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そのご寵愛、理由が分かりません  作者: 秋月真鳥
二章 ご寵愛されてます
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23.ディアン子爵家の家族の到着

 わたくしとアレクサンテリ陛下の結婚式まで七か月となったころ、年明けのパーティーでディアン子爵家が伯爵家に陞爵することが決定した。

 年明けのパーティーにはわたくしはアレクサンテリ陛下の妃候補として出席することになっていた。


 アレクサンテリ陛下が座る玉座の横にわたくしも腰かけて、ディアン子爵家の陞爵を見届けることになる。

 きっと両親を前にすると胸がいっぱいになってしまうだろうとわたくしは思っていた。


 年明けのパーティー前からディアン子爵家の両親とソフィアは皇宮に招かれていた。

 アレクサンテリ陛下は両親とソフィアを招いて食事をしてくれるようだった。

 皇帝陛下の私的な食事会とはいえ、正装はしておかなければいけない。

 わたくしは淡い青のドレスを着て、食事会の会場にアレクサンテリ陛下と共に向かった。

 先に来ていた両親とソフィアは、背筋を伸ばして立って待っている。

 アレクサンテリ陛下が椅子に座り、わたくしがその横に座り、アレクサンテリ陛下が両親とソフィアに座るように促した。


 皇帝陛下の別荘でも食事は一緒にしていたが、そのときとは緊張感が違う。アレクサンテリ陛下と一緒に食事をするということで、両親もソフィアも緊張している様子だった。


「ディアン家の我が国への貢献、非常に頼もしく思う。これからも続けてほしい」

「お褒めに預かり光栄です、皇帝陛下」

「またレイシーがこの国にもたらしてくれた貢献もまた、ディアン家の功績となる」

「妃殿下、ありがとうございます」


 私的な場とはいえ、父に「妃殿下」と呼ばれるのは少々居心地が悪い。わたくしが助けを求めるようにアレクサンテリ陛下を見ると、アレクサンテリ陛下がにっこりと微笑む。


「形式ばった挨拶はここまでにして、これからは家族として話そう。レイシーの家族はわたしの家族だ。伯爵家になっても、どうか、わたしとレイシーのことをよろしく頼む」

「心得ております」

「この場は無礼講とする。レイシーのことは『妃殿下』と呼ぶ必要はない。普段のように呼んでくれ」


 アレクサンテリ陛下が両親とソフィアに許可をしたので、わたくしはやっと食事が喉を通りそうだった。

 ソフィアが完璧なマナーで肉を切り分けて咀嚼して飲み込んでから、わたくしの方を見た。


「お姉様は健康的になって美しくなられた気がします」

「そうでしょうか? 確かに前は痩せすぎでした。皇宮に来てドレスのサイズが変わったので作り直してもらいました」

「それくらいの方がわたくしも安心します。お姉様はずっとわたくしにばかり食べさせて、自分は我慢なさっていたから」


 それだけソフィアのことがかわいかったのだ。

 ソフィアはわたくしの大事な妹だった。わたくしが二歳でソフィアが生まれたとき、わたくしはソフィアの眠っているベビーベッドを覗き込んで、なんてかわいい赤ちゃんなのだろうと感激したのを朧げに覚えている。

 夢の中で何度も見るセシルは一人娘だったから、わたくしはずっと弟妹が欲しいと思っていた。セシルはガーネくんのことを弟のようにかわいがっていたが、わたくしにとってはソフィアが誰よりもかわいい存在だったのだ。


「ソフィアも元気そうで何よりです」

「わたくし、冬休み前の試験では首席を取りました。これからもお姉様を見習って学園で首席を保てるように頑張りたいと思っています」

「立派です、ソフィア」

「わたくしがディアン家の後継者として誇りを持ってお姉様を皇后陛下として送り出せるように、日々努力していきます」


 学園では学年十位以内の成績は保っていたが、首席ではなかったソフィア。ディアン子爵家の後継者となることが決まって、ソフィアはこれまで以上に努力して、学年で首席を取れるようになったのだ。

 これならば安心してディアン子爵家の後継者を任せられるとわたくしは安心していた。


「ソフィアは学園で首席を取ったのか。それは素晴らしいな」

「ありがとうございます、皇帝陛下。お姉様は全学年で首席を取っていたので、わたくしもお姉様を見習ってこれからは卒業までの全ての試験で首席を取れるようにしたいと思っております」

「レイシーはとても優秀だからね。レイシーの妃教育に当たっている夫人たちからも、レイシーが優秀なことは聞いている」

「学園で学ぶことがわたくしの将来にどれだけ役に立つのか、お姉様が身をもって教えてくださいました。わたくしはお姉様のようになりたいと思っております」


 アレクサンテリ陛下ともソフィアはもう敵対心なく話ができているようだ。わたくしが皇后になると告げた時点で、ソフィアの中でアレクサンテリ陛下の信頼感が上がったような気がする。

