第27話~淵魚人
巷ではゴールデンウィーク。
俺にはありませんよそんなもの。
かったりぃなぁ。
安心安全確実な作戦を実行し、俺は・・・いや、俺達か。・・・そう俺達は、順調に闇魚人を討伐していた。なんてったって、ライトウォールの消えた後のとどめ刺しみたいなものだからな。最初の内は投げ損ねた奴がいたのだが、数回こなした今では全てを投げ入れている。師匠の学習能力は凄いな、流石というべきか。・・・まぁ、こちらから指示をしなければ何も出来ない人なんだが。先程のことを思い浮かべる。
作戦実行から、三回目の今回。二回目も問題なく成功した。後は流れ作業でやっていくかと考え、俺は師匠になんの指示も出さずにいた。三回目だし大丈夫だろうと。・・・羽虫が戻ってきたな。自分の目で羽虫の帰還を確かめてから、ライトウォールを唱える。唱えた直後、背中に羽虫が飛び付いてきた。そしてすぐに、『そぃやぁ~!』と師匠の掛け声が。後は師匠がライトウォールに投げるだけだな。俺はしがみつく羽虫を退かし、いつでも来い!ってな感じで構えた。
・・・・・・・・・闇魚人が飛んで来ない。何故?と思い、後ろにいる師匠に振り返った。そこには、目をグルグルさせたような表情の師匠が、
「・・・えっとえっと、どうするんじゃったか。単純に投げてはダメじゃった筈、こ奴らを何処に纏めて投げるんじゃ?・・・うぅ~、わからんぞぃ!ティルやティルよ、こ奴らをどうすればいいんじゃ~!!」
空中でもがく闇魚人、地上でテンパる師匠。えぇ~・・・、この程度でテンパるの?さっきと同じように、ライトウォールに投げ込めばいいのに・・・。そう思いながらも師匠に指示を出し、今回も無事?に作戦終了。
「ちゃんと指示をくれぬと、わけがわからなくなるわぃ!次は指示をおくれよティル!」
なんだかプンスコ怒っている。いやだって・・・ねぇ?普通、わかると思うだろ?三回目なんだし。・・・・・・だがまぁ、今回が初めての冒険で戦闘なんだし仕方ないのか?場数踏んでも変わらなそうではあるが。魔法の制御が難しいのだろうか?でも、涼しい顔でやっているしな。うーむ・・・。
とりあえず様子を見ていたが、指示がないとダメなのがわかった。指示さえすれば、良い仕事をしてくれるから良しとしよう。さて、俺達が討伐した闇魚人の数は二六匹。羽虫の言葉を信じるならば、残りは四匹となる。今までの調子を考えると、次で討伐終了となる。安心安全確実だが、最後まで気を抜かずにいきますか。現に気の抜けている二人がいるし。危ないからすぐに隠れろと注意したのに、全然隠れやしない。己らは子供か、せめて俺だけでも気を抜かずにな。さぁ、ラストバトルだ。
『ギャアアアアアッ!!』
最後の一匹に止めを刺し、ラストバトルがあっという間に終了。今ので討伐三〇匹目。最初の戦いは割りと楽しめたが、作戦立案・実行から流れ作業であまり楽しめなかった。不安要素の二人を抱えた身としては、それでよかったのかもしれないが。予定では、クエスト達成クリア!のハズ。
「今ので三〇匹目だ。・・・羽虫、これでクエストクリア・・・になるんだよな?」
「モチのロンでございますよお兄さん!本当に本当にありがとうございます!お兄さんのお陰で湖の管理人たる私のメンツは守られたわけでして感謝しても感謝しきれません!これはもうあれですねこの私自身を報酬にしてお兄さんにネットリご奉仕をしなければいけないかと愚考しますお兄さんよろしくお願いします!!」
「正直いらねぇ・・・・・・が、師匠。羽虫を売るならいくらになるだろうか?」
「中身はアレじゃが、見た目は上玉。・・・うーむそうじゃな、10万からオークションを始めれば、なかなかの値段になると・・・。」
「・・・ぴぃ!ヒドイ、ヒド過ぎますよお二方!せめて50万から始めてください!!」
なんてじゃれ合う俺達。なんだかんだで仲良くなったものだな。何はともあれクエストクリア、三人無事に迎えることが出来てよかったよかった。
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約一時間、俺は湖で戯れる二人を眺めていた。・・・クエストクリアのハズなのに、クリア報告のウインドウが出てこない。出てこないということは、クエストクリアに至っていないと。遅れているのかな?と思っていたが、これはあれだクリアしてないってわけだ。一時間経って、やっとその考えに至った。羽虫め、自分で擦り付けた癖にわかってないとは。何がクエストクリアだ、まだ何かあるんじゃないか!
