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「っていうか、本当ごめん」


「えぇ~?別に大丈夫、気にしなくていいよ」



 改めて謝罪する雪成に、宝生さんは軽く返事を返す。

 ひらひらと揺れる手のひらが、なんだかクラゲみたいだ。



「ふたりが仲良しなんて知らなかったよ。学校ではあんまり話してないよね?」


「あー、なんかこいつが嫌がるから、気使ってんの」


「山倉くん、人気あるもんねぇ」


「人気?」



 本人に自覚はないのか、雪成は不思議そうな顔をしている。

 宝生さんはあまり興味がないのか、それ以上は続けずに軽い足取りでどんどん進んでいく。


 握られた手がじんわり温かくて、なんだかドキドキする。

 こうして友だちと手をつなぐなんて、今までならありえなかった。



「うち、割と学校から近いんだよね」


「そうなの?」


「うん。歩いて15分くらい」



 宝生さんの言葉通り、しばらく歩いた先にあるマンションの前で、宝生さんは足を止めた。

 小綺麗なエントランスの先にあるエレベーターに乗り込み、7階のボタンを押す。


 707と書かれた扉の前に立ち「ここ」と宝生さんが言った。



「ラッキーセブンで覚えてね」


「わかりやす……」


「でしょ?」



 宝生さんはそう笑って、カードキーをかざした。

 カチャリ、と金属音が鳴ったかと思えば、宝生さんが扉を開く。

 ホテルみたいでなんだかかっこいい。



「お、お邪魔します」



 人の家に入るのなんて、いつ以来だろう。

 少し緊張しながら玄関へ足を踏み入れる。

 雪成も私に続いて入ってきたが、誰もいないことに気付いて動揺し始めた。



「ちょ、俺本当にお邪魔していいわけ?」


「なんで?別にいいよー」


「いやいや、親が留守の女の子の家に上がり込むって、なんかアレじゃん」


「アレってなに?ほら、気にしない、気にしなーい」



 雪成は顔を引きつらせていたが、諦めて靴を脱いだ。

 宝生さんは私たちをリビングまで案内し、ジュースを出してくれた。

 ただ「しゅわしゅわ平気?」なんて、あまりにもかわいい物言いにぐっときてしまった。



「今日は、かすみんと映画でも観よっかなーと思ってたんだけど、山倉くんもいるし、違うことのがいいかな?」


「映画?」


「ほら、前言ってたDVD」


「え、観たい……!」


「何の映画?」



 思わず前のめりになった私に、雪成が問いかける。

 軽く説明をすると雪成も興味を示したので、そのまま映画観賞会を決行することになった。



「実は、お菓子も用意してあります」



 ちょっと悪い顔をして、宝生さんが大きなビニール袋をテーブルに乗せた。

 どうやら中身は全部お菓子らしい。



「え、悪いよ。いくらだった?私も……」


「いいの、いいの。こないだケーキごちそうになったことママに話したら、お返しにって買ってもらったやつだから」


「いや、俺は払うよ」


「いいからいいから。どうせふたりで食べるには多すぎるし」



 ケラケラ笑う宝生さんを前に、私と雪成は顔を見合わせてから「ありがとう」とそろって答えた。

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