28 感覚
もやを吸い込む石は、なんでもいいというわけにはいかないのだと悠哉さんは言う。
悠哉さんが身に着けているのは、ミルキークォーツという水晶のひとつなのだそうだ。
しかし石との相性には個人差があるため、自分に合う石を探す必要があるらしい。
「次に会うときに、いくつか候補を絞ってもってこよう。実際に相性を試してみるのが一番だからね」
「わ、わかりました!」
「ただ、入手に時間のかかる石もある。それに俺も国外にでなくちゃいけないから……次回は2週間後くらいでもいいかな?」
「大丈夫です。お手数をおかけしてすみません」
次回悠哉さんに会うまでに、私はもやを動かす練習をすることになった。
もやは自分の意思で動かすことはできないと、ずっと思って諦めてきた。
でも、希望を持っていいんだ。
そう思うだけで、心が躍る。
「感覚さえつかめばすぐなんだけど、それがなかなか難しくてね。今の霧山さんにとって、もやは髪の毛のようなものでしょ?頭を振ったり、手を使ったりして動かすことはできるけど、髪の毛だけを自在に動かすことはできない」
「確かに……」
「だからまずは、もやの感覚を認識すること。そこから頑張ってみよう」
「もやの感覚、ですか?」
「そう。こっちにきて、俺のもやに触れてごらん」
そう言って、悠哉さんはまた目を伏せた。
ゆっくりともやが湧き出してくる。
そっと手を伸ばしてもやに触れると、なんだか不思議な感覚がした。
感触なんかあるはずないのに、なんだか指先にまとわりつくような違和感。
ほのかな温かさも感じる気がする。
でも、それを感じ取れたのは私だけで、小春さんと凪さんには何の感覚もないという。
悠哉さんが目を開けると、ふっともやが消失する。
深いため息をつく悠哉さんは、少し疲れて見えた。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「あ~……ごめんごめん。もやを出すには怒らなきゃいけないんだけど、さっきも言ったように怒るのって苦手でね」
申し訳なくなってうつむくと、大丈夫だと悠哉さんが頭を撫でてくれた。
「ところで伯父さん、どうやって怒ってたの?」
好奇心に負けたのか、凪さんが問いかける。
悠哉さんは困ったように笑って「ないしょ」だと濁した。
「もやは自分のものより人のものの方が感知しやすいんだ。慣れてきたら、自分のもやの感覚もつかめるようになると思うよ。恭太に付き合うよう頼んであるから、凪を通して予定をすり合わせるといい」
「あ、ありがとうございます。でも、ご迷惑になるんじゃ……」
「子どもがそんなこと気にしないの。それに、俺も恭太も同じように、周りのサポートを受けてきたんだから。どうしても引け目を感じるのなら、次の世代の子を助けてあげればいい」
ゆっくりと諭すようにいう悠哉さんの言葉に頷いて、私は「よろしくお願いします」と頭を下げた。




