43 訪問
「っていうか、本当ごめん」
「えぇ~?別に大丈夫、気にしなくていいよ」
改めて謝罪する雪成に、宝生さんは軽く返事を返す。
ひらひらと揺れる手のひらが、なんだかクラゲみたいだ。
「ふたりが仲良しなんて知らなかったよ。学校ではあんまり話してないよね?」
「あー、なんかこいつが嫌がるから、気使ってんの」
「山倉くん、人気あるもんねぇ」
「人気?」
本人に自覚はないのか、雪成は不思議そうな顔をしている。
宝生さんはあまり興味がないのか、それ以上は続けずに軽い足取りでどんどん進んでいく。
握られた手がじんわり温かくて、なんだかドキドキする。
こうして友だちと手をつなぐなんて、今までならありえなかった。
「うち、割と学校から近いんだよね」
「そうなの?」
「うん。歩いて15分くらい」
宝生さんの言葉通り、しばらく歩いた先にあるマンションの前で、宝生さんは足を止めた。
小綺麗なエントランスの先にあるエレベーターに乗り込み、7階のボタンを押す。
707と書かれた扉の前に立ち「ここ」と宝生さんが言った。
「ラッキーセブンで覚えてね」
「わかりやす……」
「でしょ?」
宝生さんはそう笑って、カードキーをかざした。
カチャリ、と金属音が鳴ったかと思えば、宝生さんが扉を開く。
ホテルみたいでなんだかかっこいい。
「お、お邪魔します」
人の家に入るのなんて、いつ以来だろう。
少し緊張しながら玄関へ足を踏み入れる。
雪成も私に続いて入ってきたが、誰もいないことに気付いて動揺し始めた。
「ちょ、俺本当にお邪魔していいわけ?」
「なんで?別にいいよー」
「いやいや、親が留守の女の子の家に上がり込むって、なんかアレじゃん」
「アレってなに?ほら、気にしない、気にしなーい」
雪成は顔を引きつらせていたが、諦めて靴を脱いだ。
宝生さんは私たちをリビングまで案内し、ジュースを出してくれた。
ただ「しゅわしゅわ平気?」なんて、あまりにもかわいい物言いにぐっときてしまった。
「今日は、かすみんと映画でも観よっかなーと思ってたんだけど、山倉くんもいるし、違うことのがいいかな?」
「映画?」
「ほら、前言ってたDVD」
「え、観たい……!」
「何の映画?」
思わず前のめりになった私に、雪成が問いかける。
軽く説明をすると雪成も興味を示したので、そのまま映画観賞会を決行することになった。
「実は、お菓子も用意してあります」
ちょっと悪い顔をして、宝生さんが大きなビニール袋をテーブルに乗せた。
どうやら中身は全部お菓子らしい。
「え、悪いよ。いくらだった?私も……」
「いいの、いいの。こないだケーキごちそうになったことママに話したら、お返しにって買ってもらったやつだから」
「いや、俺は払うよ」
「いいからいいから。どうせふたりで食べるには多すぎるし」
ケラケラ笑う宝生さんを前に、私と雪成は顔を見合わせてから「ありがとう」とそろって答えた。




