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85 集合

 そのまま外の状況がわからないまま、2時間近く経つ。

 私は自分の部屋にこもりながら、落ち着かない気分で枕を抱きしめていた。


 せめてスマホがあれば。

 そう思いながら窓から外を窺ってみても、玄関は死角になっていて、恭太さんの姿も雨音さんの姿も見えない。

 そもそも、まだ家の近くに二人がいるとは思えないほど、時間が経ちすぎている。



「……はぁ~」



 深くため息をつき、ベッドにごろんと倒れこむ。

 いっそ家の電話から、父や病院へ連絡を入れてみようか。

 そんなことを考えつつも、余計なことをするもんじゃないと自分を制する。


 そうしてしばらくゴロゴロと転がっていると、控えめなノックの音が響いた。



「かすみ?入ってもいいか?」



 父の声だ。

 私はぱっと起き上がり、自らドアを開けた。

 父は少し驚いた顔をしたが、私を見てふっと目を細めた。



「なかなか仕事を抜けられなくてな。遅くなって悪かった」


「ううん。それで、恭太さんと雨音さんは?」


「これから外で話してくるつもりだ」


「私も行きたい!」


「……本当は、置いていきたいんだけどな」



 そういって、父が苦笑する。

 手早く準備をするよう私に言い含め、父は扉を閉めた。

 私は勢いよく部屋着を脱ぎ捨て、クローゼットの中から手ごろな服を取り出す。

 Tシャツとジーンズというシンプルで動きやすい服装を選んだのは、前回制服姿で森をさまよったことへのトラウマによるものかもしれない。

 ジーパンのベルトループには、父からもらったGPS付きのキーホルダーをしっかりと装着した。


 父が母にどう話をしたのかは知らないが、母は普段の調子で快く送り出してくれた。

 玄関先には誰の姿もなく、私は首を傾げる。



「先に移動してもらっている」



 私の浮かべた疑問を察した父が、答えをくれた。

 それもそうかと納得して、私は父の隣に並んで足を進める。


 見慣れた道を進んでいくうちに、目的地がなんとなくわかってしまった。

 確証のないままたどり着いたのは、やはり在原大学病院。

 受付に声をかけ、いつもの会議室だった。


 なかには恭太さんと雨音さんだけでなく、凪さんに小春さん、森川先生、そして悠哉さんまでそろっていた。

 驚いて入口で固まっていると、いち早く小春さんが駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きしめられた。



「こ、小春さん……?」



 いつもよく口が回る小春さんは、私の肩口に顔をうずめたまま無言だった。

 黙って抱きしめられている状況が理解できず、視線をうろうろと彷徨わせる。


 小春さんの肩が少し震えている気がして、私はその細い背中にそっと手を回した。



「ずいぶん大変だったみたいだねぇ」



 呑気な声をあげたのは、悠哉さんだった。

 その言葉に反応するように、小春さんが顔をあげる。



「大変だった、なんてものじゃないでしょう?!こんっなに怪我して!」


「そうだねぇ」


「まあまあ、ちょっと落ち着いて。とりあえず座らせてあげよう」



 怒ったような声を上げる小春さんに、穏やかな口調の悠哉さん。

 先生が宥めるように間に入り、小春さんはようやく私を開放してくれた。

 うっすら目尻に浮かんだ涙をみて、どうしようもなく嬉しくなってしまったのは内緒だ。

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