30 両親
「なんっでそんなに大事なこと、黙っとくかなぁ~」
心底呆れかえった声で、のどかが言う。
帰宅後すぐにのどかの部屋に向かい、ことの顛末を話した。
のどかは最後まで話を遮らずに聞いてくれたが、話し終えた後の第一声がこれだ。
私はうなだれながらも反論することはできず、大人しくのどかのお説教に耳を傾ける。
「大体お姉ちゃんは、周りに気を使いすぎなの。確かにうちの両親は過保護だし、ちょっと……だいぶ?おおげさだけど」
「……反省してます」
「ほんとかなぁ?ま、過ぎたことはしょうがない。じゃあ、さっそく言いに行こ」
「えっ!今から?」
「うん。もうお父さんも帰ってきてるじゃん」
善は急げと言わんばかりに、私の手をのどかがグイグイと引いて、のどかの部屋から連れ出されてしまった。
リビングでは両親がそろってテレビを眺めている。
「お父さん、お母さん、今ちょっといい?」
「んー?どうしたの?」
のどかの声に、母がリモコンの停止ボタンを押す。
きりが悪かったのか、父が「あぁっ」と情けない声を漏らした。
「ちょっとお姉ちゃんの話きいてほしいんだけど」
「かすみの?」
「どうした?」
両親に改まって話をするなんて、いつ以来だろう。
心配と不安の入り混じった両親の視線に、思わず逃げ出したくなる。
つながれたままののどかの手をぎゅっと握ると、大丈夫だとでもいうように握り返してくれた。
「実は……」
私は、さっきのどかに話したように、病院でのことを包み隠さず話した。
両親は黙って聞いてくれたけど、母は泣きそうな顔、父は眉間にしわを寄せて難しそうな顔をしている。
「じゃあ……じゃあ、かすみの病気がついに治るのね?」
「多分……」
「なんてこと……!ようやく……ようやく……」
堰を切ったかのように泣き出した母の背中を、父がそっとさする。
私はいたたまれない気持ちでそれを見ていた。
だから、母に話すのは嫌だったのだ。
こんな風に泣かれても、私には何もできないから。
父は何も言わなかった。
ただ母の背中をさするだけで、父の血筋の話題を出してからは、私から目をそらして一度も戻さなかった。
それだけの確執があるのだろうとは思ったが、それでも私の苦しみよりも自分の都合を優先されたようで悲しかった。
「近々病院から連絡あると思うから」
それだけ言って、私は自分の部屋へと一目散に逃げだした。
心臓がうるさいくらい脈打っていて、死んでしまいそうだ。
わけがわからないままあふれてきた涙をぬぐいながら、私はその場にへたりこんだ。
そのとき、ふいにノックの音が響いた。
私を呼ぶのどかの声が、少し遠くで聞こえる。
「大丈夫?」
「……大丈夫」
「そう」
こういうとき、のどかは無理にドアを開けたりしない。
私が一人になりたいって知ってるから。
それがうれしいはずなのに、どうしてだか暗い部屋にひとりでいると、孤独に押しつぶされそうになる。
一人になりたいのに、一人が寂しいなんて、ばかみたいだ。