・・・にしても何があるんだ?今回のクエストは討伐、侵略魔物を退治するものだ。羽虫曰く、約三〇匹の闇魚人討伐。・・・約だもんなぁ。・・・・・・あれ?クエスト受ける前に、俺は九匹の闇魚人を狩った。それを除外して、約三〇匹はいると羽虫は言った。俺が討伐した闇魚人は計三九匹、中途半端なわけだ。そしてこの闇魚人、邪神の尖兵と言われている。簡単に言うと、悪い奴に仕える兵士ってことになるよな。・・・で兵士には率いる隊長格、リーダーが必要になるわけで。
・・・・・・・・・記念すべき四〇匹目に、ボスがいるんじゃね?と考える。だとしたら、クリアにならないのも頷ける。そして、普通だったら経緯はどうあれ部下が殺られたんだ。リーダーだったら怒るよな、そろそろ部下がいなくなったことに気付いてもいいハズ。俺の妄想ですめばいいが、嫌な感じがするな。
「なんじゃいあれは!?」
「ぴぃ!なんか凄い水しぶきが・・・!こっちに何かが近付いて来てますお兄さんお兄さんは何処に!?」
流石は俺、イベント打率がいいじゃないか。騒ぐ二人に近付き、
「師匠、羽虫。・・・二人は一応ルームへ避難を。」
そう指示をすると、師匠は羽虫を連れてルームへ。それを確認して、視線を湖へ。正確には水しぶきを上げる何かに向ける。背ビレのようなものが見えるな、・・・やはり闇魚人のボスか?ちょいとドキドキするが、妙に気持ちが高まり興奮する。そして湖から巨大な魔物が姿を現した。黒光りした鱗、鋭い牙と爪、赤く光る双眸、逞しい体躯。闇魚人を大きく、そして禍々しくしたような姿だった。
「こりゃあ強そうだな、だが楽しめそうだ。」
俺は物作りが好きだが、戦い自体は大好きだ。自らの手で製作した武器・防具の力を、自らの手で確かめることが出来る。今のスタイルは最高に俺好みな俺だ。これこそが俺流冒険者のあり方、自給自足こそが至高の生き方。・・・あ、こんな考えだから〈俺流〉なのか。なるほどなー。・・・む、殺気!俺は咄嗟に横へ飛び退く。
ズガァァァァァン!!
