25 伯父
翌日の放課後、私はまた病院に来ていた。
今日は、凪さんと恭太さんの伯父さんとの面会日。
通された会議室には、まだ誰も来ていなかった。
案内してくれた小春さんが言うには、先生は都合がつかず、リモートでの参加も難しいらしい。
十分ほど待ったころだろうか。
コンコンと軽やかな音が部屋に響いた。
それからすぐに開いた扉から顔をのぞかせたのは、私服姿の凪さんだった。
今日はお休みだと聞いていたけど、わざわざ顔を出してくれたらしい。
「お待たせしてすみません!ほら、早く!」
凪さんに急かされて入ってきたのは、恭太さんによく似た壮年の男性だった。
だぼっとしたTシャツとジーンズが、ミステリアスな雰囲気にミスマッチなのになぜか似合っている。
「うちの伯父です。すみません、この人本当にマイペースで、全然急いでくれなくて」
「大丈夫。時間ぴったりよ」
苦笑して小春さんが言う。
凪さんは深いため息をつきながら、伯父さんに私と小春さんを紹介している。
小春さんが大人なご挨拶をするのを見て、私もペコリと頭を下げた。
「初めまして。昨日は悪かったね」
「あ、いえ。飛行機、飛ばなかったって」
「そうそう。困っちゃうよねぇ」
ちょっとぼんやりしたしゃべり方。
凪さんもマイペースだって言ってたし、のんびりした人なのだろう。
「改めまして、三雲悠哉といいます。霧山かすみさんは、君かな?」
「は、はい!今日はありがとうございます!」
「うんうん。元気があって何より」
そう言って、悠哉さんは鞄をごそごそとあさり始める。
大きめのバッグの中から、何冊かの本が見え隠れしている。
そのうちの一冊を取り出して、悠哉さんは机の上に置いた。
タイトルの記載がない、革表紙の古びた本は、相当年季が入っているようだ。
周囲を縁取る幾何学模様が、よりアンティークっぽさを強調している。
「この本は?」
小春さんが訊ねる。
「我が家に代々伝わるもので、もやについての古い記録が記されているんだよ」
「もやについて?」
「そう。うちの家系では、それなりの確率でもやの出る子どもが生まれるんだ。対処法なんかは口伝だったんだけど、何代か前の当主が本にまとめたらしい。もやと一口に言っても、子どもによって特徴は異なるものだからね」
「なるほど……」
「ちなみに、うちは分家でね。この本は本家からの借りものなんだ。……本家は九州にあるから、もしかしたら君のお父さんの出身地の近くかもしれないね」
パラパラとめくられた本には、ずいぶん達筆な文字が並んでいて、とてもじゃないけど読めそうにない。
小春さんも同じようで、眉間にしわを寄せて難しそうな顔をしている。
「この本にも、もやは遺伝によって発生しているのではないかと考察されている。つまりは、私と君は遠い親戚かもしれないってことだね」
悠哉さんの言葉に目を見開くと、まったく同じ表情で凪さんも悠哉さんを見ていた。
どうやら凪さんも、何も聞かれていなかったようだ。




