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26 タイプ

「ちょっと伯父さん!なんでそんな大事なこと、先に教えといてくれないのよ」


「今言ったからいいじゃないか」


「本当にもう!」



 凪さんはぷりぷり怒っているが、悠哉さんは軽く受け流す。

 そしてページをめくる手を止めて、机の上に置いた。



「読めるかな?ここにもやの種類について書かれてる」



 目を凝らしてじっと見てみたけど、やっぱり達筆すぎて、ぐにゃぐにゃの線が並んでいるようにしか見えない。

 ところどころ読める文字はあっても、その前後が読み取れないので意味がない。



「……すみません、読めないです……」


「私も……」


「伯父さんは読めるんでしょ?解説してよ」



 小春さんと凪さんにも、この本を解読することは難しいようだ。

 凪さんに急かされ、悠哉さんが軽く咳ばらいをして口を開く。



「もやには、大きく3つの種類がある。怒りの感情にのみ誘発されるもの、負の感情によって引き起こされるもの、そしてすべての感情が引き金となるもの。……恭太は負の感情によって引き起こされるタイプだが、話を聞く限り、霧山さんは最後のすべての感情が引き金となるタイプなのだろうね」


「すべての感情が……」


「一番珍しいタイプだよ。レアってやつだねぇ」



 ふふふ、と悠哉さんが笑う。

 正直、珍しくてもレアでもまったく嬉しくない。

 なんでもないことのように話す悠哉さんに、少しだけむっとした。



「ちなみに俺は、怒ったときしかもや出ないんだよね。でも怒るのってなかなか難しいから、なかなか出せないんだ」


「は、はあ……」



 まるでもやが出ないのが残念、みたいな言い方だ。

 四六時中もやを垂れ流している私からすれば、うらやましいことこの上ないのに。



「おっと、気を悪くさせちゃったかな。申し訳ない」



 悠哉さんがそう言って、私は慌てて首を振る。

 そうしてごまかしたところで、もやのせいで筒抜けだとはわかっているけれど。



「トリガーが多い分、あなたのタイプが一番コントロールに苦労するものだからね。今まで苦労も多かったでしょう」


「……はい」


「時間はかかるかもしれないけど、しっかり訓練すればコントロールできるようになるよ。心配しなくていいからね」



 優しく言われて、思わず涙があふれた。

 悠哉さんはうんうんと頷いて、ハンカチを差し出してくれた。

 きれいにアイロンのかかった、格子柄の青いハンカチ。

 柔軟剤だろうか、ほのかに香る花の匂いが心地いい。



「今までよく頑張ってきたね。ひきこもることもなく、学校にもきちんと通って、えらいえらい」



 小さな子どもをあやすような口ぶりに、つい笑ってしまった。

 泣き笑いで絶対に私は今変な顔をしているはずなのに、誰も笑ったりしなかった。

 小春さんの手が私の肩を支え、凪さんがよしよしと頭を撫でてくれる。


 私から漏れ出すもやはどんどんあふれて、部屋いっぱいを満たしていく。

 それでも、悠哉さんも小春さんも凪さんも、嫌な顔はしない。

 その温かさが無性にうれしくて、私はしばらく涙を止めることもできずに泣きじゃくっていた。

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