 アレクサンテリ陛下は葡萄酒を飲みながら優雅な動作で肉を切り分け、食べていた。

 全員が料理を食べ終わり、デザートが出てくると、ワイングラスも下げられて、ティーカップに紅茶が注がれる。

 今日のデザートはクリームブリュレだった。表面の砂糖をカリカリに焼いたクリームブリュレをわたくしは砂糖の部分を割って、スプーンですくって食べる。


「ディアン子爵家の人形とぬいぐるみは、帝都でも大流行しているね」

「ありがたいことに、注文が殺到しています。領地が広がったら、工場の増設も考えています」

「わたしにはレイシーが人形とぬいぐるみを作ってくれた。ぬいぐるみはわたしの執務室の机の上に飾ってある」

「皇帝陛下もお気に入りのぬいぐるみということで、注文が来すぎて、さばききれないほどです」


 ディアン子爵家の領地の工場では、嬉しい悲鳴を上げているようだ。

 女性だけでなく男性も雇っていて、寮は女性用と男性用が用意されている。

 それでも、これだけ条件のいい職場だと、女性の労働者が多数だと父はアレクサンテリ陛下に報告していた。

 楽しい夕食が終わると、アレクサンテリ陛下はわたくしに促した。


「ディアン家の家族の泊る部屋で過ごしてくるといい。家族の時間も必要だろう?」

「いいのですか、アレクサンテリ陛下?」

「もちろんだよ、レイシー。行っておいで」


 送り出されて、わたくしは家族と共にディアン子爵家が泊まる部屋に向かった。

 部屋は広く、ソファに座ってわたくしたちは寛ぐ。


「お父様、お母様、この度は本当におめでとうございます」

「ディアン子爵家が伯爵位を賜る名誉を得たのは、レイシーのおかげでもある。ありがとう、レイシー」

「レイシーが妃候補としてしっかりと努めているおかげですわ」

「わたくしは大したことはしていません」

「皇帝陛下に意見して、皇帝陛下の執務をやりやすくしたと聞いているよ」

「皇帝陛下だけに権力が集中することがなくなったので、属国も落ち着きを取り戻していると聞いています」


 多分その通りなのだろうが、わたくしはそこまでの深い考えがあって進言したわけではなかった。アレクサンテリ陛下の健康のためと、全ての執務が一人の手にかかっていたらその一人がいなくなれば皇宮が成り立たなくなると思っただけなのだ。


「アレクサンテリ陛下に進言したときにはそこまでは考えていませんでした」

「それでも、結果としてそうなったのだったら、それを受け止めるのも皇后陛下としての器というものだ」

「レイシーは立派なことをしたのですよ」


 両親に褒められてわたくしは照れ臭くなってしまう。

 両親の話をソフィアは真剣なまなざしで聞いていたが、わたくしの手を握って、菫色の瞳でわたくしを見つめる。


「お姉様は本当に幸せなのですね?」

「皇后になるということは、これから様々な困難があると思います。ですが、わたくしはアレクサンテリ陛下を信じてついて行こうと決めました。わたくしは今、とても幸せです」


 心の底から幸せだということを伝えると、ソフィアに抱き締められる。


「我が家が伯爵家になるだなんてことも信じられないけれど、お姉様が皇后陛下になられるなんてことも信じられません。でも、真実なのですね」

「ソフィア……」

「わたくしは未来の伯爵としてお姉様を支えられるように努力します。お姉様は皇宮で苦しいことがあったらいつでも我が家に帰ってきてください」

「ありがとうございます、ソフィア」


 きっと皇后になればディアン家に帰ることはできなくなる。それでも、いつでも帰ってきていいと言ってくれるソフィアの気持ちはとても嬉しかった。


「結婚式の衣装ももう出来上がっているのですよ。見せたいのですが、まだ見せられないので、楽しみにしていてくださいね」

「きっとお姉様が着たドレスをみんなが真似て、結婚式に着たがると思いますわ。お姉様の結婚式の衣装を着せた人形やぬいぐるみもよく売れるでしょう」

「ソフィアは商魂たくましいのですね。わたくしと似ているかも」

「お姉様の妹ですからね」


 貴族たちに囲まれて、人形やぬいぐるみの注文を受けているとき、きっとわたくしは商人の顔をしていた。それはディアン子爵家が元は商家だったから仕方がないのだ。

 ソフィアもまた、商人の顔をしていた。

 ソフィアと顔を見合って、わたくしたちは笑い合った。


読んでいただきありがとうございました。

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