自分のいた場所には、デカブツの爪が突き刺さっていた。地面に刺さりつつ、クレーターのようになっている。凄まじいばかりの威力だ。つーか俺はバカか?ボス級を目の前にして、自分語りだなんて。今思うと恥ずかしいわ・・・っと、イカンイカン。また考え込むところだった、ややくだらないよりで。気持ちを入れ替えて、デカブツを見る。
【淵魚人】LV42
シアル西の湖に最近住み着いた闇魚人のボス。性格は凶暴で手下である闇魚人を率いて、全てを破壊し尽くす勢いで暴れる。キレると闇の魔力を身に纏い、凶暴さが増す。邪神の尖兵を率いていると考えられている。
淵魚人、・・・淵魚人ね。邪神軍小隊長の一匹ってわけか。邪神って奴が暗躍、それか復活でもしようとしているのかね。封印されているかどうか、知らんけど。まぁどうでもいい、ただ目の前のデカブツを倒すだけ。倒さにゃクリアにならないし、報酬が貰えない。因みに羽虫はいらない、黙って管理人の仕事をしろ!と言いたい。さて、どれほどのものかなっと!俺は地面を蹴って、ウルフクローをデカブツに叩き込む。・・・が俺の一撃は、黒光りした鱗に阻まれる。刺さりもしないんかい!すぐさま体勢を立て直し、そのまま奴の体を蹴って離脱する。離脱ついでに投擲ナイフを投げ付けるが、やっぱり弾かれる。
地面に着地し、再び攻勢に出ようと振り返る。おぉ・・・!目の前に爪が!!紙一重で屈んで避けるが、追撃でもう一撃が。横に転がりそれを避けるが、またもや追撃で今度は踏みつけっぽい。転がった勢いで今度は横に飛び退く。そのまま転がって起き上がり、ライトショットを放つ。・・・が、ちょっと汚れただけのように見える。要するに効いてないというわけだ。ならばライトアローで!・・・光の矢は鱗に当たり、弾けて消えた。そうですか効きませんか、次!とりあえずはライトウォール、これで多少は奴に動きを制限・・・・・・出来ないみたいだな、うん。普通にライトウォールを突き破ってきた。この・・・ライトランスならばいけるだろ!・・・・・・ちょっと鱗に傷が付いた程度、ほぼ無傷ってことだ。打つ手なしじゃないか、どうすんだよ。しかもあれじゃん、補助がかかってないじゃん。
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お兄さんのお師匠さんとルームに避難した私。ルームとは空間魔法で、亜空間に姿を隠すことが出来るんだって。亜空間に連れてくることの出来る人数は、術者の魔力に比例するって言ってました。お師匠さんの場合はとりあえず、6人は大丈夫とのことらしいですね。空間維持には割りとMPを消費するみたいですが、お師匠さんは涼しい顔です。人数によってはMPの消費が激しくなるそうですけど、『羽虫の一匹や二匹などいないのと同じじゃい!お主程度でわしに負荷などある筈がない!それにお気にの装備で余裕じゃ余裕!』と、ケロケロと笑うお師匠さんが妬ましい!私には胸を張って自慢出来るものなんかないですからね、あえて言うならこの美貌と泳ぎが達者なことぐらいです。今回お兄さんに依頼した件で少しだけお役に立てたことにはよくやったと自分を褒めたい気分です。
・・・・・・ムムッ!何やらピキーンときましたよ。お兄さんのオーラにピンチという気配がビンビンに含まれています!この私には、気に入った人のオーラを感じることが出来る力があるのです。なんでこんな力があるのかはわかりません、調べようとも知ろうとも思いません。ラッキー♪程度にしか感じませんよ私、まぁそんなことはどうでもいいでしょうお兄さんがピンチなのです!お師匠さんにそう進言する私。するとお師匠さんは、
「そういえば、オールブースターをかけ直しておらなんだ!かけ直してやりたいものじゃが、ヤバイ魔物じゃろ?・・・おっかないのぉ、下手なことをしたら食べられてしまいそうじゃわぃ。わしってほら、ショボい奴じゃし・・・。」
私よりも高スペックの癖にショボいってキィィィィィィッ!!悔しいです!っていうかさっき顔出して様子見してたじゃないですかこの人!私に見せてくれなかった癖にぃ!私もビビりですがこの人は私以上のビビりキャラですね!
