スコッパーに好まれる序盤の書き方
これは、あくまでスコッパー目線でのお話です。
スコッパーというのは、大量の作品の中から自分の好みに合う作品を発掘する人のこと。
そんなスコッパーと呼ばれる人たちは、自分の好みに合いそうと思えばポイント関係なく作品を読むし、好みに刺さればお気に入り作品として他の人たちにその作品を紹介することもあります。
実は、私もスコッパー活動を楽しんでいる読者の一人です。
読んだ作品は1000作品以上。
このエッセイでは、そんな私から見た作品の序盤についてのお話をしていきますね。
*
作品の序盤はとても重要です。
序盤で「読み進めるには問題がある」と感じると、続きを読む気が失せてしまうからです。
読む気が失せてしまった作品を読み進めたとしても、残念ながらお気に入り作品になることはほぼありません。序盤の印象が悪かった作品は、最終話までその印象が覆ることがほとんどないのです。
私がよく読んでいるのは8万字から20万字(文庫本1~2冊分)の長編完結作品です。
そんなわけで、ここでは長編の序盤についてのお話をすることにしますね。
短編を想定したお話ではないので、そこは注意してください。
長編の序盤は第1話~第15話くらいの部分と考えています。文字数にすると30000字くらいまでの部分になります。
さて、スコッパーに「読み進めるには問題がある」と思われないような序盤にするにはどうしたらいいのか。
そもそも、序盤での問題点は大きくわけて3つあります。
1.文章力に問題がある
2.キャラクターに問題がある
3.ストーリー構成力に問題がある
この3つの問題点を解決できれば、序盤でスコッパーに好印象を与えることができるようになります。
それでは、それぞれの問題点を解決する方法を見ていきましょう。
1.文章力に問題がある場合
まずは、文章を書くための基本的なルールをきちんと守りましょう。
1000作品読んでみた感じ、全体の半分くらいの作品はルールを守れていないと感じました。
文章を書くための基本的なルールって何? という方のために、簡単にまとめておきますね。
・行頭は一字空け。
・セリフが終わる時のカギカッコ後には句点を入れない(入れても間違いではないけれど、国語の教科書や昭和の小説みたいな古臭さが出てしまう)。「!」「?」のあとには一字分の空白を入れる。
・三点リーダー「…」、ダッシュ「―」は偶数単位で使用する。
・「てにをは」(助詞などを含む日本語)を正しく使う。
・音の重なりや、「の」の連続(「今後のアイリスの受賞作品の傾向の変化」というような文章)を避ける。
・文末の重複を避ける(「~だった」「~だった」など、同じ文末表現が続かないように)。
・顔文字、絵文字、環境依存文字などの記号は使わない。(笑)(汗)(爆)とかも使わない(地の文で使うと非常に安っぽい印象を与えてしまう)。
・オノマトペ(「ドッカーン」「にっこり」など)は作品の雰囲気に合わせて。純文学では絶対に使ってはいけないとされています。
原則をあえて破り、正しくない日本語を使うのもテクニックのひとつですが、これは上級者向けなので注意しましょう。
それから、誤字脱字はできるだけ減らしてください。
辞書を引いていないと思われる作品も多いです。間違った言葉を使わなくてすむように、辞書を引くクセをつけておきましょう。
文章ルールをきちんと守れるようになったら、今度は説明文ばかりの序盤になっていないかチェックしてみてください。
主人公の情報を「私は勤勉な公爵令嬢。婚約者の王太子殿下とは仲が悪く……」などと地の文で説明していませんか?
こういうのは文字数がシビアな短編向きです。長編作品で「勤勉」という情報を伝えたいのなら、主人公が仕事や勉強にはげんでいるシーンを書いてください。「婚約者との関係が悪い」という情報を伝えたいのなら、婚約者との会話のやりとりを見せましょう。
説明文よりもキャラの言動を優先して書くようにすれば、長編にふさわしい文章に生まれ変わります。
キャラの言動を優先して情報を伝えられるようになったら、描写を丁寧にしていきましょう。
キャラがどんな仕草をしているか。どんな風景が広がっている場所なのか。作者さまの頭の中にあるイメージと同じ映像を、読者も思い浮かべられるように書いてください。
場面転換をするたびに「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」「なぜ」「どのように」といった5W1Hを意識して書くのもおすすめです。
さらに、描写力を磨くときにチェックしてほしい項目はこちらになります。
・比喩が適切に使われているか。
・気温や天気がわかる描写があるか。
・資料や取材、体験をもとにした描写があるか。ただし、大学生のレポートのように資料の書き写しはしないこと。
・読者に印象付けたい情報(キャラの外見など)は1回だけでなく、何回も繰り返し書いてあるか。
・物語全体の雰囲気に合った文章になっているか(シリアスならあえて漢字を多めにするとか)。
・五感を刺激する描写ができているか。
それと、序盤で視点変更はしない方がおすすめです。
序盤で視点変更を繰り返すと、誰に感情移入していいのかわからなくなります。できるだけ主人公視点で固定しておきましょう。
群像劇は視点が固定されていないことが多く、非常に読みにくいです。筆力が高くないのなら、群像劇はやめておく方が無難です。
2.キャラクターに問題がある場合
とにかく、読者に「友達になりたい」と思ってもらえる主人公キャラにしましょう。
友達になるどころか、嫌悪感を抱いてしまうような主人公キャラが出てきたら、私はその時点で読むのをやめます。
友達になりたいと思える主人公には、「憧れ性」と「共通性」の両方が必要です。
憧れ性というのは、読者が「すごい!」と憧れる面。
ここでいう「憧れ」は、チート能力のことではありません。自分と違う価値観の人の意見も尊重できるとか、友達を絶対に見捨てないとか。そういう「人間として尊敬できるような内面的な魅力」のことです。
共通性というのは、読者が「自分と同じだ!」と思う面。
これは、キャラの持つ短所・弱点のことです。主人公に苦手なことや失敗してしまいがちなことなどがあれば、共感できるし、親しみやすくもなりますよね。
ただし、嫌悪感を覚えるような短所・弱点を持たせるのはダメです。愚痴っぽい、自慢ばかりする、自己中心的、人の不幸をあざ笑う……など、客観的に見て不愉快になるような短所・弱点は持たせないように注意しましょう。
それから、設定よりも主人公キャラを優先できているかどうかを重視してください。
たとえば、「継母にいじめられている」という設定を使うとします。
継母のいじめに耐え、ただイケメンが助けてくれるのを待っているだけ。そんな受け身の主人公になっていませんか?
