑している。
「しょうがないだろ!今先輩のことで必死なんだって!」
「いつもそうじゃん。点悪かったらユーリー先輩怒るんじゃない?」
ブレアを言い訳に認めてしまえばルークは一時も勉強しないだろう。
勉強を見てもらっているのだから結果で返せばいいのに。
「いや、先輩は俺の点数が理解できなくて『僕が教えたのにこの点数……?何で。』ってゴミを見るような目を向けてくれるはず!」
「向けてくれるなのシンプルにヤバい。」
どちらかと言えば怒っているに近いはずだが、ルークは感謝してしまっているようだ。
「勉強頑張って先輩に褒められたい気持ちは勿論あるけど、それと同じくらいズタボロに罵倒されたい気持ちが……っ!」
「ロイドさん、キモいと思ったら正直に言っていいよ。」
突然話を振られ、クロエはええ!?と戸惑っている。
無理もない。なんともコメントし辛い話題だ。
「えーと……言いはしないかなぁ?」
「待ってロイドさん最高!」
困ったようなクロエの返答を聞いて、ヘンリーは何故か愉快そうに笑った。
「「何が……?」」
「だって――」
思ってはいるってことだよね。
と言いそうになったが、指摘しても困らせそうなのでやめておく。
「何でもない」と雑に誤魔化した。
「ルークくんも一緒に勉強するのはいいんだけど、ユーリー先輩と一緒にいなくていいの?」
どうせルークはブレアと離れたがらないだろう、と思ったのも声をかけなかった理由の1つなのだが。
見たところブレアと一緒ではないようだ。
「そう聞いてくれ!先輩とまだ仲直りできてなくて、なのに先輩リアム先生とどっかいっちゃってさー!」
「仲直りって、喧嘩でもしちゃったの……?」
「変な魔法使ったって聞いたけどなー。」
心配そうに尋ねるクロエとは対照的に、ヘンリーは勉強の片手間程度に聞いている。
どうせまた大した問題じゃないと思っているのだろう。
「多分魔法自体は問題じゃないんだよな。お母さんがどうとかで先輩凹んでて、そんな時に変なこと言ったから余計先輩が傷ついて……。」
「細かいことはわからないけど、ルークくんはもっと空気読むべきだと思う。」
抽象的な説明では、クロエにはほぼ何も伝わっていない。
それはヘンリーも同じだったが、ルークの性格を見ればわかる気がする。
「空気読む……?」
「オレとロイドさん、何回かこうやって勉強してるんだけど、声かけてきたのルークくんが初めてだよ。」
「確かにそうかも?」
だからと言ってどうというわけではないのだが。
むしろそういうところがルークのいいところだと思うし、変に勘繰られないのは助かるが。
「ユーリー先輩って察してほしいタイプって感じだから、先輩のことよく見て考えて、ちょっとは言葉選びとか気を付けた方がいいんじゃない?」
「気を付けてるつもり……なんだけど先輩難しいんだよなー!」
全然自分の話をしないので、ブレアのことが何もわからない。
だから一生懸命考えているわけだが、考えてもわからないのだ。
「ルークくんはユーリー先輩が好きすぎてちょっとした態度とか見た目の違いにはキモいほど気づくけど。逆に先輩の考え方とか心の変化には疎すぎるイメージない?」
「ええっそうか!?」
むむむと考え込んだルークだが、本人にも決めつけないでと言われてしまったし……無意識のうちにブレアの内面を固定してしまっていたのかもしれない。
ブレアの好意に全然気づけなかったのも、ブレアはそういう人だと思っていたからだ。
「わたしも友達と恋バナしてたりするとそういうの聞くかも。彼に察してほしいなーって。ユーリー先輩相手はハードルが高そうだけど……。」
「ユーリー先輩は色々すごいけど結局オレ達と変わんない高校生じゃん。ルークくんに求めることはわりと普通だったりするんじゃない?」
「ヘンリーくん良いこと言うね……!」
わかったのかわかっていないのか怪しいが、ルークは「なるほど」と呟いている。
解決策になったようには見えないが、何かしらのヒントは得られたのだろうか。
「先輩は俺のことなんて好きになるわけないって思ってた……んだよな。先輩はそれが嫌だった……みたいで?」
「え、好きって言ってもらったんだよね?」
「てっきり裏があると。」
ブレアがデレてくる時は、大抵何か別の目的がある。
付き合ってくれたということはある程度好かれてはいる……と思っているが、ルークを手元に置いておきたい理由でもあるのかと。
「ユーリー先輩可哀想。」
そうだった時もあるのかもしれないが、だからと言って流石にブレアが気の毒だ。
ルークとの意思疎通にかなり苦労しているだろうに。
「ルークくんの課題は勉強とユーリー先輩の気持ちを頑張って理解することと、ユーリー先輩をもうちょっと信用することだね……。」
「難しそう……?勉強は一緒に頑張ろうね!」
ヘンリーは簡単そうに言うが、ルークにはかなりハードルが高そうだ。
結論がついたところで勉強に戻りたいのに……ルークがじっとヘンリーを見つめてくる。
「え、何の視線?」
なんとも言えない視線に耐え切れなくなったようで、ヘンリーはペンを置いて首を傾げた。
「いや……何かアーロン先輩みたいだなと思って……。」
「そういうとこだよルークくん。――オレが彼女なら今ので別れてる。」
「泣くぞ、アーロン先輩が。」
真顔で言い切ったヘンリーは、どうやら本気で言っているようだ。
アーロンがこの場にいなくてよかった。
お久しぶりです、更新空いていて申し訳ございません
私生活もかなり落ち着いてきたので、また今まで通り更新していきたいと思います