「ショボくてもいいですからお兄さんにそのオールなんちゃらをかけてください!パッと顔出してサッと魔法かけてパッと戻るだけの簡単なお仕事でしょうが!お兄さんが殺されてしまいますよまぁお兄さんは客人冒険者なんで本当に死ぬわけではありませんが一時的に離脱して消えちゃいますよ!お師匠さんは置いてけぼりです帰れません一人ぼっちになります私はここに住んでいるで大丈夫・・・ではありませんね!お兄さんが勝ってくれないと自ずと私もピンチじゃないですか!?イッツアピィ~ンチ!ほらほらお師匠さん自分のために私のためにお兄さんのために勇気を出すのです!」
「それは一大事じゃ!?ティルがおらなんだら帰れぬわぃ、こんなところに羽虫と二人きりだなんて堪えられぬ!えぇ~い、こなくそじゃあ~!!」
焦ったお師匠さんはルームから上半身を出し、お兄さんにオールなんちゃらをかけたみたいですね。これでひとまずは安心でしょうかね?それはともかく私と二人きりがイヤだなんて失礼なチビですね!これはお話し合いをして私がいかに癒し系かわからせる必要がありそうです。まぁあれです、お兄さん頑張ってください。私には応援することしか出来ませんけど、無事を祈るしか出来ませんけど勝利を信じてますよ。・・・それではお話し合いを始めましょうか!お師匠さんも戻ったみたいですしね。
――――――――――――
なんとか淵魚人の攻撃を捌いてはいたが、正直厳しいといった状況であった。コイツは今まで戦ってきた魔物の中でダントツの強さだ。当たり前なんだけど。反撃しても効かないし、下手したら逆に反撃されるし。どうしようか?って思っていたら、何やら体から力が溢れてくるような気がした。これは・・・オールブースターか?師匠の奴、危ないのに補助をかけてくれたのか。・・・感謝しなくちゃな、これで少しは善戦出来るかも知れないからな。仕切り直して、第二ラウンドだ淵魚人!
「ふんがっ!!」
歯を食いしばり、淵魚人に蹴りを入れる。先程と違い、確実に少しずつでもダメージを与えることが出来ている。現に奴の顔が歪んでいるし、補助魔法の偉大さが身に染みる。まぁ俺にも奴に一撃を与える度に、反動が響いてキツいんですけどね。それでも攻撃を止めるわけにはいかない、攻撃が最大の防御とも言うしな。攻撃を避けては蹴り、攻撃を受け流しては殴り、魔法を・・・ってコイツも魔法を使うんかい!・・・・・・ギャアアアアアッ!!
コイツ・・・魔法の方が得意なんかい。一番効いた・・・、どの攻撃よりも一番な・・・。奴は口から闇の球体?を飛ばしてきやがった。そう、あえて言うならダークボールってところか。俺の鳩尾にクリーンヒット、吹っ飛ばされ咳き込んでしまった。それでもすぐさま起き上がり、追撃を警戒したが奴も小休止っぽい。・・・ゼェ・・・ゼェ、オールブースターをかけてもらってなかったら、瀕死に陥ってたかもな。ボックスからポーションを取り出し、一気に飲み干す。俺が作れる最高品質のポーションだ。
〔ミドルポーション+5〕HPが150回復する薬。【製作者:ティル】
いつ作ったのかって?師匠の店で作ったんだよ、師匠のアドバイスを聞きながらな。〔生産加速〕のお陰でそこそこ大量に作ったのだが、品質はバラバラだった。んでミドルの+5は三つしか作れなかった。今、一つ使ったから残り二つ。なるべく魔法を食らわないように注意せねば。それに多く使えない、なんでも薬酔いというものがあるらしい。なったことがないからなんとも言えないが、気分でも悪くなるのだろうか?ま、戦闘中に気分が悪くなったら最悪だからな。ボス級相手では尚更だ。気を付けるってことで、もういっちょいくぞコラ!俺は自分を奮い立たせ、再び突撃を敢行した。
地を蹴り淵魚人に飛び膝蹴りを繰り出すが、受け止められてしまった。そのまま投げ飛ばされるが、受け身を取ってすぐに反撃。隙の少ないライトショットを数発撃ち込み、奴に向かって駆け出しクローで攻撃する。浅く切り裂くことが出来たのは、やはり補助のお陰だ。その前は普通に弾かれたからね。そのまま連続で腕を振るう、切り裂いた箇所を執拗に。攻撃しながら思う、割りとリアルだよなぁーと。めちゃくちゃリアルとは言えないけど、傷は出来るし、血は出るし、痛いしさ。まぁゾンビゲームとか色々あるけど、それよりはリアルに感じない。だけどいずれはゾンビと遭遇するんだろうなぁ、実物で見たらスゲー恐いんだろうね。・・・またどうでもいいような、今考えなくてもいいじゃんってことを考える俺。当然、
『グルァァァッ!!』
「・・・っうぐぁ!」
反撃を食らいますね、強烈なヤツを。頭を抑えながら、地面を転がる。砂煙を上げながら転がり、なんとか止まることが出来た。徐にポーションを飲む、言ってるそばから二本目だ。俺はアホだな、なんでしょうもないことを戦闘中に考えるのだろう。大ダメージを与えるチャンスを、自らの失態で潰してしまった。儘ならないものだな、・・・自分が。しかし、先程の連続攻撃で中ダメージぐらいはいったんじゃないか?そう思って淵魚人を見る。ぎょっ!!何やら淵魚人のダンナが怒っていますぜ?体から黒い波動?魔力?わからんけど、噴き出しながら纏っているように見える。・・・ヤバくね?
