80 おやすみ
「……はぁ~~……」
洗いざらいすべて吐き出した私に返ってきたのは、深い深いため息。
のどかは頭を抱えたまましばらくうつむいていたが、がばっと急に体を起こした。
「っていうか、普通に犯罪だから!!神様ってまじで意味わかんないし」
「だよねぇ」
「だよねぇ……って吞気か!」
「なんかすごい疲れちゃって……。めちゃくちゃ眠い……」
「……それはそう」
なんとか話はできたものの、頭がふわふわしてどうしようもない。
お風呂の温かさとベッドの絶妙な弾力が、私を眠りへといざなっている。
車の中でずいぶん寝たはずなのにまだ眠れるのかと、自分のことながら苦笑いする。
「はみがきしてくる」
半分寝ているような声でのどかに言って、私は最後の力を振り絞って立ち上がる。
よたよたとした足取りに不安を覚えたのか、のどかが手を取って誘導してくれるのがありがたい。
洗面所でふたり並んで歯を磨く。
口をゆすいですっきりしたところで、不意に背後から視線を感じて振り返った。
「……お父さん?」
不安げに瞳を揺らしてこちらを見ている父に問いかけると、父はほっとしたように息を吐いた。
「具合の悪いところはないか?」
「だいじょうぶ」
「怪我の手当ては?」
「のどかが……」
「そうか、ありがとう」
「……別に」
笑いかける父に、のどかはそっけない反応を返す。
普段はもっと愛想がいいのに、と思いつつも、のどかも複雑な心境なのだろうとスルーした。
「話したのか?」
簡潔に問われて、こくりと頷く。
責められるかと思ったが、父は「そうか」と答えただけだった。
「今日はゆっくり休みなさい。何かあればすぐに呼ぶように」
「わかった。……おやすみなさい」
「……おやすみなさい」
私に続くように、拗ねた声でのどかが言った。
父はふっと微笑んで「おやすみ」と柔らかい声で答えた。
帰りものどかに手を引かれながら、自室へ戻った。
のどかも自分の部屋へ戻るのだと思っていたが、なぜかいっしょのベッドに入り込んでくる。
シングルベッドにふたりで寝るのは、正直狭い。
文句を言って出て行ってもらおうとおもったが、視線を向けたのどかは、怒っているような、それでいて泣き出しそうな顔をしていた。
私の服の裾をぎゅっと掴んでいるその手を振り払うのは忍びなく、私は「いっしょに寝るの?」と訊ねた。
のどかが頷いたのを確認して、眉間に寄せられた皺を伸ばすように撫でる。
のどかは心地よさそうに私の指先を受け入れ、目を伏せた。
かわいいかわいい、私の妹。
昔はこうして、よくいっしょに眠ったっけ。
そんなことを考えながら、私も瞼を下した。
祖父母たちが、このまま素直に諦めてくれるとは思えない。
そう考えると、どうしようもなく不安になる。
それでも、のどかの温かな体温が不安を和らげてくれるようだった。
人の心の機微に敏感な優しい妹に感謝しながら、私は意識を手放した。




