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55 普通

 雪成の名前が出て、ようやく状況を理解した。

 ここまで回りくどいのは初めてだったけど、今まで似たような状況は何度か経験している。


 目を付けられないように警戒していたつもりだったけど、最近少しガードが緩んでいたのかもしれない。

 そう反省しながら、私は首を横に振った。



「山倉くんとは親が知り合いってだけです」


「で、でも、二人で並んで歩いてたって……」


「家が近所だから、たまたま帰り道が一緒になっただけです」


「……そ、そっか……」



 半信半疑という表情ではあるものの、藤堂さんは明らかに安堵しているように見える。



「あ、このこと……山倉くんには……」


「言いません。話はそれだけですよね?私、トイレに行くので」


「……は、はい」



 くるりと踵を返して、女子トイレの方へ足を動かす。

 正直トイレに行きたいわけじゃないが、早くこの場を離れたかった。


 文句を言われるわけじゃなくてよかった。

 そう思う反面、雪成と私を特別な関係に当てはめるなんて見当違いも甚だしいと苦笑する。


 まとわりつくな。

 彼も迷惑してる。


 そんな言葉を浴びせかけられたことはあったけど、付き合っているのかと問われたのは初めてだった。

 今までは、私と雪成がどうこうなるなんてありえないと考えている子たちばかりだったから。


 まぁ、藤堂さんよりその子たちの方が正しいのだけれど。

 私みたいなのと付き合う物好きなんて、世界中を探してもきっとみつからないだろう。

 卑屈だといわれるかもしれないけど、私は本当にそう思っている。





「かすみん、大丈夫だった?」



 席に戻ると、紅葉ちゃんがぐっと詰め寄ってきた。



「大丈夫って?」


「さっきかすみんが呼び出し食らってたって聞いて」


「呼び出しって、大げさな……。ちょっと話しただけだし、大丈夫だよ。ありがと」


「……ならいいけど」



 いったい何の話だったの、と聞かないのは紅葉ちゃんの優しさなのだろう。

 こうした絶妙な距離の取り方を見ていると、紅葉ちゃんの人付き合いのうまさを実感する。



「何か嫌なことがあったら、我慢せずに言うんだよ?」



 そう言って私の頭をポンポンと撫でる紅葉ちゃんに、じんわりと胸が温かくなった。

 ありがとうといって笑うと、紅葉ちゃんも花がほころぶように微笑んだ。


 前の席の藤堂さんは、まだ戻ってきていなかった。

 チラリと視線を動かすと、教室の入り口付近で友だちと何やら談笑しているのが目に入る。

 雪成の彼女疑惑が晴れたことを報告でもしているのだろうか?

 少し考えれば、そんなわけないってわかりそうなものなのに。


 頬を上気させながら楽しそうにしている藤堂さんを見ていて、なんとも言えない気分になる。

 恋に恋するかわいい普通の女の子。

 そんな藤堂さんをうらやましく思った気持ちは、心の奥底に隠して見えないふりをした。

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