淵魚人は口に魔力を溜める。嫌な予感がする、身構える俺に向かってあの球体を飛ばしてくる。俺は咄嗟に避けようとするが、球体が破裂し無数の弾丸が飛び散る。こんなん避けられるかよ、飛び退きながら防御を固める。多く被弾したが球体そのものを食らうよりは、ダメージが少なくて助かった。だが、連続で食らうのは避けたい。付かず離れずの間合いでいれば、あれが来ることがないのでは?と思い、奴に向かって走り出す。淵魚人もこちらに向かってくる、速い・・・!スピードの上がった奴は、勢いを殺さずに爪を振り下ろす。これは・・・!俺は無理に体を捻り、緊急回避をする。奴の動きから離れぬように視線を向けると、俺のいた場所には大きな傷跡が。ヤバイ・・・ヤバすぎる威力だ。こんなのまともに入ったら、一撃死じゃないか!オールブースターで上がったDEFすらも突き破って、死戻ることになるんじゃないか!?・・・んぐ!もう気を抜くことが出来ない状況だ。考え事などもっての外だ。・・・どう戦えばいいんだ、ヒット&アウェイでいくしかないよな。・・・・・・不安だ。
ウルフクローで淵魚人に襲い掛かるが、纏いでパワーアップしているのか爪で受け止められる。そのまま逆の爪で俺を薙ごうとするが、ライトショットでその爪を弾く。すぐさま蹴りを放ちつつ、奴の体を利用して距離を取る。着地して投擲ナイフを投げまくる。久々の弾幕だ、これで少しは怯む・・・怯まない!そりゃそうだ、刺さらずに鱗を削る程度だもんな。お構いなしに突っ込んでくる、俺は奴に向かって走りスライディングで背後に回る。奴もすぐに反応し振り返るが、俺は至近距離でライトランスをぶっ放す。衝撃で吹っ飛ばされるが、奴にもダメージを与えることが出来ただろう。
呆けている暇はない、行動を続けなければ殺られる。案の定、奴はダメージを気にした様子はなく迫ってくる。薙ぎ払い、振り下ろし、突き、踏みつけ、跳躍からの叩き付け。怒涛の連続攻撃を形振り構わず避けまくる。・・・掠りまくってダメージ蓄積、ウルフシリーズがボロボロですけど。ゲームだからいいけど、リアルだったらトラウマになりそうな戦いだな。いや、リアルに近いんだけども体感が・・・さ!突きを横回転で避け、その回転を利用してクローを薙ぐ。がやはり浅い、クソ!纏ってから鱗が更に硬くなってやがるな!投擲ナイフも削る程度だったし、今のは会心の一撃だったのに通常攻撃と変わらない威力。・・・っと俺はその場をすぐに離脱、そして奴の一撃が地を穿つ。危なかったな全く・・・!
