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69 再会

 長い一日が幕を下ろし、新しい朝が歩み寄ってきたころ、小屋の扉をノックする音で私は目を覚ました。

 いつの間に眠っていたのだろう。

 私にもたれかかるように、雪成もまた寝息を立てている。


 雨音さんが物音を立てないよう、ゆっくりと扉に近づく。

 小屋の扉にはのぞき穴がないから、扉越しではその先にいる相手が誰だかわからない。



「俺だ。開けてくれ」



 押し殺したような声で、来訪者が告げる。

 雨音さんは眉間にしわを寄せ、静かに扉を開いてその人を招きいれた。



「……お父さんっ!」



 くたびれたスーツ姿の父は、私に駆け寄って抱きしめてくれた。

 着の身着のままですぐに探しに来てくれたのだと知り、涙が出てきた。

 雪成もようやく目が覚めたのか、父の姿を見てほっとした顔をしている。



「二人とも無事か?怪我はないか?」


「大丈夫」


「俺も、大丈夫っす」


「よかった……。本当によかった……」



 父の声は震えていた。

 肩口に雫が落ちるのを感じて、父も泣いているのだとわかった。



「泣き虫」



 呆れたように、雨音さんが言った。

 父はぱっと顔を上げて、乱暴に目元をぬぐう。



「娘が世話になった」


「……ああ」


「迷惑をかけてすまなかった」


「別に」



 やけにそっけない態度だ。

 父はともかく、雨音さんは父に会ったら文句や恨み言なんかをぶつけると思っていたのに。



「さぁ、帰ろう」



 父が私の手を引く。

 今すぐにでもこの場を立ち去ろうとする父に、雨音さんの瞳が軽く揺れる。



「お、お父さん……」



 いたたまれなくなって、思わず声を上げた。

 しかし父は「どうした?」ときょとんとしている。



「久しぶりの再会なんでしょ?何か言うこととかないの?」


「へ?あ、あぁ……積もる話もあるが、今はお前たちを安全な場所まで避難させるのが最優先事項だろう。ここは集落のすぐ近くだし、リスクが高すぎる」


「で、でも……」


「じゃあ、世話になったな。この礼はまた改めて」



 口早に言う父は、一度も雨音さんを見ようともしない。

 雨音さんはそんな父のことを、傷ついたような、泣き出しそうな顔で黙って見つめていた。


 父に肩を抱かれ、小屋の出口へと連れていかれる。

 このままじゃいけないとわかっているのに、早く逃げなくちゃいけないのも事実だ。

 どうするのが正解かわからず、私はただ父と雨音さんを交互に見ることしかできずにいた。



「……っ!」



 私と同じように父に肩を押されていた雪成が、決意を決めたように振り返り、小屋の中に駆け戻る。

 引き留めようとした父の手が空を切り、雪成はそのまま勢いよく雨音さんの腕をがしっと掴んだ。

 雨音さんはびっくりした顔をしていたが、強く腕を引かれてぐっと踏みとどまる。



「ちょ、急に何だよ」


「いっしょに行こう!」


「は?!」


「ずっと待ってたのに、こんな一方的なのダメだろ!急いで逃げなきゃいけないなら、あんたが来るのが手っ取り早い」


「ちょっと雪成くん!それはさすがに……」


「おじさんは黙ってて!!」



 雪成が怒鳴って、父が押し黙る。

 雪成は雨音さんの肩をがしっと掴んで、顔をぐっと近づけた。



「……あんたの気持ち、俺はわかる気がする。意味もわからないまま距離を取られてそのままなんて、納得できない」


「いや、だからって……」


「あんたはおじさんに会いたくて、ずっとここで待ってたんだろ?!次の機会なんて、本当にあるかどうかもわからないのに、こんなの許すなよ!嫌がられても逃がさず、無理やりついていけよ!!」



 真に迫るような声で叫ぶ雪成に、雨音さんはぐっと唇を噛んだ。

 よほど強く噛んでいるのか、うっすらと血が滲んでいる。

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