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47 相性

 雪成の家で聞いた話は、その日のうちに父と共有した。

 母やほのかに知られるわけにはいかないので、こっそりとSNSを通して。


 父が言うには、ほぼ確実に父方の親族のうちの誰かだろう、とのことだった。

 十年以上前から居場所が知られていたことに、ショックを隠しきれていない様子だった。

 ただそこまで神の子に執着する一族であれば、興信所なんかを使って父の消息を追うことも当然だったのかもしれない。


 ただ当時すでに見切りをつけていたということは、狙われる可能性が少ないとも考えられる。

 それだけは安心材料だと父は言った。

 でも、そこまで執着心の強い人たちが子ども一人の言葉を信じるものなのだろうかという疑問は残る。



「私なら……もっと調べるけど……」



 ぽつりと呟いた自分の言葉に、思わず身震いをする。

 悪い想像はどんどん膨らんで、私の心を侵食していく。





 前回悠哉さんと会ってから3週間ほどだったころ、病院から呼び出しがあった。

 悠哉さんが海外から戻ってきたそうだ。

 今回は父だけでなく、母もいっしょに病院へと向かった。


 前回病院内で暴れた父は気まずそうな顔をしていたが、先生たちは何事もなかったように接してくれた。

 母へ事情を知らせるつもりがないことを伝えていたので、配慮してくれたのだろう。


 悠哉さんを見る父の目には少し警戒の色が混ざっていたけれど、悠哉さんは気にしていない様子だった。



「予定よりも遅くなってしまって申し訳ない。ちょっと石集めに苦戦してね」



 そう言って、悠哉さんは細長い箱を取り出した。

 アンティーク調の模様が入った、いかにも高級そうな箱を悠哉さんがそっと開く。


 なかには、6つの石がおさめられていた。



「この中に、君と相性のいい石があればいいんだけど……。手を出してごらん」



 言われるまま手を差し出すと、悠哉さんは私の手のひらに石の一つを乗せた。

 青緑色の、淡い色が美しい石。



「ダメかぁ」


「……乗せるだけでわかるんですか?」


「そうだね。相性のいい石なら、触れている部分のもやを吸い込んでくれるから」



 私の手のひらの石を違うものに入れ替えながら、悠哉さんが言う。

 次の石にも、もやが吸い込まれる様子はない。



「あの、もしも相性のいい石がなかったら……?」



 母が悠哉さんに問いかける。

 悠哉さんは柔らかく微笑んで「大丈夫ですよ」と答えた。



「そのときは違う石を見繕ってきますので、ご安心ください」



 次から次へと入れ替えられる石たちは、どれも当然のようにもやを吸い込んではくれない。

 石はなんでもいいわけじゃない。

 そんな恭太さんの言葉を思い出す。


 今日はだめかもしれない。

 そう考えているうちに、最後の石になった。

 透き通るような鮮やかな黄色のその石は、ほかの石に比べて少しだけ重たい。



「あ……」



 手に乗せたその石に触れたところだけ、妙な感じがする。

 ほかの石とは明らかに違う、異質な感触。

 石をじっと見つめていると、どんどん石の色が濃くなっているように見える。



「悪くないね」



 石を眺めながら、悠哉さんが言った。



「これ、吸い込んでます?」


「吸い込んでるね。色も濃くなってる」


「す……すごい……」


「石に触れているところが痛かったり、気分が悪くなったりしてない?」


「大丈夫です」



 そう答えた私の手から、悠哉さんがひょいっと石を持ち上げる。

 そうして石を明かりに透かすようにして見てから、うんうんと頷いた。



「これを数日試してみようか?問題がなければ、身に着けやすいように加工しよう」


「はい!……あ、でも、高いんじゃ……」


「まあ、安くはないかなぁ」



 困ったように悠哉さんが言う。



「でも、特別価格にしてあげるから大丈夫。加工費込みで1万円くらいかな」


「いや、正規の価格でお支払いします」



 父が言った。

 まだ警戒心の強い目つきをしていたが、形ばかりの笑顔を貼り付けている。



「……10万を超えるかもしれませんが、大丈夫ですか?」


「娘のためならその程度、問題ありません」


「わかりました。では、後ほど正式なお見積額をお出ししましょう」



 そう微笑む悠哉さんに、父は「お願いします」と軽く頭下げた。

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