これ、一人じゃ無理じゃね!?でも、やるしかないんだよな!地を穿ったまま体勢の戻っていない奴に、再び渾身の一撃を繰り出す。今の俺が放てる最強の一撃、槍を取り出して蹴り放つ。オールブースターで上がっている分、上乗せさせた一撃だ。効いてくれよ・・・!俺の願いを乗せた一撃は、奴の右目に運良く突き刺さる。
『ギャアアアアアッ!!!』
淵魚人の悲鳴が響き渡る。・・・刺さりが甘かったか、大ダメージを与えたもののまだ生きてる。そのまま頭を突き破ってくれたらよかったのに!だがもがいている今がチャンスだ、その槍を蹴り止めを刺してやる。俺は駆け出し跳躍する。突き刺さっている槍を目掛けて、
「うぉらぁぁぁぁぁっ!!」
気合いを込めた蹴りを入れる。これで終わりだ!
俺の一撃で槍は更に刺さることはなく、現状を維持していた。俺は驚愕の表情を浮かべる。ウソだろ!?何故貫かないんだよ!・・・・・・おや?何やら体から何かが抜けていくような・・・。ま、まさか・・・オールブースターが切れましたってか!?最後の最後でこんなことが起きるなんて、ツイてねーな!・・・・・・ゲッ!!俺は足を掴まれ、
「・・・んごっ!!?」
投げ飛ばされて、地面に叩き付けられた。・・・んがぁぁぁぁっ!いってぇぇぇぇっ!!タンスに小指をぶつけた時の痛みが全身に!マジの痛みだったら失神するほどなんだろうが、これも地味に痛い!んぎぎぎぎぎ・・・。震える手で最後のポーションを飲む。まだあるけども最後にしとく、薬酔いになりたくないし。二日酔いみたいだったらイヤじゃん、俺的に死戻りよりイヤだ。そんなことよりもだ、どうしようか。もはや打つ手なしだ。今、師匠に出てこられたら困る。この状況じゃ守ることが出来ない。補助のために一部分が出てきても、すぐに引っ込んでもらわねば。・・・なんとか立ち上がり、淵魚人を睨む。淵魚人の方はまだ、苦しんでいる。そりゃそうだ、槍が刺さっているんだもんな。今がチャンスだ、たぶん最後の。今だけは感じるな、考えろ!勝利の方法を。むむむ・・・・・・。
ボックスの中身を確認していると、アレがあった。・・・なんであんの?コレ。あの時処分したと思ったんだがな。いやその前にコレって、持ち運び不可じゃなかったっけ?うーむ、わからん。とりあえず確認を・・・。うげ!ヤバイなコレ!とんでもないことになっている。一週間近く経っているからなぁ、必然か?・・・しかしコレ、使えるんじゃないか?上手くいくかはわからんが、このままじゃ殺られることは確実。ならば、やってみる価値はあるんじゃなかろうか。・・・・・・うん、やろう。ここまで踏ん張ったからな、最後まで抗ってやる。俺が死戻ったら、師匠と羽虫はどうなる?そう考えると、俄然やる気になる。淵魚人よ、俺とお前の最後の一戦だ。往生してくれや!
全てを賭けて戦う時がきた。・・・最初から賭けているけど。お互いに満身創痍、能力面においては淵魚人有利の状態。片目を潰されているが、体力面でも淵魚人が有利だろう。所詮は人間族の冒険者、そしてボス級の魔物。・・・比べるまでもなく大きな差がある。しかもこちらは補助が切れた身、一撃で散ることはほぼ確実である。まぁ淵魚人も痛みに苦しんでいる、有利ではあっても痛いものは痛い。だからこそ、今しかないのだ。何かしらで痛みが弱まる前に、決めなければ待っているのは敗北。
俺は緩やかに、そして徐々に速く、淵魚人に向かって走り出す。気を緩めたら倒れてしまいそうになる、そこを食いしばって走る。淵魚人を見据えて・・・。奴もこちらに気付く。槍の刺さった右目を抑えながら、怒りのこもった左目で睨んでくる。正直恐いが止まるわけにはいかない。苦しみながらも、奴の口に魔力が溜まっていくのがわかる。アレを放たれたら終わりだ、放たれる前に・・・コレを!!俺は全力で地を蹴り、奴の顔目掛けて跳ぶ。そしてボックスから取り出したコレを、奴の口に・・・魔力の溜まる口に投げ込む。その直後、口に溜まっていた魔力が散る。その衝撃に俺は吹き飛ばされる。吹き飛ばされた俺は、地面に這いつくばりながらも奴を見る。
『・・・!!・・・・・・・・・!!?』
声にならない叫びが聞こえる、・・・気がする。俺はよろよろと起き上がる。そして・・・、
ズガァァァァァン!!