主人公キャラよりも設定を優先しすぎるとこうなります。これでは、主人公が作者さまの操り人形にしか見えず、キャラの魅力が感じられません。
主人公キャラを優先すると、同じ設定でも主人公の性格によってお話が変わるはずです。武闘派の主人公なら、継母を殴り飛ばすでしょう。拳と拳で継母と理解し合う関係になるかもしれません。頭脳派の主人公なら、継母を手のひらで転がすでしょう。継母を洗脳して善人に変身させるかもしれませんね。
ぜひ、主人公キャラを積極的に動かして、設定に負けないようにしてあげてください。
序盤から主人公が積極的に動いている作品は、続きを読みたくなることが多いです。
あと、登場するキャラの数にも注意しましょう。
読者に名前を覚えてもらいたい重要キャラは5人くらいまでにすること。10万字程度のお話であれば、全体で7人くらいが限界だと思ってください。7人以上になると、読者はひとり覚えたらひとり忘れます。
3.ストーリー構成力に問題がある場合
物語の目的もしくは主人公の目的を、できるだけ早く読者に伝えましょう。
実は私が序盤で読むのを諦めようと思った作品のうち、約7割が「目的がよくわからない」という作品でした。もちろん「目的がよくわからない」という理由ひとつで読むのを諦めたわけではありません。文章が稚拙だったり、キャラに嫌悪感を抱いたり、他にも理由があってのことです。
とはいえ、「目的がよくわからない」というのが大きな理由のひとつであることに違いはありません。
できれば、第3話(8000字程度)までの間に目的を明示しておきましょう。
どんなに遅くても、第8話(20000字程度)までには書くようにしてください。
あと、目的は抽象的なものではなく、具体的なものにしましょう。
たとえば、「異世界転移したので、元の世界に帰りたい」という目的だと抽象的です。主人公が具体的に何をどうしたらその目的を達成できるのか、読者にはさっぱりわからないからです。
でも、「異世界転移したけど、7つの宝玉を集めたら元の世界に帰れるらしい。だから、宝玉を7つ集める」という目的だと、かなり具体的になりますよね。宝玉を集めるたびに、目的達成に近付くのが読者にもよくわかります。
目的が明示されていて、その目的達成に向けて主人公が動いていることがよくわかるお話は、続きを読みたくなります。だって、主人公が目的を達成できるのかどうか気になりますからね。
お話を最後まで読んでもらいたいと思うのなら、序盤で具体的な目的を必ず明示しておきましょう。
それと、第1話の前にプロローグを書くのは、個人的にはあまりおすすめしません。
さっさと「主人公はこんなキャラ!」「こんな世界観!」「目的はこれ!」と伝えてきてくれるお話の方が印象がいいからです。
ただ、物語の構成上、どうしても見どころのあるシーンがすぐに出せないという場合は別。そういう場合は、見せたいシーンをプロローグで見せてくださいね。
*
『まとめ』
スコッパーに好まれる序盤を書くために注意すべきことをまとめてみます。
・文章を書くための基本的なルールをきちんと守る。
・誤字脱字を減らす。辞書を引く。
・説明文よりもキャラの言動を優先して書く。
・描写を丁寧にする。
・序盤で視点変更はしない。
・読者に「友達になりたい」と思ってもらえる主人公にする。
・設定よりも主人公キャラを優先する。
・重要キャラ(名前を覚えてもらうキャラ)は5人まで。
・物語の目的もしくは主人公の目的をできるだけ早く明示する。
・目的は具体的なものにする。
・プロローグは書かない。
注意すべきことが多くて無理、と思う方はこの3点だけでもいいです。
・文章を書くための基本的なルールをきちんと守る。
・読者に「友達になりたい」と思ってもらえる主人公にする。
・物語の目的もしくは主人公の目的をできるだけ早く明示する。
この3点を意識するだけでも、序盤の印象はかなり良くなります。
お話の続きを読んでもらえる可能性も格段に上がるでしょう。
ただ、この注意点を意識しすぎて文章が書けなくなってしまうくらいなら、無視しても問題ありません。小説の質を上げたいなと思ったときに、作者さまの納得するところだけ意識してくだされば充分です。
作者さまが好きなように書く。
それが一番大事です。
以上。
スコッパー目線からの序盤についてのお話でした。
長編の序盤を書くときに、少しでも参考にしてもらえたら嬉しいです。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました!
《参考文献》
榎本 秋 『ライトノベルを書きたい人の本』 成美堂出版 2008年
新井 一樹 『大人になっても「書くこと」を好きでいたい君へ シナリオ・センターが伝える 14歳からの創作ノート』 株式会社KADOKAWA 2024年




