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34 連絡先

「今は濃いもやじゃないと感知できないだろうけど、慣れてきたら普段の量のもやでも感知できるようになると思う。次に会うときまでに、意識的にもやの存在を感じ取れるよう頑張ってごらん。ただストレスをためるのはよくないから、無理のない範囲でかまわないよ」


「はいっ」


「次はいつにしようか?僕としてはここでやってもいいんだけど、病院でやらないと姉さんたちがうるさそうだしなぁ。都合のいい曜日とか時間帯とかある?」


「いえ、私はいつでも」


「そう?」



 正直私も、病院よりもここの方が安心して訓練に取り組める気がする。

 気遣ってくれる小春さんや先生たちには申し訳ないけど、みんなに注目されながら何かをやるのは苦手なのだ。

 安全性が高いのは病院だろうけど、訓練自体に危険性を感じたことはないし。


 ただ病院側としても、珍しい症例のデータがほしいのだろう。

 それだけが理由じゃないことはわかっているけど、なんだか自分がモルモットのように思えて、時折気分が沈む。



「日程すりあわせて、連絡してもらうようにするね」


「よろしくお願いします」


「ついでに僕たちも交換しとく?連絡先」


「え?」


「特別ね」



 恭太さんがスマホの画面を私に向ける。

 まめにスマホをチェックするタイプじゃないから、返信が遅くなっても気にしないようにと、なぜかマスターが熱弁してきて笑ってしまった。

 ちなみに、マスターからの連絡の大半は既読スルーらしい。

 さらに、なかなか連絡先を教えてもらえず、手に入れるのに3年かかったのだとか。

 だからこんな短時間で、恭太さんから連絡を教えてもらえるのは相当珍しいことなのだそう。


 でもそんなことをぐちぐち言い続けるマスターを見る恭太さんの顔はどこか楽しそうで、きっと連絡先を教えなかったのは、からかうのが面白かったからなんだろうな、とわかってしまった。





 ほどなくして病院から家に電話がかかってきた。

 詳細は来院時にきくことになったこと、そして両親が次の訓練に参加することになったと聞かされ、私はうなだれた。

 また母が暴走して泣き出すんだろうなと憂鬱な気分でいたが、当日、なぜか同席したのは父だけだった。

 母も出かける準備をしていたが、急な腹痛に襲われてしまったのだ。


 薬を飲んで多少落ち着いたが、無理はいけないと父が説得して、母は泣く泣く留守番することになった。

 私としてはありがたい状況だけど、無言で私の隣を歩く父と二人きりの状況は、なかなか居心地が悪い。



「ずいぶん、久しぶりに来たな」



 病院の前で、ぽつりと父が言った。

 病院にはいつも母と二人で通っていたので、父がついてきたことは数えるほどしかない。


 受付を済ませ、いつもの会議室へ通されると、すでに先生や恭太さんの姿があった。

 父は恭太さんを見て、少し驚いたような顔をしたけど、すぐに先生へ視線をうつして大人の挨拶を交わしていた。

 恭太さんが美人だったから戸惑ったのかな、と思ったけれど、それにしてはこわばった表情だったことが気になった。

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