63 小屋
しばらく歩いていくと、川から少し離れたところに小さな小屋があることに気付いた。
位置関係からすると、集落の関係者のものである可能性が高いだろう。
それでも、人の住んでいる気配のある小屋の中には、地図やコンパスなんかのこの森から脱出するために役立つアイテムがあるかもしれない。
私たちは危険を承知で、小屋の周辺を探ってみることにした。
住人は外出しているのか、怖いほど静かで物音は一切聞こえない。
小屋には鍵が掛かっていなかった。
こんな森の中だから不要なのかもしれないが、さすがに不用心だろう。
もしくは、すぐに戻るつもりなのか。
そうだったとしたら、今の状況は危うい。
「手っ取り早くめぼしいものを拝借していこう」
「でも、それって泥棒じゃ……」
「こんな状況なんだ。仮に捕まっても情状酌量がつくだろ」
雪成はそう言って、小屋の中を物色し始めた。
気は引けるが、雪成の言うことももっともだ。
懐中電灯に小さなナイフ、ライターなど、役立ちそうなものをビニール袋に詰めていく。
ごめんなさい。
必ず返します。
心の中で懺悔を繰り返しながら、引き出しを手当たり次第に開けていく。
「ひっ!」
引き出しの中身を見て、思わずひきつった声が漏れた。
雪成が「どうした⁉」と引き出しの中を覗き込んでくる。
中には、細長い銃が二丁。
本物の銃なんて初めて見た。
「猟銃か?」
雪成がまじまじと銃を眺めながら言った。
「これはさすがに持っていけないな。使い方もわかんねぇし、暴発でもしたら困る」
「う、うん……」
「危ないから触るなよ。引き出し閉めとけ」
「わかった」
その後もしばらく室内を探してみたが、地図やコンパスは見当たらなかった。
もう少し探していたかったが、いつ家人が戻るとも限らない。
私たちは諦めて小屋を出ることにした。
雪成は小屋にあったリュックの中に、水や食料を詰め込んでいた。
これだけで、何日持つだろう。
不安はやまないが、少なくとも数日は飢えに苦しむことはないだろうと安堵する。
「お前の集めた荷物もこっちにまとめとく」
「私も持つよ」
「いや、ビニールは破れるかもしれない。ほかに鞄もないし、俺がまとめて持ってた方がいいだろ」
「わ、わかった」
大人しく荷物を渡すと、雪成はリュックの外側のポケットに器用に詰めていった。
そしてそのまま、リュックを背負って立ち上がる。
外に人がいないか見渡して、慎重に外へ出た。
そのときーー。
「荷造りは済んだのか?」
突然話しかけられ、心臓が飛び出しそうになった。
恐る恐る振り返ると、そこには短髪の背の高い男が立っていた。
一見すると、笑顔のさわやかな好青年。
鍛えられた肉体は服の上から見ても立派で、まるでアウトドア雑誌の表紙モデルのような風貌だ。
でも私も雪成も、男の顔よりも右手に視線をとらわれていた。
その手に握られた鋭い斧が、鈍い光を放っていたから。