と軽い地響きを立てて、淵魚人は倒れた。体に纏っていたものは次第に消えていき、微動だにしない。死んだようだな・・・、なんとかなったか。俺は勝てたことに安堵する。・・・・・・何をしたのかって?俺はただ、奴の口にある物を投げ込んだのさ。そのある物とは、
〔深き森の誘い~死を添えて~〕ある料理を長時間放置したことにより、独特の発酵を経て永遠の眠りへと誘う料理へと変貌を遂げた。因みに食べ掛けである。(効果・満腹度:小・即死)
という名の料理をね。ガドルフと色々やっていた時の猛毒料理なんだが、ボックスの中にあってこんな物に変わっていた。・・・腐っていたわけだ。猛毒料理が腐った結果、即死料理になったのだ。恐ろしいことにな。・・・そもそも料理は持ち運び不可のハズなのだが、何故にボックス内にあったのか?あの時、食材と一緒に仕舞い込んだのだろうか?・・・まぁ結果が全てだ、そのことは後で調べればいい。俺はよろめきながらも、死んだ淵魚人に剥ぎ取りナイフを刺す。何があるかわからない、剥ぎ取り忘れは避けたいからな。
淵魚人から素材を回収した直後、ルームから師匠と羽虫が飛び出してきた。元気のいいことだ。・・・ルームから様子を窺っていたのか?戦闘中に出てこなくてよかった、顔でも出そうものなら巻き込まれるからな。上手い具合に窺っていたのだろう。
「すっごいのぉ~ティル!あんな凄い奴に勝てるなんて!わしはティルが死ぬんじゃないかとハラハラしたわぃ!」
「流石はお兄さんですね!私の目は間違いなかったわけですありがとうありがとうございます!」
テンションアゲアゲの二人、喧しいが喜んでいるならいいか。小躍りしている二人を見ていると、俺は勝利したのだと実感する。・・・俺はやり遂げたんだな。
「これでクエストクリア・・・だな。くはははは・・・・・・!」
俺は片手を掲げて勝利宣言をする。そして・・・そのまま倒れて意識を失った。
「わぁーティル!大丈夫かえ!」
「お兄さぁぁぁぁん!白目です白目を剥いてます!・・・ぴぃ!魔人にしか見えません!!」
とりあえず二人は、ティルをルームに引き摺り込んだ。
現在のティルのHPは1。
因みに何故、ティルのボックスに料理があったのか?それはティルの持つ称号のお陰である。
〔無法の料理人〕料理を相手に無理矢理食べさせることが出来る。料理の持ち運びが可能となる。
淵魚人に料理を食べさせたのも、称号効果によるもの。ぶっちゃけ、早めにボックスを確認し、称号効果を確かめていれば余裕で勝てた可能性があることをティルは後に気付く。そしてそれを機に、称号はマメに確認しようと思ったという。・・・まぁ確認しないと思うけど。現在○○の料理人という称号持ちは三人。そして料理の持ち運び可ということを、ティルがガドルフに告げてお祭り騒ぎになることは必然であろう。しかしながら、料理をただ作れば手に入る称号ではない。この先何人の料理人持ちが誕生するのか、見物である。
なんだこの戦い。劇物勝利なわけです。
次話は、活動報告にて皆さんから頂いた案を少し変えて、使用させて頂きたいと思います。どなたの案を使うかは秘密です。これを機に、少しずつ使用していきたいと思います。
近々ティルに従魔を入手させ、魔物の相棒でも作ろうかと。どんな魔物がいいかなぁ。
では、私は仕事に。
・・・・・・デュワッ!!




