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54 擁護

 朝礼が終わったあとはすぐに移動教室で、藤堂さんは気づくといなくなっていた。

 休み時間のたびに身構えていたけど、その後も藤堂さんは授業が終わると同時に席を立って、授業が始まるギリギリまで戻らないので、話をする機会がなかった。

 もう話はなくなったってことでいいのだろうか。

 そう、胸を撫で下ろしていたのに、昼食を終えたタイミングで、また藤堂さんがこちらを見てプルプル震えていることに気付いてしまった。



「……あの」



 耐えきれずに声をかけると、信じられない勢いで後ずさりされた。

 まるでおばけかゴキブリにでもなった気分だ。

 少しげんなりしながら、私は「やっぱりなんでもないです」と顔をそらした。


 そんな反応をされてまで、話を聞く必要はない。

 ずっと怯えた態度を見せつけられて、少しイラついてしまう。



「ごっ……ごめんなさい……」



 涙目で謝られて、余計にムッとしてしまった。

 朝はこんなにふさいだ気分にはならなかったのに。

 感情のコントロールがうまくできないことを反省して、小さく深呼吸をした。


 周囲からは、まるで犯罪者でも見るかのような非難めいた視線。

 私に泣かされている藤堂さんには、同情的な眼差しが向けられている。



「おい、それやめろって」



 硬い声で言ったのは、川上くんだ。

 やめろと言われても、いったい何をやめればいいのか。

 反論する気にもなれなくて聞かなかったことにしようと思ったのに、なぜか川上くんは私ではなく藤堂さんを軽く睨みつけていた。



「朝からなんなの?藤堂がそんな態度とってたら、霧山が悪いみたいに映るだろ」


「あ……ご、ごめ……」


「だからさ、お前が用があって霧山を見てたから話しかけてくれたんだろ?なのに泣くのはひどくね?」



 まさか庇われるとは思わなくて、正直驚いた。

 川上くんはそのあと私の方を見て、ぴっと指をさしながら「お前も」と続ける。



「朝もあんなんだったんだから、話しかけられるまで無視しときゃいいんだよ」


「あ、ありがと……」


「別に、礼言われるようなことしてねぇし」



 そう言って、ぷいっと川上くんは前を向いた。

 顔は見えないけど、耳が真っ赤になっているから、どうやら照れているらしい。


 紅葉ちゃん以外のクラスメイトからこんな風に庇ってもらうことなんてなかったから、変にドキドキしてしまう。



「あっ、あの!霧山さん!」



 少し上ずった声で、藤堂さんが言った。

 突然だったから、ちょっと驚いて肩が跳ねた。



「……あの、本当にごめんなさい……。少し向こうで話がしたいんだけど……い、いいかな?」


「……はい」



 正直、ついていきたくはない。

 でもこの場で話せないことを話したいというのなら、何を言われるのかと悶々とし続けるよりも、思い切って話を聞いたはうがマシだと腹をくくる。


 教室を出て廊下を端まで進むと、視聴覚室がある。

 その前で藤堂さんは立ち止ったので、私も少し距離を保った状態で足を止めた。



「私、その……霧山さんに聞きたいことがあって……」


「はい……」


「あの……えっと……」



 藤堂さんは目を泳がせながらもごもごとしたあと、意を決したように口を開いた。



「き、霧山さんは山倉くんと付き合ってるんですか……?!」



 そう言った藤堂さんの顔はさっきまでは真っ青だったのに、真っ赤に染まっていた。

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